親であっても人間同士。基本に立ち返って見えること
仕事が忙しいことを理由になかなか親に会わず、久しぶりに会うと「年を取ったなあ…」と思うことも。私たちができる親孝行とは? そのヒントをもらえる本をご紹介。
親と話しておくべきことを具体的に教えてくれる本
『親が生きているうちに話しておきたい64のこと 親とさよならする前に』
離れて暮らしていても、同居していても、年末年始は親と過ごすことが多い時期。自分が大人になったぶん、親は老いている。これから親が病気になったら? 介護が必要になったら? 別れの日がくるまでに孝行したい……。親についていろんなことを考えさせられるだろう。
清水晶子の『親が生きているうちに話しておきたい64のこと 親とさよならする前に』は、そんなときに役立つ本だ。葬祭ディレクター、終活カウンセラーとして活躍する著者が、自らの経験をもとに、親が元気なうちに話し合っておくべきことを教えてくれる。
この本が信頼できるのは、親子は最初からわかりあえないのがあたりまえというスタンスで書かれているところだ。親を他人のように見直すことによって、今の自分にできることが明確になる。たとえば「親と距離を縮めるための5つのポイント」のひとつに、著者は「親を取引先だと考える」ことを挙げる。どんなに苦手な人でも、仕事の取引先だと思えば努力して歩み寄るはず。
親との関係がぎくしゃくしていても、何かあれば必ず子供にふりかかってくる。いくら仲のいい親子でも、お金が絡んだらどうなるかわからない。問題が発生したときに慌てるよりは、事前に準備しておいたほうがいい。
『親が生きているうちに話しておきたい64のこと 親とさよならする前に』(サンクチュアリ出版)
著/清水晶子
体・心の話、病気・介護の話、お墓・お葬式の話、お金の話、相続の話、実家の片づけの話。親と相談しておいたほうがいい6つのテーマを取り上げ、円滑にコミュニケーションをとる方法をわかりやすく伝授する本。親の死後、後悔しない決断をするために役立つ。
母と娘の悔恨を描く韓国発ベストセラー小説
『82年生まれ、キム・ジヨン』
育ててくれた親には感謝している。でも、孝行を強いられるのは息苦しい。韓国で100万部を突破するベストセラーになったチョ・ナムジュの『82年生まれ、キム・ジヨン』を読むと考えさせられる。ある日突然、奇妙な病気を発症した主婦キム・ジヨンを通して社会にはびこる女性差別を静かに告発した小説だが、母と娘の物語としても読みごたえがある。キム・ジヨンの母オ・ミスクが、もうひとりの主人公といっていいくらい魅力的な人物なのだ。
オ・ミスクは兄弟のために進学と教師になる夢をあきらめて働きに出た。母になると、経済危機にも負けず子供たちを育て上げる。
非常に賢くてたくましく、また尊敬できる女性なのだが、彼女は望まない自己犠牲に対する後悔と恨みを引きずっている。自分の人生を最優先しながら、親が子供だった時代に何がつらかったか話を聞くだけでも孝行になるのではないだろうか。
『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)
著/チョ・ナムジュ
訳/斎藤真理子
1歳の娘を育てているキム・ジヨンは、「ママ虫」(母親に対する蔑称)と言われたことがきっかけで、別人に憑依されたようになってしまう。病の原因を探るうちに、女性たちの絶望が浮かび上がる。チョン・ユミ&コン・ユ主演で映画化された話題作。
2019年Oggi12月号「『女』を読む」より
撮影/よねくらりょう 構成/宮田典子(HATSU)
再構成/Oggi.jp編集部
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石井千湖
いしい・ちこ/書評家。大学卒業後、約8年間の書店勤務を経て、現在は新聞や雑誌で主に小説を紹介している。著書に『文豪たちの友情』、共著に『世界の8大文学賞』『きっとあなたは、あの本が好き。』がある(すべて立東舎)。