様々なドラマが生まれた「神田カレーグランプリ決定戦2018」
11月3日、4日に行われた神田カレーグランプリ決定戦2018。今年は42000人の来場者数だったそうです。年を重ねるごとに大きなイベントに成長しています。神田カレースタンプラリーは11月末まで開催中なので、イベント自体はまだ終了しているわけではないのですが、メインのグランプリ決定戦。今年は様々なドラマが生まれました。
ここ数年は企業経営のお店が上位入賞することが多く、結局は企業力なのかと思っていたところが、今年は個人店舗の頑張りが顕著で、今後のグランプリにも期待できる結果となりました。
そんな中、ひとつの個人店舗が壮絶な物語を生んでいました。女性店主なつみさんが一人で切り盛りする文字通りの個人店、キッチン723。
今年初参加で見事予選通過。僕としても以前から足繁く通うお気に入り店だったので、台風の目になるのではと期待していたのですが、台風の目どころかお店に台風が襲い掛かるような事態に。
何と初日に前代未聞の大遅刻。一体何故?
話を聞いてみると驚きと感動の連続! 今回は趣向を変えて、神田カレーグランプリに隠された感動秘話をお届けしたいと思います。以下、常連客である僕と店主のなつみさんの会話です。僕はお店で飲みながら、なつみさんは料理を作りながらの会話であることを想像しながら読んでいただければと思います。
(カレーおじさん\(^o^)/:カ なつみさん:な 他のお客さん:客)
カ:それにしても今年は大変だったね。初日は結局何時にカレー出せたの?
な:17時だよ! 1時間半しか出せなかったの。
カ:マジかー。でもちょっとでも間に合って良かったというか不幸中の幸いか。そもそも何でそんなに遅れたの?
な:もうねー、本当に大変だったんだから! 一言じゃいえないんだけどさ、あえて一言でいうなら、作ったカレーの味に納得がいかなかったんだよね。
カ:仕込み数日前からしてたけど、日がたって味が変わっちゃったってこと?
な:それもあるし、カレーってさ、1000人前作るとして、10人前のレシピを単純に100倍したら同じ味になるわけじゃないでしょ。
カ:そうだね。
な:それがね、思ってた以上に変わっちゃってたの。そのどっちもかな。前日までは大丈夫だったんだけど、いざ当日火を入れ直して食べてみたら、突然違う味に変わっちゃってて。
カ:それ何時頃?
な:7時かな。カレー提供は11時からでしょ。だから残された時間でどうにかしなくちゃってテンパっちゃって。スパイス追加したり、色々やってみたんだけど全然うまくいかなくて。色んな人が協力してくれてね、ああでもないこうでもない言いながら作り直して、結果的にこれなら何とか食べられるなという味にはなって、他の人も「これなら普通に美味しいよ」って言ってくれたんだけどね、これは私の味じゃないって思っちゃって。結局1000人前以上のカレーを泣きながら捨てたの。それが12時頃だったかなぁ。
客:1000人前! もったいない!
カ:いや、でもさ、それって結局カレーを商売道具にしてないってことだよね。仕事としてカレー作ってるだけなら、普通に美味しければ出してただろうけど、なっちゃん(なつみさん)は元々カレー好きでカレー作り出した人だから、単純に納得できなかったと。
な:そうなの。私も馬鹿だよねぇ。それでね、本当に沢山の人が手伝ってくれたのに泣きながら捨てて、途方にくれてお店の前で一人で号泣してたの。そしたらさ、目の前のお蕎麦屋さんが心配して出てきてね、「どうしたの?」って。それで、こうこうこういうわけで1000人前のカレーを捨ててどうしたら良いのかわからなくってって。そしたらね、「泣いてる場合じゃないよ。すぐ作ろう。俺は肉焼けば良い? 手伝うから!」って。
カ:なにそれ超イケメン!
客:あの蕎麦屋さん、そんなことするんだ!
な:そうなの。本当に良い人でさ、それで私も目が覚めて、泣くの辞めて自転車でスパイス買いに行ったのよ。
客:あの外国人のお店?
な:そう。いつものあそこ。そしたらね、海外の人だからさ、宗教的にお祈りの時間だったらしくてお祈りしてるのよ!
一同:爆笑
な:こっちは一刻も早くカレー作りたいし、なんなら神様に祈りたいのはこっちの方だってのに!
一同:爆笑
な:もう仕方ないから待ってさ、スパイス買ったよ。でね、他のお店の人達も本当に協力してくれて手分けして仕込みしてくれて。
カ:それは近くのお店の人に頼んだの?
