「自分のことのように考える」「優しいのにグッサリ刺さる」「主題歌が沁みる!」と共感の声が続出している、ドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』(テレビ東京「ドラマ24」毎週金曜 深0:12~0:52※テレビ大阪のみ翌週月曜 深0:00~0:40)。
吉田羊さんと國村隼さんが親子役でW主演を務める本作は、愛嬌はあるけれど自由奔放な父と、そんな父に振り回される中年娘のおもしろおかしくて、ときどき切ない家族の愛憎物語です。
ドラマがいよいよクライマックスを迎えるこの機に、原作者のジェーン・スーさんと、オープニングテーマ曲『ever since』を手がけたシンガーソングライター・高橋優さんのスペシャル対談が実現! 第1回のテーマは、‶親への目線とか3拍子とかミュージックビデオとか〟。
親には、「父」や「母」とは違う顔がある
――ドラマの原作であるスーさんのエッセイ『生きるとか死ぬとか父親とか』、高橋さんは初めて読まれたときの印象はいかがでしたか?
高橋さん:僕には10歳上と7歳上の姉がいるんですが、自分というよりは姉への共感として読ませていただきました。もしかして、父親にこういうことを思っていたのかな? と想像しながら。
スーさん:上のお姉さんは、ちょうど同い年ですね。私、48歳なので。
高橋さん:そうなんですね、だから重なる部分が多かったのかな。読んでいると、父親をいろいろな角度から見ている感覚。たとえば、ファミレスのドリンクバーで、ないはずのロイヤルミルクティーを曲芸並みに工夫してつくってあげる場面。随所に、お父さんを助けたくなるという目線があって。息子が父親を見る目線とはちょっと違うんですね。それが面白いなと。
スーさん:うちの母は私が24歳のときに亡くなって、「母」以外の顔を見たことがないまま、本人の口から人生の話を聞けなくなってしまったことをすごく後悔していまして。父に対しては同じ後悔をしたくないな、というのがそもそも書き始めたきっかけなんです。「父として何点」という見方しかできずに腹が立ってばかりだったのが、仕事人として、夫として、男性としてという側面を知っていくと、愛嬌のある人なんだなと俯瞰できるようになりましたね。
高橋さん:今回、ドラマのオープニング曲の依頼をいただいて、スーさんとお父さんのお話をそのままなぞって曲にする… だけにはしたくないなと思ったんですよね。
スーさん:どこか当て振りみたいになっちゃいますよね。
高橋さん:もちろんそれでも何か生まれるのですが、だからといって、自分の今の親子に対しての思いを書くのも違うなと。どうやって昇華するのか、一番悩んだ部分でもあります。原作を読んでいた間、僕が何をいちばんしていたかといえば、笑ってたんですよ(笑)。本当に面白くて!
スーさん:ありがとうございます、本望です(笑)。
高橋さん:笑って考えさせられて、じゃあこれが映像になるとどうなるのか、まだ想像ができなかった。部品集めのように原作にきっかけをもらって、スーさんとお父さんの関係性に通じたらいいなと思いながら言葉を選んでいきましたね。
3拍子で奏でる、家族の風景
――家族の悲喜こもごも、さまざまな表情が見えてくる『ever since』という曲ですが、スーさんはどのように受け止めましたか?
