仕事にプライベートに、悩みの尽きないアラサー女子。頑張り過ぎて疲れていませんか?そんな私たちの気持ちに寄り添ってくれ、思わず共感してしまう本を3冊ご紹介します。
紹介してくれるのは、斬新な切り口で女性の生き方を語るエッセイスト・紫原明子さん。読んだ後、ちょっぴり元気になれる本に出会ってみませんか?
2冊目は嘘の上手な私たちの痛みにそっと寄り添ってくれる『おやすみカラスまた来てね。』(いくえみ綾/小学館)という漫画。
大人の最低限なマナーって?
子どもはムッときたらすぐ「バカ!」って言う。悲しくなったら声を上げて泣く。ちょっと食べすぎて私のお腹の主張が強くなると「ねえ、赤ちゃんいるの?」ってストレートに聞く(いないんだよ~って言う)。
■大人たちの沈黙のルール
だけど大人はそうじゃない。大人は、ムッときてふと口をついて出そうになった「バーカ!」を、ぐっと飲み込むし、悲しくて大声をあげて泣きたくたって、奥歯をぐっと噛んでこらえる。電車に乗っていて(……あの人、妊婦さんかな? 席を代わった方がいいかな?)と思っても、違ったら悪いので人知れず悶々と思い悩む。
そんな風に私たちは毎日、たくさんの嘘をつく。30年も生きてればそんなのとっくに当たり前のことになっているから、別に今更気に留めもしない。辛くもないし、苦しくもない。罪の意識なんてない。世の中の平和と秩序を守るための嘘を許容し合うのは、私たち大人の、最低限のマナーだ。
■見ないようにしてきた嘘を見抜くずるい人
……だけどごくたまに、見ないことにしてきた嘘、飲み込んできたたくさんの本当を、無邪気にもするすると引き出してしまう、罪作りな人がいる。
心の奥底に埋めてきたずっと言いたかった言葉、ずっと認めたかった感情、ずっと許したかった自分。そういうものが埋まっている場所を巧みに見つけだして、何の気もなしに、ほらそこって、ニコニコしながら言い当ててくる、ずるい人がいるものなのだ。
『おやすみカラスまた来てね。』に登場するヒモ男
漫画『おやすみカラスまた来てね。』(いくえみ綾/小学館)の主人公、バーテンダーの十川善十(24)は、まさにそういう男だ。
札幌のメンズパブで働いていた善十は、激務により体を壊しかけたところを、店の常連客だった紅央に拾われ退職→ヒモ化。ところがある日、唐突に紅央に別れを切り出される。なにしろ紅央は今年30、無職の男と遊んでいられる猶予はないのだ。
紅央とよりを戻すためにも早急に仕事を見つけなければならなくなった善十は、何気なく足を踏み入れたオーセンティックバーでマスターに直訴、幸運にも翌日から働けることとなった。ところが指定された時刻に店を訪れると、予想もしなかった事実に直面する……。
■憎めない彼に本当の姿を見せてしまう
作中、善十のまわりの人は、良かれ悪しかれ、大なり小なり、善十にいろんな嘘をつく。ささいなところでは元カノ紅央の年齢詐称から始まり、そりゃもう、さまざまな嘘を。ところが不思議なことに、みんな次第に、ときになにかに導かれるように、善十にだけは、本当の姿を見せざるを得なくなってしまうのだ。
物語の途中、ある女性を前にした善十は、内心さまざまな葛藤を抱えつつもこう断言する。
「僕は○○さんの「裏」もいいと思います!」(※○○さんが誰かはぜひ本編でお楽しみください)
■実はヒモ男には使命があった
表は無邪気な天使、でも実は裏があった○○さん。それ“も”いい、と告げる善十。
善十という男はなにしろ冒頭からヒモだし、口が上手くてどこか頼りないし、特別に気が利くってわけでもない。だけどいざってとき、内心で葛藤しつつも結局はこれを言えてしまう。そういう人間なのだ。そんな善十、実は人知れず、選ばれた者としてのある使命を負っている。一見、なんで? っていう大役を善十に担わせた登場人物に私は言いたい。……分かってるね!
嘘をつく自分を許してみて
大切な誰かを守るための嘘、大切な自分を守るための嘘、その両方を兼ねた嘘。日頃私たちが使いこなす嘘には、色んな種類がある。
でも、嘘をつこうと判断するのは結局のところいつだってたった一人の“私”で、ぐっと飲み込んでなかったことにしたもの、心の奥底に葬ってきたものだって、本当は全部、大切な私の中にたしかに存在したもの、私の一部だったはずなのだ。
だから、他人へ嘘をついたのと同じだけ、私たちは自分にも嘘をつく。そうじゃなきゃ、真摯に取り合わなかった自分に、折り合いがつけられないから。
“人は完璧ではありません”
作中で登場し、善十が心の中で反芻する言葉だ。
■紫原明子さんが思う、ありのままの私
そもそも人は完璧じゃない。嘘や本当に線を引くことに一体何の意味があるというのだろう。あなたの本当も、あなたの嘘も、あなたの表も、あなたの裏も、全部いい、全部あなただよって言われたい。そんな風に、誰かに許されて、それによって自分を許すことができたら、私たちはどんなに救われるだろう。
『おやすみカラスまた来てね。』は、すっかり嘘の上手になった私たちが、普段は見ないことにしている心の奥の小さな痛みに、静かに寄り添ってくれる。優しくて、暖かい物語なのだ。
『おやすみカラスまた来てね。』いくえみ綾
1~3集発売中 発行:小学館
3冊目は小説『大人は泣かないと思っていた』です。お楽しみに!
紫原明子
エッセイスト。1982年生まれ。個人ブログ『手の中で膨らむ』が話題となり執筆活動を本格化。2児のシングルマザー。著書に『家族無計画』(朝日出版社)、『りこんのこども』(マガジンハウス)がある。