「たくさんの方に愛されている作品・キャラクターだからこそ、どう自分らしく演じるかを模索しました」
──「サラリーマン金太郎」は過去に何度か実写化もされている人気作ですが、演じるにあたってプレッシャーを感じることはありましたか?
プレッシャーはありませんでした。原作や実写ドラマなど「サラリーマン金太郎」は作品もキャラクターも知られているのはもちろん、たくさんの人から愛されている作品なので、令和版にふさわしい金太郎をどうやったら描けるかなと前向きに考えました。
──鈴木さんなりの矢島金太郎はどんなところが見どころですか?
これまでの実写ドラマはもちろん拝見していて、「金太郎」というキャラクターに対しての解釈は同じでした。そこに僕がプラスαできることはなんだろうと考えたときに、現代ではなかなか見ないような型破りな性格だけど、どこか応援したくなるような真っ直ぐさや情熱をもっているところだと思ったんです。
台本には金太郎のセリフにびっくりマークがたくさんついていて、ここで「うわーっ!! 」と騒がしさがほしいと思えるような部分が多かったです。なので、脚本に引っ張っていただきながら僕ならではの金太郎が完成していった感覚もあります。
──「時の流れに沿ってアップデート重ねた」というのが本作の見どころでもありますが、鈴木さんが今回の映画でアップデートしたことは?
喉の強さです! 今までの3倍ぐらい、とにかく叫んだので、血管が切れるんじゃないかと思いました(笑)。 品川駅前の撮影時にも大声を出すシーンがあったのですが、通勤ラッシュのサラリーマンのみなさんが驚いていらっしゃいました。こんなサラリーマンはやっぱり珍しいんだ、と改めて感じました。
──鈴木さん自身は、今の令和の時代をどう生きていこうと思っていますか?
大変なことや肩身が狭く感じることが少なくない世の中ですが、安心して寝ることができて、毎日おいしいご飯が食べられる日々が幸せだなって思います。もうちょっとこうだったらな、と感じる部分ももちろんありますが、やっぱり平和であることが一番。ないものを欲するよりは、現状こうやって安心できる暮らしが当たり前であることに感謝したいですね。「これがいいんだ」「これで十分だ」という気持ちを抱きながら生きていくのが令和なのかなと思います。
「金太郎のこと、僕は結構好きです」
──鈴木さんにとって、矢島金太郎というキャラクターはどんな印象ですか?
原作も読ませていただき、前時代的な部分はあるものの、現代に精通することもたくさんあるという印象を抱きました。令和はさまざまなことが厳しくなった部分もあり、言葉ひとつとっても慎重に選ぶ時代なのかなと感じています。でもそんな時代だからこそ、頭で考えてからではなく思ったまま素直に発する金太郎の言葉は刺さるのではないでしょうか。サラリーマンとは全く異なる、漁業に身を置いた人が生きた言葉を話すので、世代を問わず、見ていて爽快感を得られるシーンがたくさんあると思います。
──理不尽に感じることがあっても見て見ぬふりをする、といった独特の会社組織のルールの中で奮闘する役柄を演じてみていかがでしたか?
そういった問題に対し、何か言いたくなることや感じることはどの時代も一緒だと思うんです。だからこそ、今回の映画「サラリーマン金太郎」の世界のようにもっと風通しがいい世の中になってほしい。譲れないものは絶対に譲れない! と金太郎のように生きていくのは、ときとして大変なことも多いと思いますが、全部を飲み込んで自分を押し殺すより、もっともっと楽しいんじゃないかなと思います。
──金太郎を演じるにあたって一番大切にしたことは?
