インタビュー前編
100万部突破の大ヒット小説がついに映画化!『傲慢と善良』藤ヶ谷太輔さん・奈緒さんインタビュー【前編】
辻村さんの作品は、言語化できない感情に寄り添ってくれる理解者のような存在
─────おふたりとも辻村さんの作品がお好きとのことですが、どんなところがいちばん刺さりますか?
藤ヶ谷さん(以下敬称略):『傲慢と善良』もそうですけど、『闇祓』とか『嘘つきジェンガ』とか、幼少期に感じたことがある、でも言葉には表せないことだったり、過去に置いてきたような気持ちなどが、ページを捲ったふとした瞬間に「これだ!」と感じるんです。なんで僕のことが分かるんだろう、と思うことがめちゃくちゃ多いし、読んでいるとニヤニヤしてしまうんです。人間の裏側をえぐる感じとか、恐ろしさと緊張感が伝わってきて、顔に出ちゃうのであまり外では読めないですね(笑)。
奈緒さん(以下敬称略):私は初めて読んだのが『凍りのくじら』で、本を読むきっかけにもなった一冊。当時は学生だったので、まだ自分の気持ちを言語化するのが難しくて、きっと大人に話しても理解してもらえないし、理解してもらえるような言葉で伝えることができないから、モヤモヤして自分の感情に蓋をすることもあったんです。それが辻村さんの本と出会い、自分のことを分かってくれる人が世の中にはいるんだって思えたので、私の中ですごく衝撃でした。あとミステリー小説が好きになったのも、辻村さんの本がきっかけ。元々ミステリー小説は、謎解きを楽しめる頭の回転が早い人じゃないと楽しめないものだと思っていたのですが、辻村さんのお話は、人の心理とミステリーが絶妙に掛け合わさっていて、自分の中に初めてミステリー小説を楽しむ心が生まれました。
─────他に印象に残っている作品はありますか?
奈緒:『本日は大安なり』。学生時代に読んだのですが、当時はまだ結婚とか考えてないから遠い世界の話のはずなのに、大人になるとそういうことが起きるんだって、現実味のない私にもなぜかすごく分かるんですよ。辻村さんの本には、どの年代の方が読んでも虜になっちゃう魅力があるのかなって思います。今作についても、ちょうどさっきお話を聞いていたら、20代前半の方々にもすごく刺さって、試写で泣いていた方もいると聞いたときに、最初は意外に思ったんですが、思い返してみると、確かに私もそうだったなって。辻村さんの作品って、その年齢だからこそ起きることをテーマにしているように見えて、人間の本質的な部分での迷いや寂しさをすごく丁寧に描かれているんですよね。時期によってその感情が芽生えたり、育つスピードが違うだけで、誰の中にもその種があるっていうところを救い出してくださる小説家さんだと思います。
誰かと生きていくことを見据えて行動に起こすことが、単純にすごい
─────今作では婚活がテーマになっていますが、婚活に対するイメージは?
奈緒:それこそ私、親友がマッチングアプリで出会った方と結婚したんですよ!マッチングして、ふたりがお付き合いを始めてすぐくらいに紹介してもらって、親友がちょっと席を外してる間に「どういうところが好きなんですか〜?」って聞いたり(笑)。ずっとやってみたかったシチュエーションをやりました。
藤ヶ谷:向こうも思ってたんじゃない?ドラマみたいだなって(笑)。
奈緒:婚活に対するイメージとしては、結婚したいっていう目的がしっかり決まっていることだから、誰かと一緒に家庭を作りたいとか、一緒に生きていくっていう覚悟を決めていることの表れですよね。今までは自然に出会って、恋愛をして、結婚してっていう流れを想像していたけど、気づいたらもう20代が終わろうとしていて。その中で、親友も含めて、誰かと生きていこうと先を見据えて行動に起こしていることが単純にすごいなと思います。作中でも、目的や条件、自分が欲しいものがはっきりしてる人が成功するという言葉がありますが、本当に強く頷ける、心に響く言葉ですね。
藤ヶ谷:マッチングアプリに関しては、最初の頃はちょっといかがしいものという印象があって。本気じゃないというか、問題が起きそうな危険なものが流行り始めたのかと思ってました。
奈緒:きっと最初の頃は不自然に感じていたんですよね。
藤ヶ谷:今までは自然に出会う、ということが教科書にあったのに、条件を入れてマッチすればすぐに会えるって、何それ!?と思っていたけど、今はもうスタンダードになってきたし、奈緒ちゃんの話を聞いて改めて思ったのが、何より行動に移すということが大事なんだなと。マッチングアプリなどがない頃は、いい人いないよ〜とか、自分に合う人はどこにいるんだ〜みたいな嘆きも納得がいったけど、マッチングアプリを使った婚活がこうやってスタンダードになると、行動に移さず文句ばかりの人は、今作でも言っていたけど、自分の欲しいものがわかっていない、”自己愛の強い人”になってしまう気がします。マッチングアプリや婚活は進化し続けている印象があって、これからどうなっていくんだろう。数年後にはまた違うものが出てくるかもしれないし、もはや会うことを排除していったり…今後どういう形になっていくのかも気になりますね。
─────おふたりがもし今のお仕事をしていなかったら、マッチングアプリを使っていたと思いますか?
