【中村うさぎのお悩み相談室】
「結婚の話は全く進まないんですけど、束縛が…」
WD 1年半くらい付き合った彼がなかなか結婚に進まない状態で別れたり付き合ったりを今繰り返している状態です。年齢的にも結婚のことを考えるとこのまま惰性で一緒にいるのも良くないかなと思い、他に目を向けて婚活してみようかなと思っているのですが、すごく束縛をするタイプの彼で…婚活をするか、きっぱり別れてから他の人を探すのか、そのあたりのことを悩んでます。
中村 束縛っていうのはどういう束縛?
WD 寂しがりやだと思うんですけど、例えば相手が出張中「おはよう」「ただいま」なんかの連絡以外でも、ホテルにいる時はずーっと電話をかけっぱなしで、電話したまま寝るみたいな…。
あと、行動をすごい知りたがる。「一週間の予定を出来れば連携して欲しいし、本当はカレンダーとかで共有したい」と。前の彼女とはそうしていたらしく、今どこにいるとかもわかる状態でやってたから私にもそれを要求している。でも私はそうじゃないから、「前の彼女はしてたのに」ってすごい言われる。
中村 「前の彼女は…」って言うのを言われたらどんな気持ちになるんですか?
WD そんなこと言われたことがなかったので、最初はすごく不思議だった。でも悪いイメージというより、彼は「過去も全部知りたいし、全部共有したい、自分のことを全部知って!」みたいなところがある。
「前はこうだった」って伝えることで私にもそうして欲しいみたいな、ちょっと子どもっぽいところがあるのかなって感じる。大人な部分と子どもの部分のバランスが悪いというか…。
中村 彼の「大人な部分」ってどんな部分なの? 今聞いたところでは、彼、小学生みたいだけど。「お母さんお母さん!」みたいな感じじゃないですか。
WD 仕事に関しては割と頭を使う仕事でもあって、人にアドバイスをするスペシャリストみたいなところがあるので、ビジネスではちゃんと大人なんだけど。
中村 じゃあ、彼女には甘えちゃうタイプなんですね。
WD 家族には結構…。彼は母親にすごく束縛をされていて。それを、彼はすごく優しい部分があるので、普通だったら反抗期で「そんなの嫌だ!」と突き放すところを、お母さんが病気で倒れて一命をとりとめたことがあったり、お父さんが家庭を顧みない感じの人らしくお母さんが一人で育てたようなところがあるので突き放せず、全部彼女を受け入れた結果なのかなとは思うんですけど。そういう人間的な優しさもあるんで家族はすごく大事にしそうだけど、束縛もしそうみたいな。
中村 じゃあ彼と結婚したら束縛されることは目に見えてるわけですね?
WD 結婚したら結婚したである程度の束縛はいいかなとは思うんですけど…。今ダラダラ付き合っている感じで、1年半くらい前、当時38歳で子どもがすごく欲しいので「付き合うんだったらできれば半年くらいで結婚を決めたい」という話をしていて。でも結局、お互いはっきりせず迷っていて、きっぱり別れて新たに探すのかっていうのをなかなか決めれていない。
ちょっとイヤな予感…な、遅刻の言い訳
中村 彼が結婚をしたがらない理由っていうのはなんだと思いますか?
WD すごく言われるのは、「生活が見えない」。実際に私も彼でいいのかなっていう気持ちがあって。
私、約束の時間を間違えたりどんくさい部分があるので、そういうところでイラッとさせてしまっている。
中村 時間間違えるくらいいいじゃないよね!?
WD そういうところには寛容ではないところがある。
最初の頃、待ち合わせに結構遅れちゃったりとかがあって。すごく不機嫌になったり、後々まで言われるんですよ…。付き合ってそういうのはだいぶ改善されてよかったんですけど、でもまだ未だに言われたりとかはします。
中村 どれくらい遅刻したんですか?
WD ひどいときは1時間くらいですね。でも10分とか5分くらいでも遅れるとずっと言うので。
中村 5分でも言うの!?
WD 「楽しく会いたいのに!」みたいな感じのことを結構言われる。
中村 仕事帰りだったら、仕事がちょっと片付かなくてとか電車の乗り継ぎがうまくいかなかったとか、行こうと思った途中にトラブルがあったりとかさ、5分とか10分とかって普通の時差だよね。
WD そうですよね。
中村 「きみが10分遅れたから映画が見れなかったじゃないか」とかだったら、まだわかるの。映画とかだったら始まる時間が決まってるからさ。そうじゃないのに5分、10分遅れたってさ…。彼は自分が1人で誰かを待ってる状況が10分続くのが不愉快だってことよね?
