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LIFESTYLE

2019.02.10

エッセイスト紫原明子さんおすすめ。離婚や失敗から立ち直れる漫画とは?

正しい負け方を知っていれば、心がスッと軽くなる。エッセイスト紫原明子さんが選ぶ、アラサー女子にぴったりな本を紹介するミニ連載Part1。

紫原明子

仕事にプライベートに、悩みの尽きないアラサー女子。頑張り過ぎて疲れていませんか? そんな私たちの気持ちに寄り添ってくれ、思わず共感してしまう本を3冊ご紹介します。

エッセイスト・紫原明子さん

紹介してくれるのは、斬新な切り口で女性の生き方を語るエッセイスト・紫原明子さん。読んだ後、ちょっぴり元気になれる本に出会ってみませんか?

1冊目はすべての人の人生はボロボロに負けてからが本番!『ちひろさん』(安田弘之/秋田書店)という漫画です。

何もかもがうまくいかないときに考えたい“負け”

仕事でやらかしたとき、恋で傷ついたとき、親とうまくいかないとき、結婚生活がままならないとき。情けなくて、辛くて、寂しくて、一人で抱えきれそうにないことなんてしょっちゅうある。にも関わらず、結局は誰にも打ち明けられずに、ひとり抱え込んでやり過ごすこともまた、同じくらいしょっちゅうある。

うまくいかないことを他人に打ち明けられないのは、往々にして敗者の烙印を押されたくないからだ。可哀想だと思われたくない。不幸だと思われたくない。努力が足りないとも思われたくない。“負けてる”と、思われたくない。

だけどよく考えてみたい。負けって、そんなに悪いことなのだろうか。

紫原明子さんが経験した離婚からのどん底生活

どん底生活
(c)Shutterstock.com

僭越ながら私には離婚歴がある。かつての夫は事業に成功した資産家だった。離婚とともに、プール付きの高級マンションから、築50年、エレベーターなしのアパートに引っ越した。

■地道で地味な生活を強いられる

何せ古いので、家のいたるところにほころびが出てきている。越してきた直後からあやしかった洗濯機の排水管は、ついに今年、完全に詰まって使えなくなった。業者の人にももはや手の施しようがないらしい。そこで今は、長いホースを使って毎度、お風呂場に排水を流している。あまりにも地道で地味な作業だ。

この姿がすっかり板についた30年後、私は妖怪水流しババアとして地域に名を馳せているのではないかと心配になる。(現実にはおそらく家の方がそこまでもたないだろうけれど)

■離婚する前は…

かつて住んでいた高級な賃貸には、ドイツ製の洗濯機と、ガス乾燥機が備え付けられていた。まさか排水が流れないなんてことはあるはずもなかった。何不自由ない疑似ドイツから、地を這うようにホースをたぐる妖怪への華麗なる転身。一般的な尺度で測れば幸せの絶頂から不幸のどん底への大転落人生である。

人生ボロボロになって気付いたこと

ところがそんな私の現在はというと、その実そんなに悪くない。信じてもらえないかもしれないけれど、強がりだと思うかもしれないけれど、正直なところそんなに悪くないのだ。むしろ、常時デフォルトで心に乗っかっている石の重さを比べれば、昔より今のほうが断然軽やかなのである。

■現状にしがみついていたときは必死だった

思えば、誰の目から見ても幸せに違いないという状態を必死で維持し続けようとしているとき、私はずっと不自由だった。少しでも気を緩めて、今ここにあるはずの幸せを手放してしまったら、二度ともとには戻れない。そんな焦りから、必死で現状にしがみついていた。手放せば負ける。負けるのは恥。負けたら死ぬ、と思っていた。

■人生に血が通った瞬間

ところが負けてみてわかったことに私は案外とタフで、負けたって死ななかった。他人に哀れみの目を向けられようが、同情されようが、私はエスパーにうまれなかったので他人の心の中を覗き見ることなどできるはずもなく、従って痛くも痒くもなかった。体に力を入れて、必死でしがみつくことをやめたおかげで、私はどこまでも自由になれた。私は勝ち越せなかった。だからこそ、人生に血が通った。

人生に血が通った瞬間
(c)Shutterstock.com

本当の大人の第一歩とは?

だから今はこんな風に思う。負けたくない、負けたくないと抗いながら、とうとう、どん底まで負けて、全身に隙間なく他者からの敗者の烙印を押されたような気になって、もう再起不能、というところまでやってきて、それでも“……あれ、私、動けるみたい……”と、はたと意識を取り戻したとき、私たちはようやく、真の自由を手にしている。そして、そこでようやく、本当の大人としての一歩を踏み出すのだ。

だから、負けることはぜんぜん怖いことじゃない。私たちは負けてはじめて、古い皮を脱ぐ。つまり負けとは、私たちが一人前の大人になるために決して避けては通れない、神聖なるイニシエーションにほかならないのだ。

紫原明子さんが共感した漫画『ちひろさん』

主人公の元風俗嬢・ちひろは、海辺の小さな弁当屋で働き始める。そこではさまざまなお客さんに人には言えない悩みを持ちかけられ、孤独な自分を振り返り、彼女自身の生き方に答えをだしていく。そんな姿に紫原明子さんは共感したのかもしれません。

漫画『ちひろさん』

今後2回続く予定のこの連載では、私たちに正しい「負け方」のヒントを与えてくれる、優れた作品たちをご紹介します。

2冊目は漫画『おやすみカラスまた来てね。』(いくえみ綾/小学館)です。お楽しみに!

『ちひろさん』安田弘之 1~9巻発売中 発行:秋田書店

紫原明子

エッセイスト。1982年生まれ。個人ブログ『手の中で膨らむ』が話題となり執筆活動を本格化。2児のシングルマザー。著書に『家族無計画』(朝日出版社)、『りこんのこども』(マガジンハウス)がある。

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