インタビュー前編では今作の登場人物の中で唯一の男性であるマクバニーについてお話してくださったソフィア・コッポラ監督。後編では監督こだわりの衣装の話や、“自分らしさ”を表現するために大事にしていることなどを語ってくださいました。
-今作は以前監督が撮った『ヴァージン・スーサイズ』と少し似ていると先日行われたトークイベントでおっしゃっていましたが、当時と比べて映画監督として成長したなと感じるのはどのような部分でしょうか?
「そうですね…なかなか客観的に自分を見つめるのは難しいのですが、経験を積むたびに美しい映像表現が上達していっていると感じています。あとは俳優とのコミュニケーションの取り方がうまくなったなと感じたり(笑)。特に変化したと言えば、『ヴァージン・スーサイズ』を撮ったときは私と同世代の女の子達を描いていましたけど、年齢を重ねたからこそ今作で幅広い世代の女性を描けたのではないかと思っています」
-今までの監督の作品はどちらかというとカラフルでポップな衣装を使用することが多かったと思いますが、今作ではオフホワイトや淡い色の衣装を使用しています。何かこだわりがあったのでしょうか?
「少し色褪せたパステルカラーやオフホワイトの衣装を選んだのは、女子寄宿学園で暮らす女性達に過去の亡霊のようなイメージを持たせたかったからです。それから、戦時中は布も洋服も簡単には手に入らないので、彼女達は何度も洗って着ているんですね。そのせいで色褪せてしまったというイメージの衣装になっています」
-淡い色彩の衣装だからこそ、彼女達に対してなんの先入観もなく素直にそれぞれのキャラクターを受け止めることができたように思います。
「同じような色で種類の違う花がブーケのように束になっているイメージで彼女達を撮ったシーンが冒頭にあります。そして男性がやってくることで、そのブーケの花がバラバラに個性を表していくような展開になっていく。彼女達の個性が特に際立つのが夜の食事のシーンなんです。マクバニーのために女性達が一生懸命に着飾るのでそこにも注目してみてください」
-衣装も素晴らしかったのですが、ヘアスタイルにもそれぞれの個性が表現されていて素敵でした。
「ヘアスタイルに関しては、もちろん当時の髪型を調べて歴史に忠実なものを意識してはいますが、中には“こんな髪型してたの?”と思ってしまうような変なものもあったんです(苦笑)。そこで、当時の髪型の中から現代の人にも魅力的に見えるようなものをセレクトしていきました」
-監督ご自身の個性についてもお伺いしたいのですが、“自分らしさ”を表現するために大事にしていることはありますか?
「やはり“表現者=アーティスト”として自分の直感みたいなものを信じ、それをいかに実行するかを大事にしています。それと同時に大事なのは予算内で映画を撮ることぐらいでしょうか(笑)。実は今作も最初のバジェットから徐々に予算が削られていったので、少ない日数で撮らざるを得ない状況にありました。そんな状況でもちゃんと完成させるために必要なのは入念に準備を整えること。今作を撮ることは私にとって大きなチャレンジになりました」
-あなたのような世界的に有名な監督でさえも予算をカットされてしまうなんて驚いてしまいます。
「わたしも正直驚きました(苦笑)。今まで撮った作品全て予算をカットされてきたわけではないんですけど、今作はそういうこともありましたね…(笑)」
-先ほど当時のヘアスタイルに関して歴史に忠実なものを意識されたとおっしゃいましたが、近年ではSNSなどで歴史的な正しさを指摘されることも多いですよね。こういった声を監督はどのように感じてらっしゃいますか?
「アーティストにとって、そういった声は正直とても辛いものでもあります。今作で言うと、“南北戦争の時代を描いているのになんで奴隷が登場しないのか”という声がありました。そういう歴史的正しさを作品に求める心境もわかるのですが、今作の世界観で奴隷を登場させてしまうと別の映画になってしまうと思ったのであえて登場させていません。SNSなどで誰もが簡単に批判できるようになったことに危機感を感じていて、そういった書き込みによってアーティストの表現が制限されることのない世の中にしていけたらと思っています」
文/奥村百恵 写真/ホンマタカシ
映画『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』は、2月23日(金)TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開
【監督】
ソフィア・コッポラ 『SOMEWHERE』『マリー・アントワネット』『ロスト・イン・トランスレーション』
【出演】
ニコール・キッドマン 『LION/ライオン ~25年目のただいま~』『めぐりあう時間たち』
エル・ファニング 『ネオン・デーモン』
キルスティン・ダンスト 『マリー・アントワネット』
コリン・ファレル 『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』
【公式サイト】
http://beguiled.jp/
【配給】
アスミック・エース、STAR CHANNEL MOVIES
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初出:しごとなでしこ