な:そうじゃないのよ。1週間前くらいからお店休んだりしながら仕込みしてたじゃない? それなのに当日723のカレーが出ていないって、みんなどこからか聞いたらしくて、こっちからお願いとか一切してないのに、色んなお店の人が来てくれて、俺はあれやる、私はこれやるって、自分から力貸してくれて。
カ:凄いな神田!
な:ね。本当に凄い街。最初はね、うちのカレーって鶏肉をスパイスとかハーブに漬け込んでから焼いて作るんだけど、それができないから諦めてたのよ。そしたら近くのお店の人が「それならうちで使ってる鶏肉が似たようなレシピで漬けてるから、それ使いなよ」って。
客:おおお!
な:ありえないよね普通。そこまでしてくれたらさ、なんかもうみんな力貸してくれるしさ、何とか今日中に間に合わせなくちゃって、そこから死ぬ思いで作って何とか17時に間に合って。
客:これが本当の神田カレーだ!
な:そうなの! これこそ本当の神田カレーだし、こんなに他人に迷惑かけたカレー他に無いから!
一同:爆笑
な:もうね、一人じゃ何もできないなって思ったし、みんなが力貸してくれたからこそギリギリ初日間に合って、二日目はちゃんと普通に出せて。改めて神田って良い街だなぁって思ったよほんと。だからね、来年はリベンジしたい。今回のことで色々勉強になったし、追い詰められて短時間で大量に作れるスキル身に付いたから。
カ:よし! 来年もやろう! 今度は神田カレーって名前で出すと良いよ!
客:神田愛カレーが良いかも!
な:それいいかもね! でもまずは予選通らないとだし、そもそも今回の大失態、運営さんが許してくれたらなんだけどね。あー、突然思い出した! 色々支払いしないといけないんだった! 大赤字だよー! せっかく最近さ、旦那と家買おうかなんて話をしてたところなのにさ、この出費は本当に痛い。
客:玄関ちっちゃくすればいけるんじゃないですか?
カ:階段3段くらい減らせば?
な:おい(笑)! でもね、本当にリベンジしたい。家とかそういうのはその後。まずは神田の皆さんに恩返ししないと!
こんな話をしている間にも、入れ替わり立ち替わり、近所の方達が723のカレーを食べに来ていました。本当に地域に愛されているお店だなと改めて思い知りました。それもこれも店主なつみさんの人徳あってこそ。
江戸っ子はよく、口は悪いが人は良いと言われます。なつみさんはまさにそんな人なんですよ。江戸っ子じゃないんですけれども(笑)。でも、下手な江戸っ子よりよっぽど江戸っ子感がある素敵な人。だからこそまわりのお店の方々に愛されて、今回のような物語が生まれたのでしょう。
神田、本当に素敵な街です。そしてなつみさんも素敵な人だし、キッチン723も素敵なお店です。カレーもお世辞抜きに美味しくて、何よりお店自体が楽しい。こんなお店が入賞したら、神田カレーグランプリはもっと楽しくなるのになと思ったりもします。
先述したように今もまだスタンプラリーは続行中なので、この記事を読んで気になった方は是非キッチン723へカレーを食べに行ってみてください。そして、まだ神田カレーマイスターになるのも可能です。マイスターになってから参加すると、さらに楽しめるイベントですから。来年の神田カレーグランプリ、一体どうなりますことやら。今から楽しみです。
最後に、今回のカレーグランプリでキッチン723に協力したお店、団体を是非紹介して欲しいとなつみさんから連絡ありましたのでまとめておきます。僕も行ったことのあるお店がいくつか含まれていましたが、確かに素敵なお店ばかり。神田で飲み食いする際には覚えておいて損は無いと思います。
apron、居酒屋きみ竹、鍛冶町二丁目会、神田ふれあい商店会、ギンポーパック、カラオケアニソンバーロンドベル、神田焼き鳥ダイニングYTD、小粋酒場、酒園、蕎麦わびすけ、東京ユニフォーム、肉バルメキシカンソル岩本町、幡随院長兵衛、焼き鳥バードメン、ユニオン化学、和酒彩菜遊月亭(以上、敬称略、50音順)
初出:しごとなでしこ
AKINO LEE カレーおじさん\(^o^)/
ヴォーカリスト、パフォーマーとして自身の活動の他、様々なアイドルの作詞作曲振付プロデュースを担当。ヴォイストレーナーとして後進の育成にも力を注いでいる。
音楽ライターとしても各種雑誌、ムック本などで執筆を担当。また、カレーおじさん\(^o^)/としても知られ、年間平均1000食以上のカレーを食べてきた経験と知識を活かしてTVや雑誌など各種メディアにおいてカレーについて語っている。
http://www.akinolee.tokyo/