相手は自分とは違う考えや信念をもっている… 人の話の聞こえ方が変わる聞く技術
後輩から恋愛の悩みを打ち明けられた。日々の仕事が忙しくて、自分の恋愛だってままならないというのに、いいアドバイスなんてできるのだろうか… と、構えてしまう。仕事ならまだしも、私生活のこととなると、どう答えてあげたらいいのかオロオロしてしまい、結局、的外れなことしか伝えられなかった気がする。
人の話を聞くって、なんだかしんどい。これってどういうこと?
名越さんが回答!
人の話を聞くときに、そんな風に構えてしまったら、とても疲れてしまいますね。恋愛相談に限らず、自分が何か答えを求められていると感じたら、まず相手の方に「あなたはどうしたいと思っていますか?」と、最初にたずねてみましょう。
これは“魔法の言葉”で、自分が漠然と相手の悩みをすべて受け止めてしまうのを防いでくれる上に、相手がどこで行き詰まっているのかを正確に摑むことができます。相談する側も自分なりの案を述べることで、頭が整理される可能性もあります。
その上で、「私ならこう考える」「そうするよりは、こうしたほうがいいのでは」といった話をすれば、自分の立ち位置もすっきりします。
「聞いてはいる」けど、「聞けていない」という事実
そもそも、人の話を聞くって、難しいものなのです。実際、多くの人は「聞いてはいる」が「聞けていない」状態。
相手の話を素直に聞いているようで、どうしても自分の経験や知識に当てはめて勝手に納得したり、だれかを悪者にした手っ取り早い理屈をつけてしまうもの。そうなると、相手の真意はわからないままです。
本当に人の話を聞こうとしたら、「相手は自分とは違う経験やとらえ方をしている」ということを常に意識して聞いていないといけません。「人間というものは常に人の話を誤解する」という前提を意識にもつだけで、人の話の聞こえ方が違ってきます。
よく「話せばわかる」と言うけれど、実はこういう意識をもったときに初めてできることです。
でもこの「聞く技術」を身につけることができると、ふたつのメリットがあります。ひとつは用心深くなるので、「聞けていない」ことによる伝達ミスや理解の不一致などがなくなり、仕事がスムーズに進みます。もうひとつは、人の失敗を許せるようになること。
そもそも伝わらなくて当然という意識があれば、「人間だからミスもあるよね」と思えて、次に何をするべきか、という建設的な考えに即切り替えられます。
ミスをした後輩に対して、「なんでこんなこともわからないの…」と怒りや失望を引きずるより、早く軌道修正したほうが効率的だし、次は失敗しないようにと的確な改善方法を考えるほうがいいに決まっているのです。
世間を見ていて、人の話を聞けるようになった人は「出世が早い」ことがわかります。人間は自分の考えの枠外にはなかなか出られない。この基本を知ったら、明日から対人関係が変わってゆくはずです。
2019年Oggi5月号「名越康文の奥の『ソロ』道」より
イラスト/浅妻健司 構成/宮田典子(HATSU)
再構成/Oggi.jp編集部
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名越康文(なこし・やすふみ)
1960年、奈良県生まれ。精神科医。臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など幅広く活躍中。著書に『SOLO TIME「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)ほか多数。