ただのゲーム作品ではなく、人間ドラマを描いた『イカゲーム』
◆お金がない崖っぷちの456人が孤島に集められた
『イカゲーム』は、韓国に1970〜80年代に子どもたちの間で流行した陣取りゲーム。タイトルからは、子どもの遊びならではの楽しいイメージを想像させられるけれど、内容はまったく真逆! 登場人物のほとんどが、お金に苦しんでいる人たち。破産とか借金とか横領とか、人生の大逆転が起きなければ、どうにもならないという崖っぷちの456人が、孤島に拉致されます。参加するゲームに勝ち続ければ手に入る莫大なお金をめぐって、命をかけた戦いが繰り広げられていくというストーリーです。
◆ゲームに負けたら容赦なく撃ち殺される
集められた456人は、みんなが崖っぷちに立たされている。主人公は、人はいいけどうだつが上がらなくて妻から離婚され、母親を病院にも入れられない男。主人公の幼馴染で、ソウル大学卒業のエリートなのに失敗してしまった男。他にも、脱北者の女性、給料をろくにもらえないパキスタン人、年老いて弱った老人などなど、さまざまな人々が集まっています。
参加者にはゲームに負けた際の罰が何かは知らされていないため、いきなり度肝を抜かれることになります。最初のゲーム・だるまさんが転んだで、脱落者が容赦なく撃ち殺されていくんです。観る側もとんでもないドラマなんだと気づかされます。大人なら懐かしさを感じるゲームが数々が出てきますが、懐かしさを楽しむ余裕はありません。
◆緑のジャージ、ピンクの階段…
ビジュアルがすごく面白いのも魅力のひとつです。拉致された島で目が覚めると、無機質な部屋に白いベッドが並べられている。全員が着せられているのは、緑のジャージ。ゲームが行われる部屋はメルヘンチックな書き割りのようで、階段は毒々しいピンク… と目を引くんです。独特な鮮やかさと、死のゲームというギャップが面白いんですね。
◆ただのゲームではない人間ドラマ
それぞれの事情を抱えた登場人物を、主人公のソン・ギフンを演じるイ・ジョンジェ、元エリートのチョ・サンウ役のパク・ヘスら、個性派俳優たちが演じています。彼らがどういう化学反応を起こすのか、どういう選択をしていくのか、次はどんなゲームで誰が勝ち残っていくか。
人間ドラマがすごくうまく描かれています。ただのゲームで終わらない。心の動きが克明に描かれていて、ほろりとさせられる場面もありました。
◆今までの韓国ドラマも社会の矛盾が描かれてきたが
『イカゲーム』は、社会の矛盾が克明に描かれていることがよく取り上げられます。しかし、韓国ドラマをずっと観てきた人は、今までもみんなそうだったと思うかもしれません。韓国ドラマでは、ずっと階級社会や女性差別に苦しむ主人公たちが描かれてきていましたから。このドラマが独特なのは、着想や見せ方だと思います。ビジュアルのインパクトがすごくて映画的。無機質な中に色濃い人間ドラマが繰り広げられます。
焼き殺される不安がさらに大きくなる恐ろしさ『地獄が呼んでいる』
◆3頭の怪物が人間を焼き殺す
突然、地獄からの使者が現れます。「お前は○時に地獄へ行く」と告げられ、その時間に本当に怪物が3頭現れて、有無を言わずに焼き殺してしまう。それがソウルの真ん中で、次々に行われて人々はパニックになっていきます。
◆不安は意味づけすることで膨れ上がっていく
パニックの中で台頭してくるのが、インチキ宗教団体。罪人だから怪物によって地獄に連れて行かれるのだと世の中を煽っていきます。そうすると、公衆の面前で殺されることが、さらに怖くなる。どんな悪いことをしたんだと噂され、世間に知られて、残された家族にも累が及んでしまうのではと心配は募るのです。観ているうちに人間の集団心理や偏った正義感が怖くなってきます。現象をどう意味づけするかによって、不安が膨れ上がっていくのだと考えさせられるところが面白さです。
主演は、キム・ヒョンジュとユ・アイン。監督のヨン・サンホは、コン・ユ主演のアクションホラー映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)でゾンビのパンデミックを描いて、多くの国際映画賞を受賞しました。私も大好きな監督です。
◆ヒットの理由は2作が続いたことと、短くなったことも
『地獄が呼んでいる』は、Netflix公開からわずか1日で、世界1位となりました。『イカゲーム』が公開から6日で1位を獲得した記録を、さらに更新したことになります。『イカゲーム』のヒットで、韓国エンタメってすごいと思っているところに、また面白そうなものが出てきたので、世界中が観ちゃったという感じだと思います。
短くなったこともヒットの一因でしょう。今まで韓国ドラマは1話が1時間半で、16話とか20話以上というのが普通。気軽に観ようと思うにはハードルが高い長さだったのですが『イカゲーム』は全9話、『地獄が呼んでいる』は全6話。短いし観てみようかなと思う人が増えました。
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「サクっと観られちゃうから、この2本は年末年始に観ておかないと」と田代さんは言います。映画好きの男子も納得させるクオリティ。カップルで観るのもおすすめです。
取材・文/新田由紀子
田代親世(たしろ ちかよ)
韓流ナビゲーター。テレビ・雑誌などで、韓流ドラマを紹介している。会員制韓流コミュニティ「韓流ライフナビ」を主宰。
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