「同棲」は「結婚」への近い道ではない!?
バーで若い女性たちに常々、「同棲はいけない」と言ってまして、その理由を説明します。
例えば20代前半の時に「もうとにかく一緒にいたいから」っていう理由で彼の部屋に半同棲みたいな形で1か月くらい居着いちゃうなんていうのはアリです。そういう情熱的な恋愛って、20代前半までの若いうちしかできません。生まれて初めて他人とずっとくっついてすごす休日とか、誰かを全身で受け止める気持ちとかは経験したほうが良いように思います。
あるいはお互いの親にも会って、ちゃんと婚約もして、半年後には結婚をする予定という状態で、実験的に一緒に住む、という同棲もアリだと思います。やっぱり他人同士がひとつの屋根の下で生活をするということは様々な問題が生じます。とにかくこの人のご飯の食べ方がイヤだとか、金銭感覚がどうしても違うとか、すごくマザコンだったんだとか、結婚前に知っておくべきことを発見できるチャンスでもあります。それで「やっぱりこの人は違うかも」と感じたら婚約を解消して、別れてしまえば良いわけです。
しかし僕が絶対にやめたほうが良いと感じるのはこんな同棲です。お互いが30歳前後で、仕事もバリバリやっていて充実しています。そしてふたりは何らかの出会いがあって、交際が始まるのですが、どちらかの部屋に泊まることが多くなってしまって、「だったらふたりで部屋を借りた方が安いんじゃない?」という安易な同棲のパターンです。
こういうふたりは仕事でやりたいことがたくさんあるので、子供なんてまだ欲しくないし、だったら結婚なんてする理由もみつかりません。お互いの遊び友達もすごく重なっているし、「結婚は所帯じみていてなんだか自分達にはまだまだ関係ない世界の話」だと感じています。
「男女の恋愛感情が続くのは3年間」というのはご存知ですよね。科学的に証明されているそうです。もう本気で夢中になって周りが見えなくなるような恋愛感情は、本当に3、4年で終わってしまいます。
だとしたらその30歳前後の同棲カップルはどうなるでしょうか。まずセックスをしなくなります。そして「兄妹みたいな関係」になります。別にそんな決定的な喧嘩もしないし、すごく仲が良いのですが、ドキドキするような恋愛関係ではなくなってしまうのです。
ここでお互いが同じ部屋に一緒に住んでいなければ、デートの回数やセックスの回数がぐぐっと減るので「私たち、もう会う理由がないんじゃない?」ということになって、お別れということになるのですが、同棲しているふたりはそういうわけにはいかないんですよね。
まず兄妹のように仲が良いから「別れる理由」がないんです。そして周りのよく一緒に遊んでいる友達も「彼らはもうほぼ夫婦みたいなカップル」と認識しているから、なんとなくぬるま湯のような関係が進行してしまうんです。
同棲解消、その後に……
そして、30代半ばくらいになったら、どちらかの仕事の問題とか、まあ大体は男の方が他に好きな女性ができて別れることになります。
すると女性が30代半ばで「独りぼっち」になってしまいますね。実は僕はバーテンダーという仕事をしていて、こういう女性をもう山のように見てきています。申し訳ないのですが率直に言います、この状態でポンと世間に放り出された女性はすぐには恋愛できません。長い間、恋愛ごっこのようなものをしていなかったので、他の同い年くらいの女性の真剣な「良い男争奪戦」にはうまく参加ができない状態になっています。
そして、本当にこういう言い方はよくないとは思うのですが、いつの間にか「アラフォーの結婚できない女」というジャンルに入れられてしまいます。僕は何も結婚がいちばん幸せと思っているわけではありません。ずっと独身で好きな仕事や好きな趣味に打ち込んで、自分で家やマンションを買って、時には海外旅行に行ってと、優雅な独身生活を楽しんでいる女性をたくさん知っています。
しかし割合的に言うと、そういう優雅な独身生活をおくれる女性は1割くらいです。ほとんどの女性が世間体を気にしたり、結婚相談所に入会したりします。
そして、ほとんどの女性が「20代の時は私はあんなにモテたし、弁護士でイケメンの彼の申し出を断ったし、一流企業に勤めていた恋人が結婚しようって言ってくれたのも断ったのに、どうして今さらこんな残り物のつまんない男達の中から結婚相手を選ばなきゃいけないんだろう」と悩みはじめます。
僕が冒頭で「娘には同棲は反対する」と書いたのはこういう理由です。できることなら娘にはこんな風な悩みを持って欲しくないです。
60歳をこえてもすごく楽しい独身生活をおくっている女性はたくさんいるのは本当に知っています。でも、だらだらと同棲をしているほとんどの女性が30代なかばで突然同棲を解消して独りぼっちになって悩みます。同棲は半年続いたら「結婚」を考えて下さい。
BAR BOSSA 林 伸次
1969年徳島県生まれ。レコード屋、ブラジル料理屋、バー勤務を経て、1997年渋谷にワンイバー「BAR BOSSA」をオープンする。カウンターの向こう側から、そこに集う人の人間模様を見守り続け、エッセイストとしても活躍。2018年7月には待望の初の恋愛小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる』(幻冬舎)を発表。スタンダードナンバーの音楽とお酒のエピソードとともに綴られるのは、切なさの溢れるラブストーリー。学生から大人世代まで、自身の恋の記憶を呼び起こす珠玉の一冊。Amazonのページはコチラ