ファッションエディター 三尋木奈保が語る! 人生に寄り添う名品バッグ
三尋木奈保
1973年生まれ。メーカー勤務後、雑誌好きが高じてファッションエディターに転身。装いと気持ちのかかわりを敏感にとらえた視点に支持が集まる。おしゃれルールをまとめた著書『マイ ベーシック ノート』(小学館)は2冊累計18万部のベストセラーに。
仕事に邁進しながら、気が向いたらふらっと旅に出かけられる自由さも――そんな自立した生き方をイメージさせてくれるのです
「『バッグには、女の人生が詰まっている』。昔読んだ本にあったこのフレーズ。振り返ってみると、確かにそうだなぁ、としみじみ感じるところがあります。
私の20代後半は、メーカーの会社員からこの業界に飛び込んで、日々必死だったころ。奮発して買った憧れブランドの、ソフトタイプのトートが定番でした。資料をこれでもかと乱雑に詰め込んで、毎日どこへ行くにも一緒。大きなバッグを無造作に扱うことで仕事への不安を打ち消して、同時にファッション業界で忙しく働くことへの意地と誇りみたいなものも、そこにあったのかもしれません。
30代半ばになると、一転して小さなバッグに開眼。女っぽいチェーンバッグやデザイン性の高いワンハンドルのタイプを増やすようになりました。仕事がだいぶ板についてきたから、そのぶんちゃんと、『大人の女性』に見られたくて。小さなバッグに女性としての優雅さを求めつつ、仕事の荷物は変わらず多いから、結局サブバッグも必要で毎日2個持ちしていたけれど…」(三尋木さん)
名品:「ザ・ロウ」のマルゴー
▲バッグ/本人私物
「最初はもっと濃い色のキャメルを狙っていたけれど、購入したのはこちらのナチュラルなベージュ。レザーの経年変化がより楽しめそうだし、ゆったりした、自然体の品のよさが気に入って。仕事の日はもちろん、旅行のときも使いやすく、どんな着こなしにもしっくりきます」(三尋木さん)
「そうして40代後半の今、実はもう一度、大きなバッグに気持ちが戻っています。
いちばん出番が多いのが、ザ・ロウの『マルゴー 15』。使い込むうちにヴィンテージのトラベルバッグのような味わいになるよう、デザイナーのメアリー=ケイト・オルセンとアシュリー・オルセンが明確なイメージをもってつくった品だそう。だから購入の際、お店の方から『防水スプレーなどは使わずに、経年変化していく革の様子を楽しむのも素敵ですよ』とアドバイスをもらいました。それまでの私は、新しいバッグは生真面目に防水ケアしてから使っていたから、このブランドのもつ世界観にはっとしたのです。
クオリティに絶対の自信があるからこそ、おおらかで、ゆとりがあって、ものの本質を慈しむ知性が感じられて。フロントが一枚革で仕立てられた、見た目よりも軽い大きなバッグは、仕事に邁進しながら、気が向いたらふらっと旅に出かけられる自由さも、よく似合う。そんな自立した人生を、私もやっと手に入れたような気持ちになって、これを持つ日はいつもリラックスしていられるのです。年をとること、変化することを身構えずに受け入れよう…。
女性にとってバッグは、ファッションアイテムであると同時に実用品でもあり、少し先の、自分の理想のあり方を気づかせてくれる存在でもある。やっぱりバッグには、女の人生が詰まっている、と思うのです」(三尋木さん)
2022年Oggi3月号「私とおしゃれのモノ語り」より
撮影/生田昌士(hannah) プロップスタイリスト/郡山雅代(STASH) 構成/三尋木奈保
再構成/Oggi.jp編集部