彼は絶対遅刻しない人なの?
WD 基本的には遅刻しない人だと思うんですけど、なんかやり返すように遅刻される…(笑)
遅刻を私のせいにされる。
中村 「こないだお前が遅刻したから今日は俺が遅刻したんだよ」みたいな?
WD 私が遅れると思って自分も遅れた、みたいなこと言って、謝らないですね。
中村 あなたが遅れたら怒るのに、自分が遅れた時は「ごめんね」も言わず、「お前がいつも時間通りにこないから、俺も遅れてもいいと思った」って言うの?
WD 「おまえも遅れると思ったから」って、ちょっと不機嫌そうに言いますね(笑)
中村 え~! いいの? そんな人で! 彼は自分に甘く、他人に厳しい人よね。でもさ、結婚において一番大切なのは寛容さだと思うんですよ。
「結婚に一番必要なのは、相手の欠点を許す寛容さよ」
WD あ~。
中村 どれだけ愛してるかとかをみんな気にするけど、結婚は生活だからね。いつまでもチュッチュッしてるわけじゃなし、一緒にいろんなものを乗り越えていかなきゃいけないわけでしょ? その時、相手をどこまで許せるかってものすごく大きな問題よ。欠点はあるけど、この欠点もこの人の一部なんだから受け入れなきゃなとか、見てみないふりするとかさ、ギャグにしちゃうとか、いろんな受け入れ方があると思うんだけど、どんな形であれ、相手の欠点を許す寛容さっていうのが、結婚には一番必要だと思うんですよ。寛容さを欠いているっていうことが事前にわかっていると、この先一緒に暮らしても、彼の不寛容さがあなたを追い詰めるような気がする。
WD そうかも…
中村 あとひとつ、気になることがあるの。彼がなかなか結婚に踏み切らない理由があなたにあるのか、彼のお母さんにあるのか…。後者の可能性もあると思いますか?
「共依存関係って必ずしも悪いわけじゃない。でも…」
WD そうですね。お母さんに、こういう風に付き合っているとかを全部正直に言ってしまう人で、お母さんは基本的に今まで付き合った彼女のことは賛成していないらしいんですよね。どんな人でも最初反対から入ると思うんですけど、一度お会いしたら意外と少し受け入れてくれそうな雰囲気があった。ただ、しばらくご挨拶に行かないと「年齢が…」とか色々言っているみたいで。それを彼は全部私に言ってくるんですよ。だから反対されたままの結婚はできないっていうところがあるのかもしれない。
中村 これはもし彼が結婚を決めても、お母さんが夫婦の間に干渉してくるパターンじゃないかなって思うんですけど。彼は彼でお母さんを無下にできないっていうか。会ったこともない人をこう勝手に言うのもなんだけど、割とお母さんと彼が共依存関係っていうか、彼もお母さんに甘えてて、お母さんも彼を支配することでアイデンティティを保っている。旦那さんとうまく行かなかったんだったら、やっぱり息子にそういうのを全部注ぐじゃないですか。
それで共依存関係になってて……共依存関係っていうのは必ずしも悪いとは言わないけど、双方がしんどくなっていく方向に進みやすいわけですよ。しかも彼はお母さんとの関係が共依存とは気づいていないと思うんですよね。それが愛情関係だと勘違いして、それをあなたとの間に再現することになりがちじゃないかな。そういう愛情しか知らないから。
まぁ夫婦で共依存関係にある夫婦なんていっぱいいるから一概にやめときなさいとは私は言わないけど、どちらかがものすごく負担になるのならやめといたほうがいい思うわけですよ。
ところで、結婚するとしたら働き続けるつもりですか? それとも専業主婦になるつもり?
WD 向こうは元々家庭に入って欲しい人。
中村 そうだろうね!!
WD でも最近は働くのもありかな、みたいなことは言っている。家を買ったので。
中村 経済的な理由でね。
WD そうですね。でも基本的にはあんまり積極的に働いて欲しくはないタイプだし、完全に自分でも亭主関白だという風に言っている。
中村 亭主関白は平気なんですか?
WD んー。度合いにもよるんですけど、彼のタイプの亭主関白は受け入れられるかなってところはある。私の母親も自ら亭主関白にさせるタイプだったりしたのでそこまでの違和感はないんです。
中村 そっか。でも彼が結婚をなかなか決めない理由はお母さんにありそうな気が私はするんだけど。なんかやっぱお母さんが「いいよ」って言ってくれないと後ろめたいんじゃないのかな。
あなたとしては、彼と結婚することと、彼じゃなくてもいいから早く結婚して子どもを産むことの二択だとしたら、どっちを取る? 子どもと彼とどっちのほうが優先順位が高い?
