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LIFESTYLE

2020.01.06

今さら読んでないなんて言えない!? 抑えておくべき名著2選

書評家の石井千湖さんが、テーマごとにおすすめ本を紹介してくれる人気連載。今回のテーマは「名著」。

だれもが知る名著を一気読み!
嚙めば嚙むほどに味わい深い、一葉&漱石のあの名著

新しい1年のはじまり。「実は未読…」のあの名著に挑戦してみませんか? 読んだことがあるという人も、再読するたびに新たな気づきに出合える名著の深みを楽しんで♪

1『にごりえ・たけくらべ』
美しい日本語のリズムを堪能する樋口一葉の傑作選

年末年始の休暇は、ふだん読めない名作に挑戦してみたい。たとえば、日本人女性初の職業作家であり、五千円札の肖像としてもおなじみの樋口一葉はどうだろう? 『にごりえ・たけくらべ』は代表作が収められた短編集だ。

一葉の文章はセリフにカギカッコがついていないし、現代語訳が出ているくらい古めかしい。でも、重要なのはストーリーではないから原文をおすすめしたい。美しい言葉のリズムと明治時代の庶民の暮らしぶりを生き生きと描写したくだりに、引き込まれる。

まずは最も有名な「たけくらべ」からどうぞ。吉原の遊郭に住む美登利と、僧侶の息子・信如の話だ。ふたりは同じ学校に通っていたが、ある日、つまずいて羽織を汚した信如に美登利がハンカチを貸したことから周りにからかわれてしまい…。お互いを意識するあまりに素直になれない。幼い恋のすれ違いにキュンとする。遊女になることが決まっている美登利と、寺を継ぐ信如の生きる道が分かれる結末も切ない。

「大つごもり」は、大晦日の日、困窮した伯父一家を助けるため奉公先の家の金を盗む少女の話だ。自らも経済的な辛苦を味わっていた一葉。貧しい人々に向ける眼差しは温かい。

『にごりえ・たけくらべ』
著/樋口一葉 新潮文庫
近代日本を代表する天才女性作家の傑作選。遊女となじみの客が情死するまでの経緯を語った「にごりえ」、吉原を舞台に少年少女の淡い恋と別れを描いた「たけくらべ」、ある家で大晦日に起こった盗難事件の顚末が心温まる「大つごもり」など8編を収録する。

2『吾輩は猫である』
夏目漱石のとにかく猫がかわいい代表作!

かつて千円札の顔だった夏目漱石のデビュー作にして代表作といえば『吾輩は猫である』。〈吾輩は猫である。名前はまだ無い〉という書き出しの一文を知らない人はあまりいないだろう。中学教師・苦沙弥(くしゃみ)先生の家で飼われている猫が、見聞きしたことについて語っていく。難しい言葉も使われているけれど、ユーモア小説だから怖がる必要はない。

なんといっても猫がかわいい。特に面白いのが、お正月のエピソード。「吾輩」は残り物の餅を盗み食いする。生まれて初めての餅だったので、うまく嚙み切れず、なんとか飲み込もうと暴れているうちに、踊りだしてしまうのだ。人間を観察する眼は鋭いのに、普通の猫と同じようにしか行動できず、ドジなところも愛おしい。

苦沙弥先生の家に集う男たちは、頭はいいが変人ぞろい。そのうちのひとり、寒月の縁談をめぐる騒動は笑える。親しみやすく何度読んでも飽きない一冊だ。

『吾輩は猫である』
著/夏目漱石 新潮文庫
明治時代の知識人のおかしな生態と日本の社会を名もなき猫の視点で観察した漱石の初長編小説。猫の飼い主・苦沙弥先生は発表当時に東京帝国大学の教師だった漱石自身、元教え子の寒月は物理学者で随筆家の寺田寅彦がモデルといわれている。

2019年Oggi2月号「『女』を読む」より
撮影/よねくらりょう 構成/宮田典子(HATSU)
再構成/Oggi.jp編集部

TOP画像/(c)Shutterstock.com

石井千湖

いしい・ちこ/書評家。大学卒業後、約8年間の書店勤務を経て、現在は新聞や雑誌で主に小説を紹介している。著書に『文豪たちの友情』(4月13日発売予定)、共著に『世界の8大文学賞』『きっとあなたは、あの本が好き。』がある(すべて立東舎)。

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