本番前は、座って床を触っていると落ち着きます
14歳で芸能界入りした森田さんの舞台初主演は26歳のとき。それから多くの経験を積んできても、いまだ変わらない感覚があると森田さんは語ります。
森田 剛さん(以下、森田):舞台でしか味わえない楽しさはたくさんあるけれど、でもやっぱり…いつになっても舞台は怖いです。幕が開いたら何があっても止めることができないし、お客さんが目の前にいる。それが醍醐味でもあるけれど、どれだけ経験を積んでも、人に見られるのは緊張するし、セリフを忘れたらどうしようという恐怖心はなくなりません。でも、それも含めて舞台でしかできない体験。この感覚は大事にしたいと思います。

――緊張や怖さを拭う方法は、何かあるのでしょうか。
森田:ない、ですね。やるとなったら腹をくくるしかなくて、あとはシンプルに一生懸命にやる。怖さを乗り越える方法は、それしかない気がします。
稽古前はずっと緊張しているし、稽古が始まれば最初のうちは緊張感と「恥ずかしさ」があって。本番が近づいてきたら、緊張はどんどん大きくなって。本番に出ていく前は、床を触っていると落ち着くみたいで。床の上に座っていることが多いです。
食事はあまり取らなくなるけど――食べる欲はないもので――舞台が終わったら何を食べたいという欲求も特になくて。ただ、終わったらすぐゴルフをやりたいかな。

――3月開幕となる舞台『砂の女』ですが、お稽古を目前にした今、本作の面白さはどんなところに感じていらっしゃいますか。
森田:まず、囲われた空間で「監禁される側」「見守る側」という設定に興味をもっていました。そして僕が演じる「男」は、小ズルくて自分勝手な人なんだと感じています。
そんな男が砂の穴の中に入って自由を奪われる。なんだけど、彼なりの自由と幸せを見出してしまったともいえるし、そのあたりが文学的で面白い。そしてそんな男の行動が、わかる気もします。家族もいて、学校の教師という仕事があって、まじめで、同僚もいて、そんな男が見出す自由ってなんなんだろう。自由を奪われたなかで出会った女から、影響を受けて変わっていくと様子は、考えさせられます。この男、昆虫が好きだというのも、皮肉な感じでいい。

<あらすじ>
教師の男・仁木順平は夏に休暇を取り、昆虫採集のために海際の砂丘に赴いた。そこには、一風変わった村があり、家々がまるで蟻地獄の巣のように、今にも砂に埋もれてしまいそう。男は村の老人にすすめられ、そのうちの一軒に泊まることに。家の中では、断続的に降り注ぐ砂に家が埋まってしまわないよう、家主の女がひとりせっせと砂掻きに精を出していた。なんとか砂の穴から脱出しようと、思いつく限りのあらゆる方法を試みる男だが…。
植物、動物、おいしいもの。日常の小さな幸せが大事
――もしもご自身が、男と同じような状況になったら、どうすると思いますか? もがくか、諦めるか、何もしないか…。
森田:どうなんだろう。乾いていく感情と、一方でどこか潤っていく気持ちがあったんだろうということは理解できるけど…。自分だったら、という考え方はあまりしないんです。

――もともと、演じるときに原作はお読みにならないとおっしゃっていましたが、今回も…?
森田:読んでないです。たぶん、読まないと思います。でも、映画(『砂の女』1964年)は好きだったし、今回はいい台本があるし、しっかり読めば大丈かなと思っています。
――セリフを覚えるとき、ご自分だけの方法はあるのでしょうか。
森田:家から出ずに“こもる”んですけど、ある程度覚えたら、外に出て歩きながら反復します。これがいちばん覚えやすいみたいで。見える景色が変わると、気分も変わっていいんです。

――では、ここから短く一問一答で。本作では、男の趣味が昆虫採集ですが、では森田さんの「虫」にまつわる思い出というと?
森田:子供のころ、よくセミ捕りをしていました。たこ糸をつけて、お散歩させたりしてましたね。
――「砂」から連想するものは?
森田:やっぱり子供のころ、砂団子かな。砂場の砂を丸めてズボンでこすってカチカチにして、それをいっぱい作って遊んでました。
――男は穴の中で、あるものに「希望」という名前をつけていました。では、森田さんにとって「希望」とは?
森田:娘、じゃないですかね。

――日常でいちばん幸せなときは?
森田:けっこうありますよ。おいしいものを好きな人と食べているとき、植物や動物など好きなものに囲まれているとき。小さなことでも、いや小さなことだからこそ、すごく大事です。
――では最後に。Oggi読者は30代の働く女性たちです。森田さんの30代での経験で、今に生きていることがあれば、教えてください。
森田:なにも、ない!(笑)今思っても、30代の経験なんてなんの意味もなかったと思います。だって、あのころ舞台でビビってた自分が、いまでもこんなに緊張してビビり散らかしてるんだから。どれだけ舞台を経験しても毎回リセットされて、慣れることなんてないし。でも、だからやりたくなるんです。

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舞台『砂の女』
東京・紀伊國屋ホール2026年3月19日~4月5日、仙台・電力ホール4月8日、青森・SG GROUPホールはちのへ(八戸市公会堂)4月11日、大阪・森ノ宮ピロティホール4月18~20日上演。
原作:安部公房
脚本・演出:山西竜矢
企画・制作:レプロエンタテインメント
製作:『砂の女』製作委員会
公式HP
撮影/花村克彦 スタイリスト/松川 総 ヘアメイク/高草木剛(VANITÉS) 取材・文/南 ゆかり
ジャケット ¥71,500・Tシャツ ¥17,600(キャプテン サンシャイン/TEL 03-6712-6830) 他スタイリスト私物

森田 剛
1979年生まれ、埼玉県出身。近年の主な出演作にドラマ『インフォーマ』、映画『前科者』『白鍵と黒鍵の間に』『劇場版 アナウンサーたちの戦争』『雨の中の慾情』、舞台『台風23号』『ロスメルスホルム』『みんな我が子』『ヴォイツェック』『台風23号』など。短編映画『DEATH DAYS』では企画制作・主演を務めた。



