【働く私にMusik】リスナーの人たちに寄り添えるシンガーソングライターでありたい
Guest Musician:iri(イリ)
〈Profile〉1994年、神奈川県生まれ。学生時代にジャズバーで弾き語りのライブ活動を始め、2016年にアルバム『Groove it』でメジャーデビュー。ずっしりと響く重低音で歌い上げる、日本人離れした歌声が特徴的なシンガーソングライター。
2014年、ファッション誌『NYLON JAPAN』とSony Musicが開催した合同オーディションでグランプリを獲得し、2016年1stアルバム『Groove it』でメジャーデビュー。2017年1stシングル『Watashi』が“NIKE”のキャンペーンソングに。2019年にデビュー以前より歌っている『会いたいわ』がバイラルヒット。2023年、6枚目となるアルバム『PRIVATE』をリリース。
「自分の味方でいてくれる先生の姿に憧れていた」今も続く、あのころの夢
恥ずかしがりなのに目立ちたがり、そんな子供時代
サッシャさん(以下、S):ミステリアスな印象があるiriさん。今日は、その人物像を探らせていただこうと思っています! … ということで、幼いころはどんな子供でした?
iriさん(以下、I):おてんばなのに人見知り、恥ずかしがりなのに目立ちたがり。そんな子供でした。人見知りは、今も変わらず…(笑)。
S:目立ちたがり、ということは小さなころから歌うことが好きだった?
I:人を笑わせることは好きでしたけど… 歌うことへの意識はなかったですね。
音楽を通して人の心に寄り添えるような仕事がしたい
S:今はアーティストとして活躍しているけれど、子供のころの“将来の夢”はまた違うものだったんですか?
I:小学校5〜6年生のころは、スクールカウンセラーの先生に憧れていました。そのころの私は、どこか周囲とズレていて、孤立しがちで。先生に悩みを聞いてもらいながら、素敵な仕事だな、将来こんな仕事ができたらいいなと思うようになったんです。
S:悩める少女だったとは! そのころの思いは、今につながっているんですか?
I:先生の存在に救われると同時に、AIさんやアリシア・キーズの曲など、音楽にも支えられていて。音楽を通して人をカウンセリングできる… 人の心に寄り添えるような仕事がしたい、とだんだん思うようになったんです。それで、中学生の私はとりあえずオーディションを受けたんですけど…。
S:いきなり超実践的!(笑)
I:奇跡が起きないかなと(笑)。でも、結果は不合格。高校生になってからはボイストレーニングに通うようになりました。あとは、ジャズクラブでバイトを始めて、バイトしながらゲストのライブを見て学んだり、自分もそこでライブをしたり。
“ただの夢”だったプロになる道。自作曲でのオーディションでグランプリを獲得
S:その時点で、プロを意識していた?
I:意識はしているけれど“ただの夢”という感覚でしたね。ジャズクラブでライブをしながら大学生活を送っていたんですけど、3年生にもなると周りのみんなが就職活動をし始めて…。
S:ヤバい! って焦るやつだ(笑)。
I:ハッキリさせなきゃいけない。「これに落ちたら音楽をやめる」と決めて、またオーディションを受けたんです。
S:そのオーディションでグランプリを獲得したことが、今につながっていますよね。2回目のオーディションは、なぜ受かったと思います?
I:オリジナル曲を弾き語りしたおかげかな… かなり変わった曲だったので、インパクトは大きかったかと(笑)。
S:自作曲での勝負だったとは!
I:カバー曲だけを歌っても意味がないと思ったんです。私がなりたいのは、シンガーソングライターだったから。
つくりたいのは、歌いたいのは、だれかの心に寄り添える曲。その想いは昔から変わらない
作品も自分自身もリスナーの人たちに寄り添える存在でありたい
S:どんなシンガーソングライターでありたいですか?
I:だれかの心を支えられるような曲をいっぱいつくれたらな、と。カウンセラーの先生に憧れたときと同じ感覚ですね。自分のかっこいいところを見せるより、作品も自分自身もリスナーの人たちに寄り添える存在でありたいんです。
日常のよくあるシーンで自分の曲を聴いてみる、心に寄り添う曲づくり
S:伝える方法は違えど、その想いは昔からずっと変わっていないんですね。そういう曲をつくるために、こだわっていることってありますか?