信念を持っているキャラクターだと伝わるように意識しました。昨今は聞きづらいことや言いづらいこと、知っていて当たり前だという空気感もあるのが実情ですが、金太郎は物怖じせずに行動していくし、豪快に失敗もしていく。間違っていると感じることに対してぐいぐい突っ込んでいくので「臆さない男」という軸はブレないようにしました。
異業種から転職して右も左も分からない中で無茶な業務を言い渡されても、あれこれ深く考えず一生懸命に取り組む金太郎が僕はとても好きです。そういう一面をいろいろな人に認められて立派なサラリーマンに成長していくので、ただ頑固で融通がきかない人物に映らないようには気をつけました。
──作中ではスーツでのアクションシーンが多いですよね。
スーツに革靴でのアクションは独特というか、不思議な感覚がありました。サラリーマンなのにこんなに人を殴っていいのかなっていう気持ちにもなったのですが、それが金太郎だし、と思い切って臨みました。
──撮影に向けて、どんな体力作りやボディメイクをしましたか?
力いっぱい喋り、体をたくさん動かすことに備え、ランニングしたりジムで筋トレしたりして準備しました。あとは体の内側も健やかにということで、にんにく注射をよく打ちに行きましたね。
「切り込んでいくシーンは気持ちよかったです」
──「勇猛果敢」という言葉がぴったりな金太郎ですが、ご自身を強くたくましいテンションに持っていくために意識したことは?
迷いなく、直観的に行動するイメージを大事にしたかったので、細かいことは考えず演じるようにしていました。僕自身は金太郎のように気持ちが高まるようなことはあまりないので、普通ならこれ以上立ち入れないグレーゾーンにも「気に食わない!」と切り込んでいく姿は演じていて気持ちよかったです。
──声を張ったりアクションしたりと体力を使うシーンが多いですが、撮影中特に大変だったことはありますか?
真冬の撮影だったので、とにかく寒かったです! 僕は寒いのが苦手なタイプなので、基本はカイロをありとあらゆるところに貼って対応していたのですが、アクションシーン中は暑くなって外したくなるし、撮り終わると寒くなるので、スタイリストさんが大変そうでした。
あと船首から海に飛び込むシーンがあったのですが、僕、高所恐怖症なんです。大きな船だし、船首は反り気味だし、さらに海面を185cm(鈴木さんの身長)上から見るので怖かったです…。「カットをかけるまでブワーッと泳いで行ってください」と言われ、「用意、スタート! 」は聞こえたものの泳ぎ始めると音が全く聞こえず、「まだかな」なんて思いながらずっと泳いでいて。体力がもたなくなってきて泳ぐのをやめたら、もうとっくにカットがかかっていた、ということもありました。
──とても豪華なキャストが出演されていますが、撮影中に印象的だったエピソードを教えてください。
今回浅野温子さんと初めてご一緒させていただいたのですが、優しくておおらかで、 本当にリスペクトできる素敵な方でした。撮影期間中に浅野さんが誕生日を迎えられることを知り、浅野さんのマネージャーさんにお好きなものをお聞きしたのですが、お酒がお好きだと知りました。僕はお酒に詳しくないので近所の酒屋さんでおすすめをお聞きし、日本酒を準備しました。実は日本酒より焼酎の方がお好きだったようなのですが、お渡ししたところとても喜んでくださいました! ご自身の撮影がない日にお菓子や栄養ドリンクをくださったりとお気遣いいただいて、心が温まったのを覚えています。
「〝自分も1歩踏み出してみよう〟と思ってもらえたら」
──働く方々に、この作品を通じてどんなことを感じ取ってほしいですか?
俺らの時代ってこうだったよな、懐かしいな、という感想を抱く方も、フィクションとして楽しむ方もいると思いますが、世代を問わず登場人物に共感できるところがある気がしています。「金太郎みたいな人がいたらいいな」「もうちょっとこういう時代になってもいいよね」「ちょっと窮屈になりすぎていたね」などと感じる人もいるはず。金太郎の勇猛さに笑ったり感動したりして、「明日からまた仕事頑張ろう」「勇気を出して一歩踏み出してみよう」などと思ってもらえたらうれしいです。
──鈴木さんが仕事をする上で一番大切にしていることは?
