だれを信用すればいいのか、どの言葉を信じればいいのか。
激動の時代に抗う「正義」とはいったい…。
黒沢清監督、蒼井優主演の同名ドラマ(NHK BS8K)の劇場版である本作は、蒼井優と高橋一生が映画『ロマンスドール』に続いて夫婦役を演じ、息の合った演技の応酬が楽しめます。また、第77回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞したことでも話題! 太平洋戦争前夜の日本が舞台で、今まで現代劇を撮ってきた黒沢監督にとって、今回が初の歴史作品となる本作の魅力に迫っていきます。
今回は映画『スパイの妻』のPRを担当している大橋咲歩さん(ビターズ・エンド)に、見どころをうかがっていきます!
◆登場人物の一挙一動に目が離せない!
手に汗握る展開を楽しみたい
太平洋戦争前夜である1940年。神戸で貿易会社を営む優作(高橋一生)は、満州を訪れた際に恐ろしい国家機密を偶然知ってしまう。妻である聡子(蒼井優)は帰国後、夫の別の顔に気づき始め…。夫が反逆者と疑われても、優作への深い愛から聡子は思いも寄らない行動に出る。昭和初期の日本を舞台に、愛と正義の間で揺れ動く夫婦の運命とは。蒼井優が演じる聡子の狂気じみた夫への愛が徐々に不穏さを増していく様は、見ているこちらがゾクゾクするほど!
「“戦争に突入する寸前”の不穏な空気が漂う神戸を舞台に、仲睦まじい夫婦がある国家機密を偶然知ったことで運命の歯車が狂い始めます…。疑い合い、嫉妬が渦巻き、さらには憲兵分隊長にも目をつけられ…。だれを信じて疑うべきなのか、手に汗握る展開の連続です。主人公の聡子や優作だけでなく、登場人物全員の一挙一動に目が離せません! 主人公・聡子を演じた蒼井さんは、“彼女のたったひとりで様々な思いを抱える心情を思う度に、胃がキリキリした”とおっしゃっていました。
また、『スパイの妻』は伏線を追って推理していくミステリーであると同時に、夫婦の愛、人と人との絆も描かれています。このとき私が聡子だったら? 優作だったら? と自分を登場人物に置き換えてみると、様々な絆が浮き上がってくる映画だと思います。みなさんへは、この作品をどのような視点でご覧になったのかぜひ語り合っていただきたいです!」(大橋さん)
◆スクリーンに広がる不穏な空気感。
ファーストカットから緊張感が途切れない!
世界中に熱狂的なファンをもつ黒沢清監督ですが、その世界観は本作でも健在。さらに脚本は、黒沢監督ご自身と濱口竜介さん(『寝ても覚めても』)、野原 位さん(『ハッピーアワー』)の3人によるもの。また、音楽は「ペトロールズ」(リードボーカル&ギター)、「東京事変」(ギター)としても活動している長岡亮介さんが担当。研ぎ澄まされた感性が映像美として昇華された作品となっている。
「役者たちの独特なセリフ回しは、濱口さんと野原さんが最初に監督へお話をもち込んだ脚本の時点から書かれていたそうです。たとえば、優作の放つ「〜かい?」のような、まるで昭和初期につくられた映画のようなセリフ回し。現代の生活、映画ではなじみのない表現ですが、高橋一生さんのあまりに正確な話し方に監督はびっくりしたのだとか! ぜひ、その辺りの演出にも注目していただきたいです。
また、どの黒沢監督作品にも共通しているのですが、本作でもその時代を包み込んでいたであろう不安や、その中にある一抹の希望といった目に見えないものが画面いっぱいに表現されています。とにかく、驚くほどファーストカットからずっと緊張感が途切れません! 純粋に、陰影や差し込んでくる光の美しさに心奪われる場面もあるので、スクリーンから存分に感じ取っていただきたいです」(大橋さん)
穏やかな幸福に包まれていた夫婦の生活が徐々に崩れ、情熱のままに動き出す聡子の運命は…。最高のサスペンスエンタテインメントに仕上がった『スパイの妻』、ぜひ劇場へ!
【Information】
『スパイの妻〈劇場版〉』
監督:黒沢清
出演:蒼井優、高橋一生、東出昌大、坂東龍汰、恒松祐里、みのすけ、玄理、笹野高史ほか。
10月16日(金)より全国劇場で絶賛上映中!
配給:ビターズ・エンド
TOP画像/(c)2020 NHK, NEP, Incline, C&I
取材・文/宮田典子(HATSU)