ほぼ全財産をつかった買いものは、亡き父が愛したボルボ
前回記事▶︎初著書が大ヒット! 作家・岸田奈美さんがたどり着いた「家族の愛し方と距離感」
新刊『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』を上梓した岸田奈美さん。
この本が話題になって印税をもらえたら買いたいもの。それは奈美さんにとって、それは車いすユーザーの母親・ひろ実さんに車を買うことでした。とはいっても、本の印税が手元に入る前に買ってしまったという驚きの展開。購入した車はボルボ『V 40』。ボルボは亡きお父さんが愛した車だったから、と話してくれました。
「印税って、本の発売から私の手元に入るまでに数ヶ月かかるんですよ。まだ手元に入っていないのに、買ってしまいました。お母さんの乗っている『フィット』がもうボロボロになってしまったので、お父さんが愛したボルボが買えたらいいなーと思って、軽い気持でディーラーにボルボを見に行ったんです。
お母さんは自分ひとりで車いすから車に乗り込んでいるので、シートが高いSUVは難しくて、乗ることができる車種が限られるんです。ボルボにはシートが低いステーションワゴンで比較的安い車種は『V 40』だけ。
そうしたら、もうこの車種が生産終了で、あと2台しかないといわれて。家に帰ったら、もう1台は売れましたよ、と営業の方から電話があって、もう神戸に1台しかなくなってしまって、これはもう買うしかないやん? ってなりました」(奈美さん)
母のためのボルボにしたい
さらに、ボルボは福祉車両にした実績がなく、提携工場での改造は「無理」との回答がきたそう。そこで、奈美さんは思わず「お金ならなんぼでも出すからなんとかして!」と、心の中で「なんとかなる!」と言い聞かせて、言ってしまったといいます。
そこで活躍したのが、ディーラーで対応してくれた入社2年目の新人営業マン。いくつもの工場を奔走し、福祉車両に改造してくれるよう社内外を説得してくれたのです。
「この仕事が実現できたら、運転をあきらめた人にもボルボを売ることができる」とがんばってくれました。その後、アウディのディーラーに異動となってしまうのですが……。
父親が亡くなってから、「家族のことは私が幸せにする」と思ってきたという奈美さん。エッセイはお父さんに家族のことを伝えるつもりで書いていると言います。
「お父さんとは『死んでしまえ』といって、口げんかで終わってしまったから、お父さんの好きだった車でたくさん家族を笑顔にするよ、といってあげたい。お父さんが喜んでくれるといいな」(奈美さん)
※本原稿は、青山ブックセンターで行われた岸田奈美さんのトークイベントの一部を再構成したものです。
岸田奈美さん初めての著書が大好評発売中!
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』
定価:本体1300円+税 新書版/226頁 発行:小学館
TOP画像イラスト/岸田奈美