〝新しい扉を開くとき〟にはこの映画!
滝沢カレンがレビューする【シェフ 三ツ星フードトラックはじめました】
▲アメリカ、2014年。約115分。Blu-ray¥1,800・DVD¥1,280/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
ロサンゼルスの一流レストランの総料理長・カールは、オーナーと対立し、突然店をやめてしまう。故郷マイアミで絶品のキューバサンドイッチに出合い、フードトラックでサンドイッチの移動販売を始める。マイアミからニューオーリンズ、ロサンゼルスへと旅を続けながら、本当に大切なものを見つけていく。
「映画を観るのが大好きで、おうち時間が増えた今、どこかの誰かの巡り合わせかのように私の前に現れた作品です」
以下、文・滝沢カレン
場所は、遥か飛行機で渡れるアメリカです。ダイナミックな高級レストランから顔を出すのは、シェフの男。名は知れているけど周りを気にする日々がつきまといます。今の時代を生きるには、周りにどう見られているか、なにを思われているかは、いやだと言っても私たちから離れませんよね。分かってはいるけど気になって仕方がないのも人間です。
そんな男は、気にしすぎる性格なのにSNSのスタートを切ってしまいます。すると悲しい文字を見るということに…。「見ちゃダメ見ちゃダメ」「結局見た」のあとに必ず起こる構図が堂々と映し出されています。
男は仕事をクビになり、マイアミで絶大なる美味しいサンドイッチと出会います。そこからサンドイッチとの大冒険が始まります
息子や仲間たちと共に、バキバキに壊れた車も冒険カーへと大変身。前向きな男の熱い夢が、観ている私にまで光を注いでいきます。場所や名前なんかより、誰とするか、そして心からの想いがあるかが大事なんだ。
その想いは街中にも勝手ながら広がっていき、誰もが喜ぶハッピーカーが出来上がるのです。彼らが行く場所にはいつだって人が集まり、男たちとサンドウィッチと旅は限りなく先に続きます。
1%からだって、50%からだって、80%からだって、私たちは丈夫な体と強い想いがあればなんだって広がっていく。0%なんてないのは、自分次第の可能性。1%からの山登りは誰だってつらいです。だから、下りようかな、下りた方がそりゃラクだよな、と心の引き出しから声が聞こえてくるときだってあります。
でも、いつか登ることになる山だとしたら、一秒でもはやく登ってしまう方がいいじゃないか。だって、新しい夢を考える時間が一秒増えるのですからね。この作品は、シェフの男が80%の場所から、1%までズリズリと山底に滑っていってしまったような、いてもたってもいられない感情から始まります。
でも80%の景色を知っている男は、100%どころか500%を希望に進むんだ、という力強さがあります。
積み重ねていたものが形にならなかったり、つまずいてしまったり、思うように成功しなかったり、そんなこと、100年人生のうちにはたくさんあると思います。きっと、ない方がもったいないくらいです。でも〝積み重ねてきた〟という事実とあきらめない気持ちがあれば、何度だって挑戦することができる。
成功した人はもちろんかっこいい。でも失敗して、どうしようかと悩み、あれか? これか? と自分に聞いて進んでいくかっこよさは、なんだか1000年生きた大木のような顔をするのです。自分が積み重ねてきた人生はもちろんずっと大切にしていきたい。でも新しい扉を開き、険しい道を進んでいけば、もっと見える未来が笑っているんじゃないかと思うのです。
私にとって、次の挑戦は紛れもなく「Oggi」です。モデルもシェフと同じで、新しい時代を切り開き、そこに皆さんをご招待する仕事だと思っています。まだOggiでの撮影はたった二回ですが、これまでの自分を生かすことだって、捨てることだって、この挑戦には必要だと感じています。
努力に決まったルールなんてないのだから、自由に決めつけない道を歩いて行こう。早く明日になってほしい、とすら思える、未来への力をもらいました。
この映画を観ていると思い出になるだけではなく、自分の鏡のような感覚で世界が動いていきました。素敵な時間ありがとうございました。
2020年Oggi7月号「映画時間は至福のとき。『私が受けた、映画のグーパンチ』」より
撮影/倉本ゴリ(Pygmy Company) モデル/滝沢カレン 構成/須藤由美
再構成/Oggi.jp編集部