笑って泣いて癒される、5人組同級生の『賢い医師生活』
病院を舞台に、5人の元同級生の医師の日常を、独特のタッチで描いたヒューマンドラマ『賢い医師生活』。男性4人、女性1人の主人公の医師たちの友情を軸に、患者や家族、病院のスタッフなどの人間関係が取り上げられていきます。韓国の視聴者たちと同じく、私も作品を観ながら毎回笑って、泣いていました。
紅一点の女医チェ・ソンファを演じたのは、ミュージカル俳優で、それまでテレビにはほとんど出演していなかったチョン・ミドさん。男性医師4人が、チョ・ジョンソクさん、ユ・ヨンソクさんら有名俳優だったこともあって、韓国でも当初は「えっ、この人、誰?」という反応でした。ドラマ『馬医』などで有名な韓国ミュージカル界の大スター、チョ・スンウさんにも賛美されている彼女の演技は、ナチュラルで大好評を博しました。
チェ・ソンファは、実力も高く、権威主義的でいばっているような教授もいるなかでも、患者や家族のためにいかに痛みや苦しみを和らげるかに心を配って治療する脳外科医です。高慢ではないけれど、女だからと尻込みしているわけではない後輩思いのやさしい女医。その上、休日にはキャンプに行ったりしてしっかり遊ぶという、肩に力を入れてないキャリアウーマン像です。
仲間の男性4人も、あいつはすごいと尊敬しているし、尊重しています。バンドをやっているんだけど彼女は音痴という設定(もちろん実はとても歌がうまくて、JEON MIDOがOSTを本当に歌っているYoutubeの再生回数は900万を超えています)。5人は、表面的にはきつい言葉を投げ合っているんですが、友情っていいなあと感じさせます。
男性中心の社会を感じるのは、国を超えて共通のこと。チェ・ソンファのように、うまく上も下も見ながらちゃんと仕事していく姿は、かっこよくてうれしくなります。
このドラマの唯一の欠点は、主人公5人がいい人すぎることかもしれません。ただ韓国で、このドラマが放送された3月から5月は、新型コロナの感染が拡大している時期で、癒しが必要でした。このドラマは癒しとなる存在だったのだと思います。
ジェットコースターぶりもファッションも必見の『夫婦の世界』
こちらも、有能な女性医師が主人公。理想的な妻であり、母でもあるチ・ソヌ(キム・ヒエ)は、夫の映画監督は仕事がうまくいっていないため、一家の経済も一身に背負っています。
一本の茶色い髪の毛から夫の不倫が明らかになり、これでもかというぐらいの復讐劇が繰り広げられるストーリーで、主人公役キム・ヒエさんの、“執着と猟奇”の演技が見どころです。
ずっと緊張が続き、視聴者を引きずり込んでしまう。予想外の展開に腹が立つけど、どうなるか気になって、続きを観ざるをえないというドラマでした。
『愛の不時着』であたたかい人柄の耳野郎として人気だったキム・ヨンミンさんも出演しています。彼は、『夫婦の世界』では打って変わって、隣家の嫌な夫を演じています。主人公の夫は、不倫していたくせに妻を愛していたなどと言うし、最低の男たちです。こういうひどい男っているのよねぇと、ああだこうだ語られて、視聴率が上がっていった、というタイプのドラマです。
周囲の韓国の友達は、もうひとつの見どころであるキム・ヒエさんのファッションチェックに忙しかったようです。こんなに着替えなくていいんじゃないかというほどのコーディネート数で、何を身に着けていたかが毎回話題になっていました。40代後半の女性が、こうやってキリッとおしゃれしているのがかっこいいということを、提示したんですね。
『夫婦の世界』(原題)
CSチャンネル・KNTVで10/19(月) アンコール放送スタート 毎週月・火 7:00~8:30
本音で勝っていく姿が最高にかっこいい『ハイエナ』
一匹オオカミの女性弁護士(キム・ヘス)が、大手弁護士事務所の超エリート弁護士と競い合い勝っていく爽快なストーリー。父も兄も法曹界の重鎮で、スーツ姿がバリっとかっこいい男性主人公のユン・ヒジェ(チュ・ジフン)より、冷静で一枚上手。しかも彼女は、スタイリッシュな彼とは対照的に、普段は赤いジャージで、なりふり構わず勝つために邁進するんです。
実際の韓国社会で起こっているような、財閥や政治がらみの問題を取り上げていて、その事件も面白いし、彼ら二人が相手側を出し抜いていくやり方も面白いし、展開がかっこいいんです。
韓国で、『梨泰院クラス』『夫婦の世界』とほぼ放映時間帯がかぶっていて、視聴率はそれほどでなかったけど、終わってみると大好きだったという人が多いのはこちらだったかもしれません。
キム・ヘスさんはなにしろ存在感が圧倒的。第2話でクラブのパーティーに乗り込んでいくシーンは圧巻。ドレスや派手なメイクで女を売り物にするのではなく、赤いジャージ姿なのに大クライアントを自分の味方へと引っ張り込んでしまいます。男にこびないで勝っていく。いい子ぶらないし、本音で出し抜いて行く。観ていて気持ちいいんですよね。
もちろんチェ・ジフンさんも魅力的なのですが。2006年、『宮~Love in Palace』で、貧しい女の子をプリンセスにしていく皇太子役で一世を風靡した彼が、『ハイエナ』ではできる女性にやられてしまう姿に好感を持たれるというのにも、時代の変化が表れているのでしょう。
3本とも「女性ヒロインが男性よりデキる」
今回、『愛の不時着』『梨泰院クラス』のあとに観たい、韓国で話題のドラマを3本を選んだら、結果的に合わせて3本すべてが、女性ヒロインが相手の男性以上にデキる人という設定でした。
10年前に話題のドラマ3本を選んだら、もしかしたら3本とも、財閥の御曹司と貧しくて健気な女の子のストーリーだったかもしれません。
韓国では日本よりも女性が社会で活躍する機会が増えてきていて、例えば新聞のコラムなども、女性の顔写真がたくさん載っています。発言する立場に女性が多いということですね。脚本家も圧倒的に女性が多い。2018年のME TOO運動のあと、さらに女性が思っていることをはっきり意識して見せていくドラマが多くなりました。
◆韓国では、『半沢直樹』のようなドラマは放映できない?
日本で大人気の『半沢直樹』のように、ほとんど男性の主要登場人物が争っていくというようなドラマは、今の韓国では放映できないのではないでしょうか。
私も10年間、会社組織に所属していましたが、上のほうは圧倒的に男性ばかりで、女性が関心を持つことや考えることは「女子供」のものとして片付けられていました。
多かれ少なかれ、職場や人間関係で納得いかない経験をしている日本の女性たちに、これらのドラマで「ああ気持ちいい!」と感じていただけたらと思います。
構成/新田由紀子
韓国在住ジャーナリスト 成川彩
9年間の朝日新聞記者生活ののち渡韓。東国大学校大学院で韓国映画を研究するかたわら、取材・執筆活動をしている。