何気ない日常こそが、いちばんの“家族の思い出”
インタビュー会場で待つ、私たち編集部スタッフのもとへ、ハッピーオーラに包まれた雰囲気で現れたのは、約4か月という休養を経て仕事復帰となったOggi専属モデルの滝沢カレン。復帰後、最初の仕事はモデル業ではなく、作家業でした。
「お久しぶりです!」
少し緊張した面持ちながら、以前と変わらない笑顔を見せると、現場の緊張もほぐれた。カレンちゃんは2年ぶりの著書となる『でかまりなちゃん』を10月6日に刊行したばかり。
自身初となる私小説について、〝作家〟・滝沢カレンは何を思い、何を感じながらその筆を執ったのだろうか。
「元々、(本を出版するというような)大事にしようと思っていなくて、ただテレビ番組で家族の話をよくしていて、数年前からマネージャーさんから『タッキー(私)のご家族って面白いね!いつか本にしてよ』と言われていたんです。でも、私自身は自分の家族が面白いと思ったことなかったし、家族のことをわざわざ思い出すのも感情的になってしまうので、わざわざ文字に残そうなんて、全く思っていなかったです」
だが、そんな時に訪れた思いがけない長期の休み。その中で自然と気持ちに変化があったという。
「今回こうやってお仕事をお休みする期間ができて、自分の中で消えていく記憶と、またここから増えていく記憶で脳がパンパンになる前に、今こそ家族の思い出を文字に残すタイミングなのかもしれないと思ったのがきっかけでした」

過去のアルバムは捨ててしまう派と語る、カレンちゃん自身が「家族アルバムができたみたい」と誇らしく語るエッセイ。ページをめくるたび、家族と過ごした日々がありありとよみがえります。その中でもカレンちゃんの心の中に最も強い思い出として残っているエピソードがひとつあった。
「『和食に洋食器』というエピソードが私の家族らしい話だなと思っています。和の玄関を開けると洋の絨毯が広がる家、和の食器棚に洋の食器が並べられている家、見事に和と洋がこんがらがる家でした。記憶をよみがえらせるにあたってまず思い出したのが、このエピソードだったんです」
こうして当時の様子を思い出しながら筆を進めていく中で、ある気づきがあったという。
「逆になかなか思い出せなかったエピソードもあって、それが『ラスベガスの旅』です。海外旅行って一番思い出せそうじゃないですか。だけど全然覚えていなくて(笑)。本にも書きましたが、買ってもらった人形の記憶しか残ってなかったです…。私にとっての家族の思い出は、そういったイベントじゃなくて、日々の生活や会話にあったんだなぁと。結果的に初めての海外旅行とは思えないページ数になってしまいました(苦笑)」
「誰よりも底辺であれ」――祖母の教えが今の私の軸になった
本編では、祖父の「ちっち」、祖母の「かっか」、「ママ」、そして愛犬の「マーシャ」という家族との思い出が綴られている。その中で最も数多く登場し、最も印象的なのが「かっか」だ。カレンちゃんにとってかけがえのない人物であったという「かっか」は一体どんな存在だったのだろうか。
「『かっか』には相当怒られていたんだと、書いていて改めて思い知らされました(笑)。家族に怒られるって一番嫌なことですよね。小学校の頃は、家に帰ったらまた怒られちゃうんじゃないかって、そんな毎日の繰り返しでした。ですが、今思うと、そうやって怒ってくれるということはすごく大切なことだったんですよね。私の人生にちゃんと怒ってくれる人がいてくれた、それだけで有り難い存在だったと思います」
まさにカレンちゃんの〝人生の先生〟のような存在だった「かっか」。たくさん怒られていた中で、心に刻んでいる言葉があるという。
「ずっと覚えているのは『誰よりも底辺であれ』という言葉です。『かっか』曰く、『あなたがたとえテストで100点を取ったとしても、誰かよりも優れているわけではない』と。実際には私はテストで100点を取ったことはなかったのですが(苦笑)。でもそうした考えが今の自分の中にずっとあって、お仕事でもこの言葉は忘れずに、常に謙虚でいることは意識しています。私より若い人とご一緒するときも、『私の方が底辺なんで、早く生まれてきちゃっただけなんで』って思っています。だからモデルの現場で『かわいい』と褒めてもらえると、『私底辺なのにいいんですか?』となって、めちゃくちゃ嬉しくなります」
そうした姿勢は、Oggiの撮影現場で触れ合う私たちスタッフにも伝わってくる。誰に対しても威張ることなく、常に謙虚な姿勢。それをつくった「かっか」という存在。そこに滝沢カレンの原点があった。
執筆活動は、未来の自分への表彰状
カレンちゃんが幼少の頃から大好きだった『ちびまる子ちゃん』から生まれた『でかまりなちゃん』というタイトル。しかし、本が出来上がった当初は、この名前になる予定ではなかったという。
「この『でかまりなちゃん』というのはマネージャーさんとの会話の中のあだ名みたいなもので・・・『早く「でかまりなちゃん」書いてよー』という感じで使っていた通称でした。いざ本のタイトルを考えるときは、別のタイトルをいろいろ考えていたんです。でももし別の名前になってしまったら、『でかまりなちゃん』という呼び名がなくなってしまう。私は『ちびまる子ちゃん』が大好きで、いつか、さくらももこ先生が書いているような本を書いてみたいというのが、小学生のときからの夢でした。やっぱり『この呼び名をなくしたくない!』そんな思いで『でかまりなちゃん』というタイトルになりました」