お芝居でいうと、原作がある作品に出演する機会が多いので、原作ファンの方々が観てもなるべく違和感がないよう人物になりきること。この人が演じてよかったなって思ってもらえることを目標にしています。オリジナル作品では、与えていただいた役のイメージにハマるにはどうしたらいいかを考えるようにしています。お芝居でもアーティスト活動でも、さまざまな分野の方々と一緒にひとつのものを作り上げるので、 自分に与えられた役割をしっかり全うしたいという気持ちを大切にしています。
──デビューから10年以上経ちますが、これまでの約10年間を振り返ってみて、撮影現場で感じることの変化はありますか?
気づいたら10年! という感覚で、改めて10年と思うとちょっと怖いです。今現在32歳で、ここからまた10年というと40代。40代に入ったら50代になるのもあっという間な気がしています。過ぎてみると10年はあっという間で、目の前のことを本気でやっていかないと足跡が残せないなと感じています。20代のときと仕事に対する向き合い方は変わったかもしれませんね。
──向き合い方次第で感触が異なった経験があるのでしょうか
自分が満足いくまで作品や役に向き合えたときは、充実感を得られるんです。そしてその充実感は心に残る。いただいたお仕事をがむしゃらに取り組むだけでなく、特にこれからの10年は「やりきった!」と毎回思えるように仕事をしていきたいです。
──俳優としてさまざまな作品に出演、またアーティストなど幅広く活躍されていますが、それぞれのお仕事でのスイッチの切り替え方法を教えてください。
楽観的なタイプだからか、ひとつのモードに引っ張られるということはほとんどありません。現場によって衣装や台本はもちろん、撮ってくださる監督も変わるので、自動的に切り替わるのかもしれません。もしかしたら、求められていることを臨機応変かつ丁寧に表現していきたいと考えていることも、無意識ながらスイッチの切り替えのひとつになっているのかもしれないです。
「オフの日は極力外に出たくないです(笑)」
──ご自身でどんな性格だと思いますか?
出不精な人! 極力働きたくないな、宝くじでも当たらないかな、なんて考えることもあります(笑)。とはいえ、時代を象徴するような作品や役に出合いたいという気持ちも強い。出演作品が決まると、そこに向けて「やるからには最高のものを」と全力で取り組みます。サウナ巡りや海外旅行したい、などと、ふとアクティブに考えることもありますが、オンオフのメリハリがついていることが日々頑張れる秘訣なのかもしれません。
──ではお休みの日は、サウナに行ったりする以外はほぼ外に出ないですか?
そうですね、あまり出ないかもしれません。サウナ巡りが好きで新しくできたスポットなど耳寄りな情報をいただくと実際に足を運んでみることも。基本は都内近郊が多いですが、撮影など何かの機会で地方へ行ったときに気になっていたところに寄ることもあります。
──落ち込んだり悩んだりしたとき、どうやって気を取り直しますか?
さほど気にしないようにしています。もしそれでも気になっちゃうようだったら、「それ以上にいいもので塗り替えてやろう」「超えてやるから今に見てろ! 」とモチベーションに変えることが多いです。
──これがあるとご機嫌! というものはありますか?
最近はYouTubeをよく見ています。 流れてくる動画をひたすら見ている感じで、粗品さんやさらば青春の光さんのチャンネル、あと中川家さんのコントなど。振り返ってみると芸人さんの動画が多いです。空き時間ができると自分が関わっているジャンルとは異なる分野の動画を見て、気分転換しています。
──この先どんな役を演じてみたいですか。
10年くらいずっと愛を語り続けているのですが、『海猿』のような作品に挑戦してみたいです! 仕事・友情・恋愛が描かれるストーリーで、情熱がある主人公を演じたい。救助シーンなども挑んでみたいですね。
──本作品は前後編とも2025年に公開されますが、2025年はどんな1年にしたいですか。
変わらず、いただいた役を真摯に演じていきたいです。観た人が笑顔になったり、感動したりしてくれたらうれしいです。ありきたりかもしれないですが、充実した1年にしたい!
僕がやっていることが、みなさんの息抜きになるように
──最後に、働く30代に向けてメッセージをください!
