『生きるとか死ぬとか父親とか』ドラマ化スペシャル対談、第2回のテーマは、‶鎧とかトゲとか温もりとか〟。
だれに言われても傷つかないことでも、親に言われると傷つく
――高橋さんとスーさんはご家族と別々に暮らしていらっしゃいますよね。親御さんはどんな存在ですか?
高橋さん:僕は実家のある秋田を出て上京して、家族と離れてひとり暮らし歴20年。いつか、スーさんの「未婚のプロ」を継承したいくらいです。
スーさん:私は生まれも育ちも東京で、ひとり暮らし。ある程度は分厚く防具をつけた状態で生きていますが、それを親って簡単にペロっとはがしてくるからキーッとなりますね。向こうが何の気なしに言ったことに動揺しやすいというか。鎧の隙間をスッと突いてくる。高橋さんの曲『ever since』での冒頭のやりとりも、そんな場面があったのかなと想像します。
高橋さん:自分という人間を疑ってしまうくらい、相手の悪口を言って気持ちいい感情になってしまうことってあるじゃないですか。言ってやった、いちばん相手が傷つくことを言えたんだって。しばらくたってから後味悪くなるんですけど、そこまで踏み込んだ人間関係ってなかなかないんですよね。東京では特に。
スーさん:東京にいる時間がずっと長くなっても、きっと自分の原点である場所にいる親のほうが生々しく心をつかんできますよね。
高橋さん:相手が他人なら、そんな言葉を投げる以前にどこかで気を遣ったり、お互い鎧をまとっていたり。でも、親って裸と裸だから、いちばん残酷なことを言ってやりたいほど憎たらしい瞬間がある。かといってスーさんがおっしゃったように心底憎いわけではなくて、突発的に自分のイヤなところも解放できる関係性なんでしょうね。
スーさん:親に対しては、強い感情というものに対する弁が効かなくなりますよね。だれに言われても傷つかないことを、親に言われると傷つくことがあるし。だれに言われても心配にならないけど、親が言うと心配になる言葉もある。
だれかを思ってポカポカする、生きていくうえで大事な感覚
――スーさんはお父様と一緒に暮らされていた期間もありますよね? 距離のとり方は変わってきていますか?
スーさん:うちは一緒に住むのはもうダメですね。二度とやらない(笑)。比較的広い家にふたりで住んでいたんですが、それでも刺し違えるか! という空気だったので。ただ、最近はLINEなどで毎日必ず連絡はとるようにしていますね。もう歳なので、食べたものを写真で送ってもらうように。今日は何が足りないからこれ食べてねとか、体調確認を兼ねて体温や体重を聞いています。
高橋さん:僕も連絡は毎日とるようにしています。今はもう久しぶりに会っても距離の詰め方に戸惑うことはないのですが、曲を書くときに焦点になったのは、親に会いに行くとなったときに体のどこかが少しだけふわっとなる感覚。帰省する新幹線の中で、ポカポカしてくるような。この感情が、意外と生きる上で大切なものなのかなと感じているんです。延長線で、恋人とか友達に会う前のうれしい気持ち、遠足の前日の眠れない気持ちに通じているのもしれない。このあたりに曲のヒントがあるのかなと思って、秋田に帰っていました。
スーさん:ありがたいです。すごくあったかいドラマで、高橋さんも必ず放送前にTwitterでつぶやいてくださって。エンディングを歌ってくださるヒグチアイさんもですが。
高橋さん:たしかに、プロデューサーさんも含めて関係者がみんなつぶやいてますね(笑)。
スーさん:オープニングとエンディングで、今どきこれほど曲を大事にするドラマもなかなかない。みんなが曲を聴いて必然的にドラマの世界に入っていけて、いいね! いいね! とお互い褒め合う奇跡の空間が出来上がっています(笑)。
正直に、バランスをとる
ーーここまでのお話につながる「鋭さと温かさ」は、おふたりの作品にもあると感じます。優しい曲調や文体の中にも、気にしてはいたけれどそのままにしていたことを当てられたような、ドキッとする言葉があって。表現するときに意識されているのでしょうか?
高橋さん:どうなんでしょうね。最近は自分で自分の作品を説明するのが苦手になっちゃって。それも『生きるとか死ぬとか父親とか』のせいかな(笑)。
スーさん:そんな副作用が(笑) !?
高橋さん:今、作品づくりがすごく楽しくて。僕はとにかくいちばんドス黒い負の感情から書いてしまうんです。『ever since』でも、たとえば「あんたのところになんか産まれたくなかった」といった言葉を書いて、いや、これは思っていないなと消したり、届けたい言葉と並べ替えたりしながら軌道修正していく。最初から鋭いものが書きたい! とは思っていないんですが、残っちゃったんでしょうね。
スーさん:正直に書いていたら必然的にそうなりますよね。作為的につくればどちらにも振れるじゃないですか。すごくドス黒いものも、ひたすら明るい楽しいだけのものもつくれる。創作においては、正直だからこそトゲも温もりも残るし、共存するんだろうなと思います。
高橋さん:僕、料理するときにすごく味見するんですよ。曲づくりでも、全部オブラートに包んでしまうと無味無臭なものを作ってしまった気持ちになる。自分の中でこれくらいのクセがある食べ物や飲み物にしたいなという仕上がりを探りながら、どれくらい自分の好きな味を残していくかという作業を歌詞でもメロディでもしていますかね。
スーさんのエッセイやラジオに触れると、「あ~、わかるわかる!」という部分がたくさん見つかって楽しくて考えさせられるのですが、音楽で表現するときの「わかる!」の配分はあまり多すぎず、何行かあるうちのポンッと1ヶ所あるだけでも意外といいのかなと。そのための配分が大事だなと感じています。たとえばすごく好きな人がいて、会いたくていつも彼女のことを考えていて… みたいな状況を歌っても、現実は違う人のことを考えているときもある。でもそれをそのままリアルに書いちゃうとラブソングにならないから、何を表に出して何を隠し味にするのか、選んでいきますね。
スーさん:私の場合は、読んでいる方の襟首をつかむようなことを毎回真剣勝負で書いていると読み手も疲れてしまうと思うので、バランスはとるようにしていますね。でも、ここぞというときには、届く言葉で正直な気持ちで伝えたいなと思っています。
対談第3回のテーマは、‶相談とか甘えとか寂しさとか〟。
(つづく)
【高橋優さん衣装】
半袖シャツ¥19,800(Sian PR〈SHAREEF〉) ロングスリーブTシャツ¥8,250(ADONUST〈ROTTWEILER〉) ブレスレット¥27,500(buff) アイウェア¥47,300(ayame) その他/スタイリスト私物
【協力社リスト】
ADONUST:03-5456-5821
ayame:03-6455-1103
buff:0154-38-2600
Sian PR:03-6662-5525
撮影/相馬ミナ スタイリスト/上井大輔 ヘア&メイク/内山多加子(Commune) 構成/佐藤久美子