幼少期の夢が込められた『でかまりなちゃん』。一体どんな人に届くのだろうか。
「実はこんな人に読んでほしいという想定をして書いてはいませんでした。ただ自分にとって大切な一冊であり、家族アルバムになれたらいいと思っていて。でも、もちろん今生きている人全員に読んでほしいです(笑)。文字が読めるようになったばかりの世代から読んでほしい!」
最後に作家・滝沢カレンとしての将来像を尋ねた。
「私にとって文章を書くことは、ジムに行く前とちょっと似ていて、書き始めるまでが、ちょっと億劫。それくらい書くことは集中力が必要で大変な作業なんです。だけど、一度覚悟を決めて、立ち上がってこうして目の前にある本を目の当たりにすると、それは本当に宝物のような存在になります。過去の自分を、『よく立ち上がってくれたね!』と抱きしめたくなるくらい。だから自分の中で執筆活動はとても大変だけど、きっとこの先も重い腰をあげるはずです。それは絵本かもしれないし、パズルゲームかもしれないし、何になるかわからないけど、未来の自分へ表彰状をあげるような感覚で、これからも活動していくと思います。この本が小学生時代の話なので、ぜひ中学生時代のことも書きたいですね。家族とは別に、大切な親友たちがいるので、“友達のアルバム”も作りたいなって思っています!」
ちょうどこの取材日が、記念すべき仕事復帰日だったカレンちゃん。またこの日から、新しい滝沢カレン物語が静かに始まるだろう。モデル、俳優、作家というジャンルを問わず、彼女の魅力はさらに輝きを増し続けていくことだろう。

撮影/柳香穂 スタイリスト/道端亜未 ヘア&メイク/上野祐実 構成/清水紘史
ジャケット¥319,000・パンツ¥124,300(ディースクエアード〈DSQUARED2 〉) リング ¥28,600 (ヴァーミリオン〈VERMILLION〉) ダブルリング¥37,400(プラス ヴァンドーム〈PLUS VENDOME〉) ピアス¥16,500(テン〈TEN.〉)
【お問い合わせ先】
ディースクエアード/スタッフ インターナショナル ジャパン クライアントサービス 0120-106-067
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プラス ヴァンドーム https://vendome.jp/plus_vendome
TEN. / テン 092-409-0373

『でかまりなちゃん』(集英社) 定価:1980円(税込)/B6判変型/192ページ
モデルとして活躍する滝沢カレンによる、初の「私小説」。
いつまでも消えないで、と綴られた〈家族〉の記憶。
私に遺してくれた思い出たちを忘れないように――。
誰しもの心に宿る懐かしさや痛みに響く、29の〈お話〉