奈緒:私、好きになるとすぐに言っちゃうタイプなので、きっと結婚は早かったんだろうな〜と(笑)。一点集中みたいなところがあるので、仕事があるとどうしてもそれだけに集中してしまうので、仕事を優先した結果が今の状況です。それはそれで幸せなんですけど、結婚とか婚活っていうことに関して言うと、違う選択があったかもしれないなって思いますね。
藤ヶ谷:全く想像がつかないです。ただ僕はもしこの仕事をしていなかったら、幼稚園の先生になりたかったので、もしかしたら先生同士で、このアプリやってみましょうよとか、そんな話が出たらやってみようかなって思うのかも。
奈緒:親友がやっていたので、とりあえず登録はするかも。あと、その友達が婚活パーティーにも行ってたんですよ。でも私は一緒に行けないじゃないですか。本当は一緒に行ってみたかったんですよね。友達の相手を探したりするのも楽しいじゃないですか?あの人合うと思うよ!とか、そんな会話も友達同士で行けばできますよね。
男女それぞれの視点でリアルな恋愛観と価値観を描いた『傲慢と善良』。自分の欲しいものがわからず、”自己愛の強い人”になってしまった【傲慢】な架が、親の敷いたレールの上で【善良】に生きてきた真実と出会うことで、どう変わっていくのか―。ふたりの繊細で等身大な表現力に、引き込まれる今作は、9月27日(金)に全国公開です!
Information
映画『傲慢と善良』(公開中)
仕事も恋愛も順調だった架だったが長年つきあった彼女にフラれ、マッチングアプリで婚活を始める。そこで出会った控えめで気が利く真実と付き合い始めるが1年経っても結婚に踏み切れずにいた。しかし、真実からストーカーの存在を告白された直後、「架くん、助けて!」と恐怖に怯えた着信を受ける。彼女を守らなければとようやく婚約したが、真実が突然姿を消した。両親、友人、同僚、過去の恋人を訪ね居場所を探すうちに、架は知りたくなかった彼女の過去と嘘を知るのだった―。
Profile
藤ヶ谷太輔
1987年6月25日生まれ、神奈川県出身。2011年にKis-My-Ft2のメンバーとしてデビュー。アーティストとして精力的に活動するほか、『A-studio+』(TBS)、『10万円でできるかな』(EX)など多くのテレビ番組やCMなどで幅広く活躍。役者としても多数の作品に出演し、近年の主な作品に映画『信長協奏曲』(2016年)、ドラマ『やめるときも、すこやかなるときも』(2020年)『華麗なる一族』(2021年)、映画『そして僕は途方に暮れる』(2023年)などがある。
奈緒
1995年2月10日生まれ、福岡県出身。2013年にドラマ『めんたいぴりり』でデビュー。2018年、連続テレビ小説『半分、青い。』でヒロインの親友・菜生役で注目を集める。近作にドラマ『あなたがしてくれなくても』(2023年)、『春になったら』(2024年)、映画『陰陽師0』『告白 コンフェッション』『先生の白い嘘』(全て2024年)など。主演ドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系10月8日火曜22:00スタート)。
撮影/前田拓也(TRON) スタイリスト/横田勝広(YKP/藤ヶ谷さん分)、岡本 純子(奈緒さん分)ヘア&メイク/大島智恵美(藤ヶ谷さん分)、masaki(奈緒さん分) 取材・文/浜田麻衣
カーディガン¥33,990、パンツ¥14,390/ともにSPiKe(藤ヶ谷さん分)