I:リスナーと同じ目線で曲を聴くようにしています。たとえば、朝の電車の中とか、夜の帰り道とか… 日常のよくあるシーンの中で、自分がつくった曲を聴いてみる。そうすると、この言葉は伝わりにくいとか、このシーンで聴くならノリが足りないとか、曲の修正点が見えてくるんです。
S:そういったリアリティの追求も含めて、iriさんはご自身の経験をもとに曲づくりをされていますよね。そして、それを隠したりもしていない。でも、デビュー当時はもっと殻にこもっていたような印象があるんです。
I:デビューしたころは、世間が抱いているiriのイメージを壊しちゃいけないと思っていて。だけど、このままでは自分の気持ちが伝わらないこともあるし、ありのままで進んだほうが私自身もラクだなって思うようになったんです。
S:クールなイメージが強いけど、本当はすごくよく笑いますしね(笑)。
I:しゃべり方とかもボーイッシュですけど、中身はそうでもないですし。
S:ハスキーな声も相まって“かっこいい”印象が強いけど、もしiriさんの声が1オクターブ高かったら…。
I:(声色を高くして)そうですね〜意外と乙女なんですよ?(笑)
S:(笑)。でもその声は、iriさんの大きな魅力。低音ならではの説得力や包容力は、目指す曲の在り方にすごくマッチしてるように思います。
ニューアルバム『PRIVATE』は、リスナーに寄り添った曲づくりをした作品
S:そうやって仕事に向き合いながら、ニューアルバム『PRIVATE』を先日リリース。すごくiriさんらしいタイトルですよね。そして、サウンドへのこだわりを強く感じました。
I:聴いていて心地いい、リラックスできるサウンドが多いです。それが今の自分のモードというか、最近リリースした曲との兼ね合いを考えると、今リスナーの人たちが聴きたいのはこういう曲なのかな… って思って。
S:曲づくりの方向性もリスナーに寄り添っているんですね。日常になじむように曲をつくられているiriさんですが、このアルバムの中から“働く女性が出勤するときに聴く曲・仕事帰りに聴く曲”のおすすめを挙げるとしたら?
I:通勤の朝は『Season』ですね。やる気が起きない… 眠い… みたいな朝に聴いてほしいです(笑)。帰り道に聴くなら… ゆったりしたいなら『Go back』、気分を上げたいなら『friends』かな。
29歳の今、思うこと… 不安はある。だけど今、何よりも音楽が楽しい
S:現在29歳のiriさんは、まさにOggi世代。読者と同じように、仕事もプライベートもいろいろなことを考えながら、アーティストとしてキャリアを重ねていると思います。今、仕事をする上で大切にしていることって?
I:私に関わってくださっている方々が、本当にいい人たちばかりなんです。スタッフさんやトラックメイカーさんたち… 皆さんが愛情深くて。大切にしてもらっていてすごく幸せだし、私も皆さんのことを幸せにしたい。だから、丁寧にコミュニケーションをとりたいなと思っています。
S:そういう方に囲まれているのは、iriさんの人柄ゆえですね。でも、曲づくりをしていると、自分の意志を貫かねばならないシーンもありますよね。
I:提案されたことにはどんどんトライします。でも、曲づくりをする上で譲れない部分に関しては、たとえ喧嘩になったとしても絶対にブレちゃいけないと思ってます。シンガーソングライターとしての想いは曲げたくないので。
S:求められていることから逃げずに、まっすぐ向き合う。iriさんは… 本当に真面目すぎるくらい真面目!
I:そろそろ、この性格から卒業したいと思ってもいるんですけどね(笑)。
新しい発見や経験を重ねたい、会ったことのない人に会ってみたい。私はまだ、夢を追う途中
S:来年は30歳になりますが、こういった節目は意識されますか?
I:周りがどんどん結婚したり、出産したり… そんな中、私はまだ夢を追っている途中。「このままで大丈夫かな」、「このままでも別にいいや」その両方の気持ちがあります。でも今は、音楽をやることが楽しいし、リスナーの皆さんにももっと楽しんでもらいたい。その気持ちのほうが大きいから、今はこれでいいと思っています。
S:少し気は早いですが、どんな30代にしていきたいですか?
I:たくさんの場所に行って、会ったことのない人にたくさん会いたいですね。新しい発見や経験をいろいろしたい。そうすることで自分の価値観が変わって、伝えたいメッセージも変わるかもしれないですから。
S:経験を重ねるほどに、出会う人も変わっていきますからね。さらに進化していくiriさんが楽しみです!
<→Vol.2へ続く>
【Information】NEWアルバム『PRIVATE』発売中!
『PRIVATE』[通常盤]¥3,300(ビクターエンタテインメント)
日常生活の私的なドラマを表現した、シンガーソングライター・iriの世界観があふれる6thアルバム。『friends』や『STARLIGHT』などのタイアップ曲のほか、アルバムのために書き下ろした新曲を加えた全10曲を収録。
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[iriさん分]“フェティコ”のジャケット¥79,200・トップス¥26,400・パンツ¥39,600・靴¥72,600・“ジュスティーヌ クランケ”のピアス¥18,700(ザ・ウォール ショールーム) リング/本人私物
[サッシャさん分]ジャケット¥462,000(イザイア ナポリ 東京ミッドタウン〈イザイア〉) デニムパンツ¥11,000(原宿シカゴ 神宮前店) その他/スタイリスト私物
●この特集で使用した商品の価格はすべて、税込価格です。
2023年Oggi7月号「働く私にMusik」より
撮影/中村和孝 スタイリスト/服部昌孝(iriさん分)、久保コウヘイ(サッシャさん分) ヘア&メイク/クジメグミ(L&Co./iriさん分)、坂口勝俊(Sui/サッシャさん分) 撮影協力/バックグラウンズファクトリー 構成/旧井菜月
再構成/Oggi.jp編集部