20代でひと通りあらゆることを経験し、さまざまな人に出会って、30代は余裕も生まれてくるなと、僕も30代になってみて思います。でも、30代ならではの壁もありますよね。読者の方の中には出産や結婚を経験したり、人生の分岐点を迎えるタイミングでもあるかもしれません。そんな中で僕ができることは、作品や役を通してみなさんの日頃のストレスを軽減することだと思っています。笑顔になれる瞬間や感動できる瞬間を作り出すきっかけになれるように、僕も頑張っていくので一緒に頑張っていけたらうれしいです。
映画『サラリーマン金太郎』
【暁】編/2025年1月10日公開
〈あらすじ〉
青森県大間町でマグロ漁師をしていた矢島金太郎(鈴木伸之)は、海で遭難していた老人、大和守之助(榎木孝明)を助けたことから、大和が会長を務めるヤマト建設に入社。生まれて初めてのサラリーマン生活に戸惑いながらも、持ち前の誠実と大胆な行動力で仲間を増やし、大和会長や黒川専務(尾美としのり)の信頼を勝ち取っていく。しかしヤマト建設は、天下りしてきた元官僚の大島社長(橋本じゅん)に牛耳られようとしていた。金太郎は大島社長の子飼いの事業部長、鷹司(城田優)の計略にはまり、大和会長らを窮地に追い込んでしまう。金太郎らは形勢逆転のため、大島社長の不正の証拠を掴もうと奔走する。
出演:
鈴木伸之
城田優 石田ニコル 文音 影山優佳
竹島由夏 米倉れいあ 山口大地 斎藤さらら 前田瑞貴 川合智己 佳久創
橋本じゅん 尾美としのり 浅野温子
榎木孝明
【魁】編/2025年2月7日公開
〈あらすじ〉
マグロ漁船の漁師からヤマト建設に入社した矢島金太郎(鈴木伸之)は、初めての本格的な仕事として地熱発電所建設のプロジェクトを任され、九州の小さな温泉町に赴任する。しかし工事現場を取り仕切る土木会社の一ツ橋社長(勝矢)は、下請け料とは別に2億円を要求し、支払われるまで工事はボイコットすると宣言。怒り心頭の金太郎は一ツ橋社長にケンカを挑むが、返り討ちにあって大怪我をしてしまう。怪我の療養中に温泉旅館を手伝うようになった金太郎は、見えてなかったさまざまな事情や、発電所建設を反対する町の人の思いに気づいていく。しかし裏で事態を操る、強大な黒幕の存在は浮かび上がり…。
出演:
鈴木伸之
城田優 石田ニコル 文音 影山優佳
竹島由夏 米倉れいあ 山口大地 斎藤さらら 前田瑞貴 川合智己 佳久創
草川拓弥 水谷果穂 勝矢 斉藤陽一郎 八⽊将康 市川知宏
中⽥喜⼦ 本田博太郎 尾美としのり 浅野温子
榎木孝明
原作:「サラリーマン金太郎」/本宮ひろ志(集英社刊)
監督:下山天
脚本:田中眞一
企画・製作:TIME 制作:楽映舎
主題歌:【暁】編:BALLISTIK BOYZ 「Get Wild」 【魁】編:GENERATIONS「Cozy」
配給:ライツキューブ ティ・ジョイ
©本宮ひろ志/集英社©2025映画『サラリーマン金太郎』製作委員会
公式サイト:映画『サラリーマン金太郎』
公式 Instagram・X:@s_kintaro_movie
Profile
鈴木伸之(すずき・のぶゆき)
1992年10月14日生まれ、神奈川県出身。2010年デビュー後、俳優やアーティストとして幅広く活動している。現在放送中の主演ドラマ「バントマン(フジテレビ系)」の主題歌「生涯ヒーロー」などを収録した初のEP『Action』が発売中。2025年1月期ドラマ「まどか 26歳、研修医やってます!(TBSテレビ系)」では主人公の指導医役を演じる。
撮影/田中麻以 ヘア&メイク/下川真矢(BERYL) スタイリスト/中瀬拓外 構成/岡野亜紀子・近藤亜衣子