「京都の春は、『都をどり』から」と言われていますが、その「都をどり」を実際に観賞された方はどれほどいらっしゃるでしょうか? 「都をどり」を見ずして、本当の京都の春を体験したことにはならないかもしれません。
「都をどり」は1872年(明治5年)からの歴史があり、京舞井上流の振り付けで京都の四季折々の風趣を華やかで格調高くまとめた、祇園甲部の芸妓さん・舞妓さんによる舞台です。
「都をどり」が行なわれる歌舞練場は、国の登録有形文化財にもなっていますが、建設から100年以上がたち耐震性の不足を受けて、2016年(平成28年)に休館。3年の耐震工事を経て7年ぶりに新装開場します。
京都の花街を訪れると舞妓さんや芸妓さんを見かけることはあっても、その本来の姿である舞や音曲を奏でる姿を見る機会はなかなか得られません。「都をどり」を観ることで、芸妓さん・舞妓さんの“本当の姿”を見られるとともに、京都の奥深さを体感できることでしょう。
初めての「都をどり」の魅力と楽しみ方
「都をどり」は初めての方も多いと思うので、魅力と楽しみ方を紹介します。「都をどり」の魅力は、奥深いものがあり、一言では表現できません。
祇園甲部歌舞練場に一歩足を踏み入れると、大正期につくられた大劇場建築らしい風格を感じさせてくれます。令和の大改修で手が加えられたとはいえ、内装の大部分を再利用するなど文化財としての価値はそのまま残されており、日本古来の伝統的な建築様式の魅力を十分に感じることができるでしょう。
▲大正時代の趣を残す貴重な木造建築の劇場。舞台と観客との距離が近いので、臨場感が得られます。
▲左右には、総をどりの舞い手が通る花道が。舞台上手には地方(唄・三味線)の列座、下手には囃子方(笛・小鼓・大鼓・太鼓)の列座があります。
「都をどり」の舞の指導をするのは、人間国宝でもある京舞井上流五世家元の井上八千代さん。井上さんは振り付け並びに総監督を務め、芸妓さん・舞妓さんたちに目の動きから裾さばき、腰のすわりなど一挙手一投足にいたるまで稽古をつけています。
芸妓さん・舞妓さんを始め、舞台を支える地方さんなどを含めると1日当たり総勢60名近くの出演者によって、舞台が作られます。
場面が変わるごとに着物も変わり、艶やかな芸妓さん・舞妓さんの演舞を鑑賞できます。
名物は、「都をどりはー」「ヨーイヤサー」のかけ声とともに、両花道から華やかに登場する芸妓さん・舞妓さんたち。揃いの藍地の着物が銀襖に美しく映えます。肩口から咲き誇る枝垂れ桜は、初演当時からの伝統的な図柄とのことです。
▲衣裳はすべて京友禅と西陣織の匠の手による逸品。
普段聴くことはない、三味線やお囃子、浄瑠璃などの生演奏も魅力的です。
京都の四季を詩情豊かに表現し、全八景一度も幕を下ろすことなく舞台は展開していきます。およそ1時間ほどの舞台ですが、その華やかさと優雅さに引き込まれ、きっと時が過ぎるのを忘れ楽しむことができるでしょう。
もしかすると「特別な人しか見られないんじゃないか」とか、「チケット代が高いんじゃない?」とか、「見てもよくわからないのでは?」などと心配する方もいらっしゃるかもしれませんね。
でも、そうした心配は必要ありません。初心者には音声ガイドによる、場面ごとの解説があるので予備知識がなくても十分楽しむことができます。
祇園花街の人々の思いが込もった、特別な今年の「都をどり」
京都の花街は、コロナ禍によってその活動が制限され、厳しい状況下に置かれていました。その影響により、芸妓さん・舞妓さんたちは芸を披露する多くの機会を失ってきました。しかし、その間も舞や三味線などの習練を積み重ねていました。
「都をどり」も例外ではなく、2年間も中断を余儀なくされました。今年は、祇園甲部歌舞練場の新装開場に合わせるかのように、新型コロナウイルス感染症による行動制限も緩和されることになり、例年以上に盛大な舞台が繰り広げられます。
およそ1時間の演目の中には、京都の夏の風物詩・祇園祭山鉾巡行の場面では復活した「鷹山」を取り上げたり、七夕伝説を題材にした舞台には中国的な衣裳を身に纏った芸妓さんが登場するなど、見どころは盛りだくさん。
また、フィナーレは国宝に指定された八坂神社の満開の桜の日本画を背景に、出演者全員が華やかに登場し幕を閉じます。このように今年は特にめでたさを全面に出した圧巻の構成になっています。
「この数年の苦しい時期を乗り越えて、ホームである祇園甲部歌舞練場で集うことができる!」、その喜びは祇園花街の関係者にとって言葉で言い尽くせぬものです。
そうした熱い想いは、芸妓さん・舞妓さんの華麗な舞、それを舞台の袖で支える地方さんの唄や三味線の音色にも宿り、特別な「都をどり」となるでしょう。そうした舞台は、観客一人一人の心を打ち、忘れることのできない京都の深い思い出になることと思います。
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私たちの日常生活の中で、日本古来の芸能に接する機会は稀なことです。ましてや、花街の方たちは別世界の人。だからこそ、「都をどり」を間近で観劇することは、深く記憶に残る体験になると思います。
◆観覧についてはこちら
【Information】
会期:2023年4月1日(土)~4月30日(日)
公演時間:1日3回公演
1回目12:00〜(お茶席11:00〜)
2回目14:20〜(お茶席13:20〜)
3回目16:40〜(お茶席15:40〜)
※開演30分前までにご入場ください。
※開演後のお茶席はございません。
会場:祇園甲部歌舞練場(京都市東山区祇園町南側570-2)
チケット:茶券付一等観覧券7,000円/一般観覧券6,000円/二等観覧券4,000円
申し込み方法:オンラインチケットもしくは電話での申し込みは075-541-3391
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構成・文/末原美裕(京都メディアライン)