ファッションエディター 三尋木奈保が語る! 上質なコート
三尋木奈保
1973年生まれ。メーカー勤務後、雑誌好きが高じてファッションエディターに転身。装いと気持ちのかかわりを敏感にとらえた視点に支持が集まる。おしゃれルールをまとめた著書『マイ ベーシック ノート』(小学館)は2冊累計18万部のベストセラーに。
買っても買っても着る服がない…「おしゃれ迷子の時期、少し背伸びしたたたずまい」のいいコートが次につながる道しるべになってくれるはず
「四季のある日本の中で、その人のおしゃれの印象をいちばん強く残すもの。それは冬の『コート姿』かもしれません。オフィスビルのエントランスで、休日の街角で、思わず目で追ってしまう素敵な人はコート姿が決まっているから、ということが、私の場合よくあります。
形や色が人目をひく、コート自体が特別なもの、というのではなく、冬の街を背景に、その人がコートをまとっている雰囲気そのものに、ひかれているんだと思います。
そんな『雰囲気美人』になれるコートなら、私のおすすめはエブール。上質な素材と美しいフォルムはもちろんのこと、その先にある『たたずまい』が、抜群にいいのです。言葉で表現するなら、ゆったりと落ち着いた女らしさ。流行や見栄に惑わされることとは無縁の、自分を知っているおだやかな人――そんなイメージ。
2016年秋冬のデビューコレクションは10型のコートのみでスタートしており、大人の女性のコート姿というものに、ブランドの世界観をいちばんに託しているのが、よくわかります。
チーフデザイナーは、古屋ユキさん。女性がつくる服は、女性を内面から満たされた気持ちにしてくれるものだと、つくづく思います。うんと上等だけれどこれみよがしな感じがいっさいなく、洗練された華やかさと今っぽさが確かにあって。生地を惜しみなく使ったオーバーシルエットは360度どこから見ても美しく、着ると静かな高揚感とともに、自分が自立した、素敵な大人になったような、おだやかな自信をもたらしてくれるのです。」(三尋木さん)
名品:「エブール」のコート
▲コート/本人私物
私が4年前から愛用しているのは、しっかり地厚なウールカシミアのリバー仕立て。トレンチディテールのコートはエブールの定番で、毎年お店に並びます。ハンガーにかかっているものを手に取ると重量感があるけれど、いざ袖をとおしてみると、重さが噓のように消えて肩にふわりと沿う。パターンをどれだけ計算しているのだろう… いいコートとはこういうものなんだな、と実感します
「服をとおして、その世界観をまといたいと思えるブランドは、なかなか出合えるものではありません。エブールのコートを着ることは、理想の女性像をまとうこと。覚悟をもって大人のおしゃれに向き合いたくなるし、この先、年をとることがこわくなくなるのです。
買っても買っても、着る服がない――30歳を超えると、環境や体型の変化に伴って『おしゃれ迷子』の時期を経験する人も多いはず。そんなとき、今の自分より少しだけ背伸びしたブランドで、おしゃれの大物、冬のコートに思いきって投資してみるのもいいと思います。
少し先の理想を投影した『たたずまい』のいいコート。揺るがない軸ができると手持ちの服が再び生き生きと回り出し、おしゃれが安定します。寒い日もほほえんで、颯爽と前へ歩いていく余裕が生まれるはず。」(三尋木さん)
2022年Oggi1月号「私とおしゃれのモノ物語」より
撮影/生田昌士(hannah) プロップスタイリスト/郡山雅代(STASH) 構成/三尋木奈保
再構成/Oggi.jp編集部