浅草のある台東区は上野公園あたりをのぞいて道がフラットで、散歩やランニングがしやすい町です。ちょっとずつ陽射しが春に近づいてくる今頃の季節は、歩くのがますます楽しい。「3月後半には桜が開花するでしょう」というお天気キャスターの言葉を聞いて出かけた日には、隅田公園で気の早い桜が(!)。
東参道を抜けてすぐ、隅田公園にあるタリーズコーヒーの横でほころんでいました。大寒桜(おおかんざくら)という種類で、一般的には3月ごろ開花する種類だそう。川沿いは気温が低くて咲くのが遅れることが多いのですが、今年はちょっと早く楽しめるかもしれません。
浅草は寺社仏閣が多い
ふらりふらりと浅草を歩いて気がついたのは、寺社仏閣が多いこと。私が見ただけで、ざっと20はあります。もともと寺社仏閣好きでご朱印も集めているのですが、この町に住みはじめてますます身近な存在になりました。
私が寺社仏閣に惹かれる理由のひとつに、地元や人々との関わりがあります。年に一度のお祭り、初詣や豆まきのような季節の行事、結婚式など。いまのように情報やスポットが溢れていないずっと昔から、人々が集う場所だったのだなと感じます。
そういう目線で寺社仏閣を見ると、とっても個性豊か。ご利益、お供えもの、狛犬や鳥居のかたち、お守り、絵馬など。これってひとつのエンターテインメントだなあと思うのです。だから私は願い事や神頼みをしに行くというより、地元の神さまにご挨拶がてら、その境内のかわいいポイントや個性を見つけて楽しみます。何より、寺社仏閣の境内はすがすがしいので、気分のリフレッシュにもなるのです。
浅草でお参り —被官稲荷神社
浅草といえば、浅草寺や浅草神社をイメージする人が多いはず。このほかにも、地元で愛される3つの神さまがあります。
ひとつ目が、被官稲荷神社(ひかんいなりじんじゃ)(MAP-1 ※マップは記事の最後にあります)。浅草神社の右手へ進むと、小さなお社があります。鳥居には、「新門辰五郎(しんもんたつごろう)」の文字。「辰五郎」は江戸時代後期の浅草の町火消で、歌舞伎やテレビドラマにも登場する人物です。
1854年に辰五郎の妻が重病になり、京都の伏見稲荷神社に祈願したところ、病気は全快。翌年に、町の人がお礼の意味も込めて伏見稲荷神社から祭神御分身を迎え入れ、その鳥居を辰五郎が奉納したそうです。
名前の由来は不明ですが、“被官”は「就職・出世」という意味で、就職や出世にご利益があるといわれています。地元の人いわく、歌舞伎役者や芸人なども芸事の精進祈願に訪れるのだとか。だからか、神社にあるきつねの石像の寄贈者に、歌舞伎役者の名前もあります。
小さなお社は、1855年当時のもの。いつお参りしてもおいなりさんの大好きな油揚げがお供えしてあって、大事されていることが伝わってきます。
“稲荷”ですから、神さまの“お姿”はきつねです。これは浅草で昔から焼かれる「今戸焼(いまどやき)」でつくられたもので、お供えとして奉納します。浅草神社へお参りするなら、ぜひこちらにもご挨拶を。
浅草でお参り —待乳山聖天
浅草寺から歩いて10分ほどの場所(MAP-2)にある、浅草寺の子院「待乳山聖天(まつちやましょうてん)」。地元では、「聖天さま」と呼ばれています。亡くなられた歌舞伎役者の中村勘三郎さんも、ときどきお参りに来られていたそう。
ここは石段や提灯など、あちこちに二股大根と巾着のモチーフがちりばめられています。二股大根は体を丈夫にし、良縁成就や夫婦が末長く仲良くいられるように。巾着は、聖天さまのご利益の大きさをあらわしているのだとか。
大根は人間の深い迷いの心を表すともいわれ、大根を供えることによって、心を洗い清めていただくという意味もあるんですって。社務所にはお供え用の大根。毎年1月7日には「大根まつり」が開催され、風呂吹き大根がふるまわれます。それ以外の日も、運がよければご祈祷後の大根を持ち帰ることができますよ。
私は大根が食べたいなあと思ったら聖天さんにお参りします。お供えして、おすそわけしてもらって。昔の人も同じようにしていたんだろうなあと思うと、ちょっとわくわくするのです。なにより、お供えものをするって、日常にあまりない経験。お賽銭を投げ入れるより、神さまと丁寧にコミュニケーションをとっている感じがします。
ちなみに、聖天さまは浅草でいちばん標高が高い場所で、およそ10メートル。人工的に盛った土地ではないそうで、本堂の横にはこんな乗り物もあります。
お年寄りやベビーカーを押すママたちには、よいのかも。高所と閉所が怖い私は、いまだにトライできません……。
浅草でお参り —今戸神社
最後は、浅草駅から歩いて15分ほどの場所にある、「今戸神社」(MAP-3)。ここは縁結びの神さまとしても知られ、いつ訪れてもたくさんの女性を見かけます。
祀られている神さまのうち、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)と伊弉冉尊(いざなみのみこと)はご夫婦。それもあって、いつしか「縁結びにご利益がある」といわれるようになったそう。
今戸は素焼きの今戸焼が有名で、招き猫発祥の地ともいわれています。今戸神社にも、あちこちに。とくに右手をあげる招き猫は「人とのご縁を授ける」そうで、夫婦の招き猫が良縁を招いています。
境内で、招き猫と同じくらい存在感がある絵馬。絵馬といえば祈願成就が一般的ですが、今戸神社では願いが叶うと神さまに成就を報告する“成就絵馬”を納める習わしもあるのだそう。絵馬掛けには祈願絵馬と同じくらい成就絵馬の姿も見られます。
それから、私はまだ目撃できていませんが、白猫のナミちゃんも名物なんだとか。会うと幸運がまいこむとかで、外国人観光客がわざわざ会いに訪れるそうです。
というわけで今回は、浅草界隈で私がよくご挨拶している寺社仏閣を紹介しました。3か所とも、桜並木が続く隅田公園や山谷堀公園のそばにあります。お花見がてら、訪れてみてください。
【浅草MAP】
<前回の記事>
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初出:しごとなでしこ
ニイミユカ
兵庫県出身、浅草在住。編集者・ライター。アウトドアやスポーツなど、アクティブなジャンルをメインに活動中。この連載コラムではイラストも手掛ける。instagram:yuka_nim