WD 子どもですかね…。
中村 じゃあ、もう心は決まってるようなもんだよね。
WD そうですね。ただ、すごく困るのが、自分でも自分の気持ちがよく分からないときがあって。ちょっとずつでも進んでる感じも多少あるので。彼は長くいればいるほど愛情が深まるというかペットとかにもすごく愛着を持つ方で、情が占める人だと思う。で、私も別れて今から探すってなっていい人が見つかるのかっていう不安もあります。
ペット大好き≠人にも愛情深い
中村 見つかるかどうかはわからないから、なんとも言えないけど、見つからないからっていう理由で結婚しても大丈夫なのかなという気もしないでもない。
あとね、ペットに対して情が深いってのはあんまり信用しない方がいいと思います。何故なら、あなたはペットじゃないから。
私の前の夫がそういうタイプだったんだけど、猫にはすっごい愛情を注いでたんですよ。だけど人間に対してはそんなに愛情を持たない人だったのね。というのも、猫は文句言わないじゃん。ところが人間の私は口答えはするし、「それ、おかしくない?」とかツッコむしさ。猫はそんなこと絶対言わないから愛情注げるんだよ。
やっぱりペットに対する愛情とパートナーに対する愛情はまた別物でさ、パートナーは人間なので猫と同じようには振る舞えないし、「振る舞え」って言われたら失礼な話じゃないですか。
ペットっていうのは、彼に一切口答えをせず、彼を見ると大喜びして愛情表現をしてくれて、彼の手のひらの外には出て行かないじゃない? そういう動物を愛せるのは当たり前じゃん。
もしかしたらパートナーにも「俺の手のひらから出て行くなよ」みたいに思ってるんだとしたら、それは問題あるよね。まあ、あなたがペットとして扱われるのも愛情だって本当に思えるんだったら、私はそれが良いとか悪いとか一切言わないけど、あなたはあなたでやっぱり「カレンダーは共有したくない」とか意思があるわけじゃん。
「全てのことを夫が決めてくれた方が楽」みたいな女の人もいて、そういう人は、全部夫が決めてくれて、ご飯の時間まで決めてくれて、土日に何するかまで決めてくれるような亭主関白でもうまくいくんだと思うのよ。だから、あなたがどうゆうパートナーとどういう関係性を持つのが快適なのか、私には分からないから何とも言えないけど、今ですらカレンダーを共有したり長く電話することに違和感を感じているんだったら、結婚したらもっと「女房なんだから当たり前でしょ」みたいなこともあるかもしれないじゃない。そうすると、子供が欲しいとか早く結婚しなきゃっていう理由だけで結婚を決めるんであれば、彼じゃない方が良いかもしれないってむしろ思っちゃう。
でも、彼のことはすごく好きなんだよねぇ?
「大好きで、すごく幸せな時期があったから、なかなか抜け出せい自分がいるんです…」
WD 付き合う前に一時期すごく好きだった時期があって、それを引きずっているのかもしれない。毎日電話くれたりとか……。
基本的に浮気性の人より信頼できる人が好きではあったので、なんて私のことを思ってくれているんだって思っちゃったんですよね。とにかく電話したり、毎週土曜日は基本的に空けておくとか、そういうプライオリティーを高く置いてくれているのを大事にされていると思ってしまった。
中村 嬉しかったんですね。
WD はい。すごい幸せで大好きな時期があったから、「あれ、おかしいな」と思ってもなかなか抜け出せない。
中村 彼はプライオリティーを今でもあなたを一番に置いていると思います?
WD ちょっと歪んだプライオリティーなのかな…。
中村 歪んだプライオリティー?
WD 基本的には予定は友達よりも私が絶対優先なんですけど、束縛っていう形に近い。「自分もやるかそっちもやってよ」みたいな。気持ちを尊重するっていう意味では尊重されていない感じがする。
中村 自分のやり方を押し付けている感じ?
WD 時間とかをガチガチに固めて常に一緒にいられる、常に情報共有という部分ではすごい優先されているんですけど…。
中村 でもそれ、あなたを大切にしてるって言うより、自分のやり方を大切にしてるんだよね?
優先順位が高くて一緒にいる時間を少しでも多く作ってくれるっていうのは初期は嬉しいことだろうなって思うんだけど、「俺が優先順位1位にしてるんだから、お前もしろ」みたいなことになっていろんなことを強要してくると、あなたはもう彼以外の世界で生きれなくなる。
WD あぁ。そういう感じあるかもしれない。
彼の世界の中だけで生きていける?
