文を書き、そのために知見を広げ、深めることに夢中だった30代
30代は、体力、気力とも、人生最後の充実期です。このときに人生でいちばん実現したかったことをやっておかないと、後悔します。私の場合、それは「本を書くこと」でした。
とにかく文を書き、そのために知見を広げ、深めることに夢中でした。そして、34歳で刊行した本が賞をいただくことに。仕事の機会が大学の外に広がったり、両親と暮らすための家を買ったり、30代は研究分野も住まいも仕事空間も、何もかもが拡大していく一方でした。仕事量が実際に多いだけではなく、「まだ知らないことが多すぎる。まだ思うような本が書けていない」と焦って、常に時間が惜しくてたまりませんでした。それは苦しいことだったけれど、「充実感」という意味で楽しいことでもあったと思います。
ただ今から思うと、いい仕事をしようとするあまり、周りにいる人ひとりひとりに心を配り、相手の立場に立って考えたり行動する愛情が欠けていたかもしれません。そのことだけは、当時の自分に「後悔することになるよ」と伝えたいですね。
恋愛は、したくないと思っても出合ってしまうもの
ちなみに、このころ始めたことといえば、和服を着ること。講演会の機会が増えて着るものに困ったので(笑)。逆にやめたことは、結婚。…つまり離婚しました。
30代にさしかかり、恋愛や結婚について悩んでいる人も多いかもしれません。でも私の持論は、「30代は恋愛や結婚を忘れるべし」。なぜなら、恋愛はしたくなくとも出合ってしまうものだし、結婚や離婚はしたくてもしたくなくともそういう成り行きになってしまうものだから。何も考えず、そのときどきに運命を受け入れるかどうか考えればよいのではないでしょうか。私はそうしてきました。
30代はまだまだ後戻りができる年代。自分の人生に責任をもてる生き方をする、社会や他者を甘く見ない、ということだけは肝に銘じて、やりたいことを思い切り試してみてください。
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Profile
法政大学社会学部長を経て’14年より現職。情報番組などでコメンテーターとして活躍するほか、『自由という広場-法政大学に集った人々-』(法政大学出版局)など著書多数。
取材・文/酒井亜希子(スタッフ・オン)