かつて憧れていた25歳にはなれていないけれど、こんな自分も嫌いじゃない。スマートに人知れず気使いをしたかと思えば、無邪気に喜ぶ子供に戻ることもある。大人と子供の中間地点の時期を過ぎて今、神木さんが目ざしている「大人」とは?
【神木隆之介】インタビュー
大人への途上 歩んできた道に悔いはない
憧れていた25歳にはなれていないけれど
「スマートで気使いができる。それでいて、素直に感動したり楽しんだりできる子供っぽさもある。…それが、僕が憧れる大人の男性です。身近なところでいえば、中井貴一さん。早く近づきたいと思う一方で、現実ではいつまでたっても変わらない自分もいます。こんなふうにスーツを着ると、少しは気持ちに余裕ができて、品よく振る舞おうと思えるけど、ふだんはまだまだ。25歳になったけれど、憧れていた25歳とは違うぞ?と。20歳くらいから変わっていなさすぎて、どうしようかと思います(笑)。でも、このまま変わらないのであれば、変わらないことを目標にするのも、いいかもしれない。きちんとしすぎるのは苦手ですし、無邪気に感動したり喜んだりすることも、忘れたくない。こんな今の自分も、不満ではありません。ただし、いつでも自分で自分の道を『選べる』大人でありたい。そう思っています」
同世代の俳優が次々と台頭する中で、本人はいたってマイペースに歩いてきた。もちろん、ただ流されてきたわけではない。いつも自分で考え、自分で選択し、決めてきた。
「日常では直感タイプで、その場で思ったことをサクサク決めていくほうです。新しい仕事をやるかどうかもそうですし、今日すぐ温泉に行きたいと思ったら行く。逆に、どんなに誘われても、どんなにいい話でも、『今じゃない』と思ったら、動かない。僕の最新主演映画『フォルトゥナの瞳』の中で、『人って、朝起きてから夜寝るまで9 ,000回何かを選択している』というフレーズがあります。毎日のなにげない行動も、自分の人生の分岐点になっているのかもしれない、ということ。通勤する道をいつもと少し変えたら、出会う人が替わるかもしれないし、もしかしたら運命も変わるかもしれない。その結果がどうあろうと、選んだのは自分。だから『思い立ったが』…じゃなくて、『選んだが吉日』だと信じているんです」
身ぶりや口元で表現するより、目の奥が乾いていくような
「僕自身のいちばん大きな選択は、高校を卒業して長期留学するかどうか、迷ったとき。事務所は行ったほうがいいと言う。でも僕は、うーん…。英語がしゃべれるようになったらいいとは思うけど、そこまでの勇気はないし、やっぱり怖いし(笑)。行くか行かないか、どちらを選んでも、何かしら得るものはあるし、反対に犠牲もある。そのときは、そのまま日本に残って仕事をすることを選びました。大きな一歩を踏み出さなかったことが、よかったのか悪かったのかは、わかりません。でも、その選択をしたから出会えた人や作品があって、今につながっているとも言えます。まあ、こんなふうに保守的なところも、僕らしさ。そして自分の決断に、後悔はありません」
目の前のひとつひとつに、ときに直感的に、ときに臆病に、選択を重ねてきた神木さん。その最新主演映画が、前出の映画『フォルトゥナの瞳』だ。神木さんが演じる木山慎一郎のセリフに、『昔から、何かを選ぶのが苦手なんです』というものがある。いつも自問自答し、友人も恋人もつくらず、ひとりで生きてきた、慎一郎の性格をよく表している。そんな慎一郎が、まったく違うタイプの葵と出会って、惹かれて、「相手のために生きる」選択をする。神木さん初のラブストーリーだ。
「運命に苦しみ、選択に迷いながら葛藤する慎一郎。見た人は、いつもの僕と雰囲気が違うことに気づくと思います。ムダな動きをなくして大人っぽく見えるようにして、泣いたり怒ったりする芝居ほど冷静に。グッと耐えているときは、身ぶりや口元で表現するよりも、目の奥が乾いていくような感じで。そこは、自分の中の理想の大人をイメージしました。僕の役づくりは、役の考え方を日常にも刷り込んでいく。バスに乗って自分の顔が窓に映ったとき、慎一郎ならどんな顔をするのだろう。家族と話しているとき、彼だったらどう答えるだろうって。実際の撮影のときも、今演じていることがスクリーンに映ったとき、どう見えるだろう。そう想像するのが楽しいんです」
大人の男としてスマートな気使いができたらいいけど…。それが相手に気づかれなくても僕はそれで、いいんです
果たして、スクリーンの神木さんは、恋愛の喜びを見つけつつ変わっていく慎一郎を見事に表現していた。実際の神木さんはというと、今日も子供っぽさと大人を交互に楽しみながら、少しずつ成長している。
「僕が憧れる女性も、大人っぽさとかわいらしさの両面をもっている人。キリッと仕事ができる部分はもちろん憧れます。一方で、ミスしたときの『あちゃ』とか、ぶつかったときの『ごめんなさい!』とか、そういう、ちょっとした隙にひかれます。そして、コップや携帯を持つときのしぐさがガサツじゃなくて、丁寧できれいだったら、さらにキュンとします(笑)。そんな女性に対して、大人の男としてスマートな気使いができたらいいけど…。それが、なかなか。もしできたとしても、自己満足みたいなものですし、相手に気づいてもらえなくてもいい。僕はそれで、いいんです」
Oggi3月号「俳優 神木隆之介」より
撮影/石倉和夫 スタイリスト/百瀬 豪 ヘア&メイク/MIZUHO デザイン/スズキのデザイン 構成/南 ゆかり
再構成/Oggi.jp編集部
神木隆之介
1993年生まれ、埼玉県出身。俳優として活躍し、映画『桐島、部活やめるってよ』『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』『3月のライオン 前編/後編』『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』などに出演、劇場版アニメ『千と千尋の神隠し』『サマーウォーズ』『君の名は。』に声の出演。2019年は映画『フォルトゥナの瞳』のほか、『Last Letter』『屍人荘の殺人』も公開予定。NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』出演中。