浅草に住んで9年目、日頃は編集業やライターのニイミユカです。
どこに住んでいるの？ と聞かれて「浅草」と答えると、「（観光地だけど）住みやすいの？」「なんで浅草？」と返ってきます。私も住む前に浅草住民と出会っていたら、みなさんと同じような反応を示したことでしょう。
浅草は夫の地元なので当然のように暮らし始めましたが、かなり住みやすい。いやむしろ、引っ越してイキイキしているかもしれません。そこで今回は改めて、関西出身者の私が浅草に馴染んだ理由を勝手に分析してみました。
私の居住歴と住んだ町の思い出
私は兵庫県北部で生まれ育ち、18歳で大阪へ出てきました。以来、こんな具合でお引越ししています。
大学時代は大阪府東大阪市に4年
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上京して松陰神社前（世田谷区）に2年半
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結婚を機に浅草へ。現在9年目
大学時代に住んでいたのは東大阪市。池井戸潤先生の『下町ロケット』的な、工場が多くある職人の町です。大学のある町だったので学生やおばちゃん、おっちゃんがママチャリで入り乱れ、スーパーだけでなく八百屋やパン屋など個人商店もあり、安くておいしい食堂もたくさん。
住んでいた学生専用アパートの管理人は、ヒョウ柄の似合うおばちゃん。いつ会ってもホウキをもち、「困ったことがあったら言いや」が口癖でした。酔っ払った男子学生に部屋へ乱入されそうになったときも、ベランダから下着ドロされたときも、おばちゃんが全部助けてくれたっけ……。
上京したとき、本当は駒沢大学に住みたかったのですが（なんとなく憧れて）、希望する家賃で見つかる物件は、畳が湿っぽかったり土壁だったりトイレが臭かったり。いろんな意味で怖く、「世田谷の中でも家賃が安い」と営業マンに勧められた松陰神社前のアパートで暮らし始めました。
当時はMerci BAKEなどオシャレショップができる前。引っ越した日に大家さんに挨拶へ行くと、インターフォン越しに「そういうの結構です」と断られ、町に顔見知りもできず、休日は古本屋で100円の本を買い読みふける2年半を過ごしました。
そして一気に浅草へ。世田谷区に住んだ経験から「ご近所さんといえど所詮は他人」と勝手に思い込んでいた私。近所ですれ違う人へろくに挨拶もせず、住み始めて数ヶ月が経ったある日、決定的な出来事が起こりました。夫の出張中、お腹が痛くて痛くて、「このままでは死んでしまうのではないか」と思うほどに……なんとか救急車を呼び、運ばれようとした時です。
「奥さん！ 今日、旦那さんは？」
「大丈夫？ あんたあそこのうちでしょ」
「困ったことがあったらうちにおいで」
と、おばちゃんたちがタンカの周りを囲み、口々に声をかけてくれたのです。誰ひとりとして顔と名前が一致せず、お腹が痛いこともありあやふやな返事しかできませんでしたが、嬉しかった〜〜。私が馴染もうとしなかっただけで、近所の人たちはとっくの昔に受け入れてくれていたのですね。
もしかしたら世田谷で住んだ家の大家さんも、たまたまタイミングが悪く、あぁ言っただけかもしれません。近所の店でももっとコミュニケーションしていたら、馴染みの場所ができたのかも。たられば言っても仕方ありませんが、今ならそんなふうに思います。
以来、浅草と私の関係は、ぐーっと近づいていきました。
浅草と関西はどこか似ている
私が浅草に馴染めたのには、浅草が関西とどこか似ていることもあるように思います。以下、独断と偏見かつ私調べですが、似ている点を3つ挙げてみました。
1.食べ物がおいしく、比較的手頃で、しかもボリュームがある
浅草の人たちは舌が肥えているので、おいしい店にしか行きません。行くとなったら通う。だからか、地元に愛されるお店は味がよくて価格もほどよい。変に見栄を張らず、週になんども通いたくなるところがたくさんあります。また、ボリュームもしっかりあるのもうれしい。
2.女性の威勢がよい
浅草も大阪も女の人の勢いがよく、元気な人が多いように感じます。三社祭の女神輿も担いでいないとわかると、「行っといで！」とセンパイからお尻を叩かれます。また、良くも悪くもYES／NOはっきりした人が多い。濁した言葉はあまり聞かないから、コミュニケーションが楽。変に勘ぐる必要はありません。
3.車や自転車の勢いがある
浅草を含む台東区は比較的平地なので、自転車移動がスムーズ。老若男女問わず自転車率が高い町です。また、車の運転も、東京都内の他のエリアと比べると勢いがあるほうかも。その光景を見るたびに、大学時代に住んだ大阪がダブります。
このほか、
✔︎銀座線の始発＆終点
✔︎羽田空港にも成田空港にも電車が直通している（都営浅草線）
✔︎東京駅までバスで1本
など、実は交通の便がかなりいいのも自慢。銀座線は他の沿線に乗り入れていないため遅延も少なく、東日本大震災のときもいち早く復旧した沿線です。
さらに、近頃おしゃれな店が増えている蔵前はお隣。スニーカーやベーシックな服が揃う上野・アメ横までも自転車で10分ほど。化粧品やブランドものを見たければ日本橋三越へ。トレンドをチェックするなら銀座まで出ればOK。大体のことが、電車1本＆片道15〜20分くらいで叶う町なのです。
不便なことといえば、
✔︎店（とくに個人商店）は閉まるのが早い（浅草寺の閉門17:00に合わせて閉める店が多い）
✔︎日祝日休みの店（とくに個人商店）が多い
✔︎祭りやイベントごとがあるときは駅周辺が混む
ぐらいでしょうか。でもこれで困ったことは、今のところありません。
住めば住むほど、好きなところが増えていきます。今度、浅草へ遊びにくるときは、「ここに住むなら」という目線で町歩きをしてみても楽しいと思いますよ。
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初出：しごとなでしこ
ニイミユカ
兵庫県出身、浅草在住。編集者・ライター。アウトドアやスポーツなど、アクティブなジャンルをメインに活動中。この連載コラムではイラストも手掛ける。instagram：yuka_nim
