自分で選ぶこと、決めることの大切さを教えてくれる
<前編>では、タイで執筆活動をする一木さんご自身の暮らしと重ね合わせながら、小説『9月9日9時9分』を紹介してきました。<後編>では、この作品の中から働く女性にも響くポイントを、一木さんと一緒に考えます。
“人それぞれ、自分がいい気分になれる服を着るのがいちばん。その方がなんでも頑張れるよ。”(253ページより)
「主人公の漣(れん)が、日本ではく勇気が出なかったスカートを、タイではく様子を描いています。私もタイで暮らすようになって、カラフルな服を着て、好きな格好で生活するようになったのは、大きな変化です。
私の場合、人目を気にしないタイの空気に影響されたという理由のほかに、もうひとつ理由があって、道を渡るときに“運転手からよく見えるように”。タイでは、車やバイクの間をすり抜けながら道を渡ります。“あなたは身体が小さいから、派手な服を着ていたほうがいい”と、語学学校の先生にアドバイスされました。派手めの服も傘も、実は安全のためでもあるんです」(一木さん)
▲タイ生活のひとコマ・その4/服も傘も明るい色を使うようになり、日常ではアロハシャツを着ることも。
“悩んで迷って、自分で考えて、選んだ道は、不正解じゃありません。…”(361ページより)
「人のアドバイスに従ってものごとを決断した結果、自分で決めたことじゃなかったという後悔が押し寄せたことがあります。恋愛だけじゃなく、仕事でも、自分で選ぶこと、決めることは、自分が満足するためにも大事なことではないでしょうか。『結局生きるのは自分だから。自己満足でもなんでも』という友人・曜子の言葉(337ページ)」ともつながるフレーズです」(一木さん)
“ああ。あのときは確かにそう思った。でもいまは思ってない。”(374ページより)
「一度苦手だと感じた相手に対して、その印象を変えるのは難しいこと。でも、自分が少しずつ変わっているように、相手だって時間とともに変化している可能性はあります。これも私の実体験から感じたことですが、苦手だ、もう無理だと決めつけずにいたいなと思います。自戒もこめて」(一木さん)
弱さに救われるときがある
“漣が話してくれたから。私も、漣に話したい”(378ページより)
「相手がさらけ出して話してくれたので自分も素直に話せた、という体験は、年代を問わずあるのではないでしょうか。ただし、相手がさらけ出してくれた弱い部分は、なにがあっても秘密として守らなければいけないもの。『…言わないって約束したら、たとえその人が死んだあとでも守り続けるのが約束ってものだろ』(306ページ)という義理の兄のセリフにも、それが表れています。
また、『弱さが人を救うことだってあるよ。…』(335ページ)ともつながっていて、これも私がふだん感じていることのひとつです。相手が弱さを見せ、ぽろりともらした一言に救われる。ティーンだけでなく大人も、同じだと思います」(一木さん)
▲タイ生活のひとコマ・その5/韓国料理店で買ったパパイヤキムチ(左)と、タイ版ゆず胡椒ともいえる、コブミカンやマナオ(ライム)でできたペースト(右)。一木さん自身は辛いものが「超大好き!」。
――ティーンのころの揺れやすい気持ちや自分への自信のなさ。そんな体験を思い出しつつも、案外それらは大人になってもあることなのだと、気づかせてくれるのが一木さんの小説。夏の屋外で、タイの光景を思い浮かべながら読むのもいいかもしれません。
タイの写真撮影/一木けい
取材・文/南 ゆかり
一木けい(いちき・けい)
1979年福岡県生まれ。東京都立大学卒。2016年「西国疾走少女」で第15回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。同作を収録した『1ミリの後悔もない、はずがない』が業界内外から絶賛され、華々しいデビューを飾る。他の著書に『愛を知らない』『全部ゆるせたらいいのに』がある。現在、バンコク在住。
『9月9日9時9分』
バンコクからの帰国子女である高校1年生の漣(れん)は、日本の生活に馴染むことができないでいた。そんななか、好きになった先輩と距離を縮めるが、彼は好きになってはいけない人だった。漣の「初恋」と「青春」、そして決意には、大人も気づかされることも多い。初版印税はDVや依存症の更生・治療に携わるグループ・施設へ寄付される。