スーさん:3拍子の曲ってそもそも少ないのですが、トントントンという響きを聴いているうちに、父・母・私という3人家族の絆や心音みたいなものを感じさせてもらいましたね。
高橋さん:デビュー曲も3拍子なんです。僕にとっての3拍子は、伝家の宝刀と言いますか、ここぞというときに書きたくなるんですね。3拍子ってライブではけして乗りやすい曲ではない。手拍子もワン・ツー・スリーで打ちづらいし、体の乗り方もマニアックです。よく言うと、後々のことを考えずに自由に曲を書けている状態ということ。僕自身はすごく好きで、あ、ここかも! と思ったときに出している気がします。
スーさん:もうAメロからシーンが目に浮かびますよね。歌詞の「強い言葉を選んでちゃんと傷がつくように罵ってから部屋を出た」という一節しかり。親子とかパートナーって、付き合いが長かったり、愛情があったりするからこそ起こる感情の動きがあるじゃないですか。そこからパッと画が浮かんで、にじみ出てくる愛情や小さな憤りが感じられて。あぁ、どの家族もこういう気持ちがあるんだなと。原作に対するアンサーソングというか、「この本を読んでこう思ったよ」という感想をいただいた気持ちでした。
高橋さん:どの曲も一生歌っていこうという決意では書いているけれど、この『ever since』に関しては、この先ずっと自分についてまわる、特殊な意味をもつ曲になるなんじゃないかなと肌で感じています。
38年間の人生で、こんなに家族のことを考えたのは初めて
――スーさんは『ever since』のミュージックビデオ(MV)にも出演されていますよね。ラジオ番組のお悩み相談から始まる新鮮なストーリー展開で、思わず聴き入ってしまいました。
高橋さん:その節はありがとうございました。
スーさん:そうそう、私のラジオ番組『生活は踊る』(TBSラジオ)に高橋さんに出演していただいて、そのまま撮影に突入でしたね。
高橋さん:クリエイティブ・ディレクターの箭内道彦さんとスタッフの人たちのリクエストで。
スーさん:ほぼ打ち合わせなし! ワシら頑張りましたよね(笑)? ラジオの本番が終わった途端、バーッとスタッフの方が入ってきて、30、40分でカメラを何台もセッティングして、「じゃあ、このメール読んでください!」って。
高橋さん:はい、台本もなく(笑)。リスナーからの相談に答えるという企画なんですが、その場でメールを読んでふたりでお話しするという。リアルなラジオのように。
スーさん:箭内さんの狙いはそこだったんでしょうね。
高橋さん:半分スーさんの番組で、半分曲。曲自体は5分くらいなんですが、結果的にMVとしての作品は10分近くなるという(笑)。
スーさん:そう、めちゃ長い! これ大丈夫!? こんなに私のラジオが前に出ちゃって迷惑かけてないかなとヒヤヒヤしました(笑)。ちょっとしたドキュメンタリーのようですよね。高橋さんが撮られたお父様も登場しますし。
高橋さん:実は最初、僕がちょっと渋っていたんです。実の父をそのまま出すのはさすがに… と思いまして。でも、箭内さんが今までにないくらい「この曲には高橋のお父さんに出てほしいんだよ」と熱くて。とはいえ、「昨今のご時世ですから撮影クルーが秋田まで行くのは難しいですよね」とかわしていたら、「いや、高橋がひとりで地元帰って、自分で撮ってきてよ」って(笑)。
スーさん:でも、すごい記念になりますよね。5年、10年経ったときに見返して、あのときお父様が何を着ていらっしゃったとか、こういうクセは今もあるよねとか残る。贅沢だなと感じました。
高橋さん:『生きるとか死ぬとか父親とか』をきっかけに、曲を書きだしたときから、家族のことを見たり考えたり話したりする機会がすごく増えました。大事に思ってきたつもりだったけど、38年間生きてきてこんなに意識したことはないなと。ただ、それが全部「あぁ、家族ってやっぱりいいよね」というふうにはならない。
スーさん:ならないんですよね(笑)。
高橋さん:口論が増えたりとか、家族と向き合うってなんというかややこしいな。いちばん面倒な部分なんだなと思います。ドラマが放送されている間、僕はずっとその感情とぐるぐる向き合ったり、目をそらしたりしている。だから不思議なんですよ。映っている父がどの側面の父なのかもわからないというか。あのMVがYouTubeで公開されてからも、まだ自分の中でも答えが出ていないんです。
スーさん:そうそう、家族っていいものだとも言い切れないし、憎むべきものだとも言い切れないし。愛憎がこんなにもモザイク状に入り混じった関係ってなかなかないと思うんですよ。大っ嫌いだし、大好きだしという強い感情を、おそらく生まれてからいちばん初めにもつ相手だったりするじゃないですか。年を重ねるほど、親もまだまだ未熟な人間だとわかっていく。最終的にどこまで許していくか、どこまで受け入れていくかって、毎日自分に突きつけられる。それは親が老いていくたびに、頻度も深度も上がっていくわけで。ちょうど30代後半、高橋さんくらいの年齢で、「親がびっくりするくらい老けた」という変化に直面して、考えるようになる時期なのかなと思いますね。
対談第2回のテーマは、‶鎧とかトゲとか温もりとか〟。(つづく)
【高橋優さん衣装】
半袖シャツ¥19,800(Sian PR〈SHAREEF〉) ロングスリーブTシャツ¥8,250(ADONUST〈ROTTWEILER〉) ブレスレット¥27,500(buff) アイウェア¥47,300(ayame) その他/スタイリスト私物
【協力社リスト】
ADONUST:03-5456-5821
ayame:03-6455-1103
buff:0154-38-2600
Sian PR:03-6662-5525
撮影/相馬ミナ スタイリスト/上井大輔(高橋さん分) ヘア&メイク/内山多加子(Commune、高橋さん分) 構成/佐藤久美子