中村 でもそれってさ、彼の世界の中だけで生きていくのが幸せだったらいんだけどさ、そうじゃなくてやっぱり外のお友達も大事だし、外の世界も持っていたいみたいな人だったらきっとうまく行かないよね。
あなたはどうなんだろう? 彼一色の世界で、彼の手のひらの中だけで暮らすのはオッケーですか?
WD 私の性格が結構好奇心の赴くままなので…。
中村 あぁ、そうなんだ。でも彼は外に好奇心を向けるのは好まないだろうね。
WD そうですね。やるんだったら自分も一緒に、とか。自分の趣味にも…例えば、彼が好きなスポーツとかに興味を持って欲しいって言いますね。
中村 興味持てます?
WD ちょっとしか持てない(笑)
「どちらかだけが歩み寄るんじゃなくて、コンセンサスをとって」
中村 そうだよね! わかる。
うちの前の夫がやっぱりそういうタイプの人だった。自分の趣味に付き合わせたがる、みたいな。
あと毎日電話がかかってきて嬉しかったみたいなこと言ってたじゃないですか、それで思い出したんだけど。付き合い始めた頃に向こうから電話があってさ、同じ会社だったからオフィスで会ったのになんで電話かけてくるんだろう、話すことないじゃんって思うの。会社の後にちょっとデートとかもしてるのに、帰って何時間か経ったら電話がかかってきて。「なに?」って言うと「俺から電話しないと電話掛けてくれない人だから…」って言われたのね。私、え! こっちから電話かけなきゃいけなかったんだって思ってびっくりした。向こうにはそういうマイルールがあるんだなって思って、付き合い始めた時だったし、今後はこっちからかけた方がいいのかなって思った。そういうことは付き合い始めた頃は負担に思わなかったし、この人は毎日私の声を聞きたいのかっていい気持ちになり、かけたりもしたんだけど、よくよく考えたら彼はずっとそういう人だったの。「自分はきみにこうして欲しいんだから、それぐらい分かれよ」みたいなところがあってさ。私は彼のルールが世界で唯一のルールだとも思わないし、やりたくないことはやらないので、うまくいかなかった。
向こうが当然だと思ってても、こっちが当然だと思ってないことってたくさんあるじゃない?
そこをコンセンサスをとっていかなきゃいけない。コンセンサスを取るには、一方が一方的に歩み寄るんじゃなくてさ、相手のルールに従うんじゃなくてさ、ルールを出し合ってお互いがここまでは歩み寄れるっていう譲歩地点みたいなものを作る話し合いを行わないと、向こうは自分のルールが正義だと思っちゃうからさ。
WD そういうタイプの人からもう離れよう! と自分の心を切り替えるポイントになったことって何ですか?
中村 それは、結婚した後に、もう彼のルールには付き合えないってしみじみ思ったからだよね。思い通りにならなかったらすぐ不機嫌になったり、そんなの毎日毎日されてたらこっちもいい加減苦しくなるよ。
WD 今の彼と似たものが流れてるのかもしれない。タイプとして。
中村 だから上手くいくときは上手くいくかもしれないけれど、何かこんなはずじゃなかったっていう喧嘩になったときに、激しい喧嘩になる相手だよね。だからこっちが屈するか、もう別れるか。二択しかないような相手だと思うんですよ。屈するんだったらずっと屈し続けなきゃいけないし。屈するのが嫌だと思うなら、別れた方が楽かもしれないと思います。そうういうタイプの人は。
WD 今聞いてて、もし結婚して子供ができたとしても、そういう両親の姿を見せたくないなって、ちょっと思いました。
中村 うん。やっぱり不寛容は大問題だと思います。自分も寛容であるべく心がけるみたいなね。お互いの寛容みたいなのが、最終的にはパートナーっていうのは必要だと思うので。本当にマイナスみたいなことばっかり言ってごめんね。
WD いえ、自分もそんな風に寛容になって、そういう人を引き寄せたいと思います。
撮影/深山徳幸 撮影協力/シューパレード
中村うさぎ
小説家・エッセイスト。OL、コピーライターを経て作家へと転身。ベストセラーとなったデビュー作『ゴクドーくん漫遊記』を皮切りに活躍を続ける。その後、自身の実体験を赤裸々に綴ったエッセイがヒット。『女という病』『私という病』『狂人失格』『セックス放浪記』『プロポーズはいらない』など多数の人気著書を手がける。
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