個性がない平凡な自分がいやになっちゃう!
テレビや雑誌を見ていても、個性が際立っている人は魅力的で仕事も楽しそう。自分は特に「これ」という趣味も得意分野もなくて平凡な人間。個性ってどうやって磨かれるもの?
個性学の第一人者が教える自分の可能性の伸ばし方
『ハーバードの個性学入門 平均思考は捨てなさい』
自分という人間はこの世界にひとりしか存在しないのだから、だれでも何かしらの個性はある。ただ、その個性が平均と比較して上ではないと思い込んでいるから、自信がもてないのでは?
トッド・ローズの『ハーバードの個性学入門 平均思考は捨てなさい』は、心理学者が、実在する企業の戦略を例に挙げながら、平均値にとらわれず個人の可能性を伸ばす方法を説く一冊だ。価値をはかる物差しはひとつではなく、別人に変身しなくても自分の潜在能力を十分に発揮できれば個性になることがわかる。
特に著者であるローズさん自身の体験に説得力がある。高校時代の成績は平均Dだった劣等生が、若くして妻子を養いながらオールAの成績で大学を卒業し、ハーバード教育大学院で活躍する研究者になった。
きっかけは、指導教官がどの学生にも同じアドバイスをしている事実に気づいたこと。高校生のとき、みんなと同じことができなくて挫折したローズさんは、教官のアドバイスを鵜吞みにせず、自分の長所と短所を観察して最適な道を選ぶ。奇抜な方法はいらない。突破口を開くヒントは身近に転がっているのだ。
『ハーバードの個性学入門 平均思考は捨てなさい』(早川書房)
著/トッド・ローズ 訳/小坂恵理
神経科学と心理学、教育学をもとに「個の科学」を提唱した一冊。名門校出身の社員が多かったグーグルが採用方法を変えた経緯、ウォルマートと比べてコストコの離職率が低い理由など、個性を生かして成功した企業の実例を挙げているところがわかりやすい。
中国史で光を放つ個性豊かなヒロインたち
『破壊の女神―中国史の女たち』
せっかく自分の個性を発見しても、出る杭は打たれがちな日本の社会では、なかなか表現することが難しいと感じる。井波律子の『破壊の女神―中国史の女たち』にエネルギーをもらおう。国の権力を握った女帝から悲劇の女詩人まで、強烈な個性を放った人々の人生の軌跡をたどった一冊だ。
なかでも興味深いのが「纏足とスーパーヒロイン」と題した章だ。近代以前の中国には、女性の足を幼いころから布で縛って変形させる「纏足」という風習があった。ひとりひとり違う体なのに、男性の美意識に合わせて無理やり同じ形に変えさせていたという。
そんな個性が殺されていた時代に、武芸に秀でた女たちが戦う『楊家将演義』が生まれた。勇者も宿敵も女という波乱万丈の物語が、リズミカルな筆致で紹介されていて痛快だ。
欲望を全開にして邪魔者は排除する『金瓶梅』の登場人物・潘金蓮など、井波さんが「きわだってユニークな、自らに固有の運命を生きる存在」と評価する悪女も魅力的。他人の目なんて一切気にしない。パワフルな女神たちの逸話に励まされる。
『破壊の女神―中国史の女たち』(新書館)
著/井波律子
病を患って苦しさのあまり眉をひそめた姿が人々を感動させたという伝説の美女・西施、ライバルに残酷な方法で復讐した呂后、周王朝を創設した則天武后……。実在人物から民衆の願望を反映した物語のヒロインまで、驚きのエピソードを紹介する歴史エッセイ。
2020年Oggi4月号「『女』を読む」より
撮影/よねくらりょう 構成/宮田典子(HATSU)
再構成/Oggi.jp編集部
TOP画像/(c)Shutterstock.com
石井千湖
いしい・ちこ/書評家。大学卒業後、約8年間の書店勤務を経て、現在は新聞や雑誌で主に小説を紹介している。著書に『文豪たちの友情』、共著に『世界の8大文学賞』『きっとあなたは、あの本が好き。』がある(すべて立東舎)。