店主の人柄を映し出すかき氷〈新人作家のかき氷探訪記〉
小説『氷と蜜』の著者、佐久そるんです。
かき氷が題材の『氷と蜜』には、数多くのかき氷のお店と、それを食べ歩く愛好家の人たちが登場します。物語の舞台である大阪でいまもっとも熱いのが、主人公たちが暮らす中崎町です。人気店がしのぎを削るこの町で、どのようなかき氷が生み出されるのでしょうか。
ご紹介するのは、かき氷好きな女性店主が切り盛りする『かき氷薬膳スープ美生(みしょう)』さん。以前は北新地で営業されていましたが、この夏に大人の社交場から、趣のある中崎町の古民家へと移転されました。隠れ家的な雰囲気を感じる階段をあがった先に、お店はあります。
◆大阪府大阪市北区|かき氷薬膳スープ美生(みしょう)
おすすめは、なんといってもピスタチオのシロップです。
淡い緑のかき氷。豆の味わいをしっかり感じられるのですが、あと味は驚くほどさっぱりしています。二種類のシロップをもちいたツートンカラーや、氷を輪の形にしたリングタイプ、グラスに入ったパフェタイプなど種類は様々で、店主さんの心おもむくままに日々作られていきます。どのかき氷も他店と比べて大きく「たーんと食べなさい」と言われているようです。調子にのって複数杯たのんでしまうと、動けなくなることもあるのでご注意くださいね。
▲ツートンカラーのかき氷
▲リングタイプのかき氷
▲パフェタイプのかき氷
と、ご紹介してきたピスタチオですが、夏にはなかなか出合えないシロップです。写真は秋から春にかけて、移転前のお店でいただいたもの。そのシロップをわざわざお伝えするのには、理由があります。
「ピスタチオのおいしい店に、ハズレはない」
豆類のコクと氷の溶け具合に合わせた軽さを、絶妙なバランスで仕上げたピスタチオのシロップには、そうそう出合えるものではないでしょう。仕込みの殻むきだけで数時間。地味な作業をこつこつとこなす誠実さが、おいしさに現れているのではないでしょうか。
そのおいしさは、当然、夏のシロップにも現れています。あらためてお店にうかがうと、魅力的なかき氷が目白押しです。
バットの形をしたクッキーをあしらったかき氷。ボールの縫い目に見立てたのは、爽やかな甘味のラズベリーシロップです。食べ進めると現れる茶色いヘーゼルナッツのシロップは、甲子園のマウンドをイメージされているのでしょうか。氷の中には、ラズベリーのコンフィが。凝縮された酸味が鼻に抜け、ほろりときます。
この夏、高校球児のみなさんに与えられたのは、たった一試合だけ。懸命にプレイする彼らに、エールを送りたくなるかき氷でした。
夏の果物、すいかも登場していますよ。大きく大胆にカットされた果実に、思わず笑みがこぼれます。そのまま食べるとすべり落ちてしまうので、受け皿におろしてから食べるといいですよ。ほとばしる果汁を楽しんでください。
前の店舗は窓がなく人工の明かりでしたが、日の光が差し込む空間で氷をいただくのもいいものですね。照らすのは、氷ばかりではありません。レジにあるヘアドネーションの寄付を募る文字。店主の長かった髪はばっさりと切られ、髪を失った子供たちに届けられました。
和やかな空気に包まれた店内、かき氷を楽しむみんなの笑顔は、移転後のお店でも変わりません。店主の人柄ゆえでしょう。まごころあふれる一杯を、どうぞめしあがれ。
【かき氷薬膳スープ美生(みしょう)】
住所:大阪府大阪市北区中崎西1-6-22 2F
営業時間:12〜19時
インスタグラム▶︎ @kakigorimishou
佐久そるん
大阪生まれ、大阪育ち。5年ほど前から小説の執筆をはじめる。2019年『氷と蜜』が第1回日本おいしい小説大賞の最終候補に選ばれ、刊行に向け改稿をスタート。2020年6月、同作で作家デビュー。かき氷の魅力が詰まっていると『氷と蜜』は話題に!
甘いものに目がなく、まめに食べ歩く。パンケーキ、パフェと続いてここ3年はかき氷にハマっている。コロナ禍の自粛期間中は和洋菓子をお取り寄せしてお店を応援。現在は再開したかき氷店へ著書を持って行脚の日々。