〝自由〟を貫いたトーベ・ヤンソンの人生には自分らしく働くためのヒントがたくさん詰まっている!
世界中で愛され続けるムーミンの物語の原作者・トーベ・ヤンソン。なぜこんなにもムーミンの物語は愛され続けるのか。それはユニークで魅力的なキャラクターに惹かれるのはもちろん、トーベの人生哲学が詰まっているからこそで、ときに自分の物語と照らし合わせたり、大切な人を思い出したりすることができて、人生に寄り添ってくれるから。
本作で描かれるトーベの半生には、そんなことを思わせる描写が詰まっています。早速、本国フィンランドではすでにロングランヒットを記録している本作の魅力に迫っていきましょう。
今回は、この映画の宣伝を担当している佐々木紀子さんに、見どころをうかがっていきます!
家族や仕事、恋愛、さまざまな葛藤を抱えながらも、自身と向き合い続けたトーベの人生は、まさにアート
芸術一家に生まれたトーベは14歳で雑誌の挿絵を手がけ、その後もデザインや絵を学び、風刺画家や短編作家としても活躍します。第二次世界大戦下にあって、フィンランドもソ連の侵攻によって激しい戦火に巻き込まれますが、トーベは自分を慰めるようにムーミンの物語を描き始めるのでした。同世代の芸術家たちとの華やかな交流、情熱的な恋愛、裏切りなど、さまざまな経験を経るにつれ、トーベの自由を求める気持ちは強くなっていき…。
「本作はだれもが知っているキャラクター“ムーミン”の原作者でありながら、なかなか知られる機会が少なかったトーベ・ヤンソンの半生を描いた物語です。家族や仕事、恋愛に悩みながらもすべてにしっかりと向き合い、自分を偽らずに情熱的に生きるトーベの姿に胸を打たれる人も多いはず。
そして、ムーミンのイラストを実際に描く描写のほか、ムーミン実写版とも言えるフィンランドでの初舞台劇の模様など、ムーミン谷でおなじみのキャラクターたちが、さまざまな形で劇中に登場するのも見どころのひとつです。
またトーベを演じた女優アルマ・ボウスティは著作を通じて『ムーミンシリーズには彼女の人生や想いが詰まっている』と感じたそう。たとえば、本来なら気づかれないような名もなき小さな生物に名前や声を与えて『それぞれが自分の人生を表現できるようにしているシーンもたくさんあり、そういったトーベの思想というか考え方にとても共感する』ともおっしゃっていました」(佐々木さん)
〝やりたい仕事〟と〝求められる仕事〟のギャップに揺れながらも、自身を貫き通した強さに刺激をもらえる
彫刻家でもある厳格な父親との軋轢、そして保守的な美術界と自身の作風との葛藤で満たされない日々を送るトーベ。そんな中でも自分を偽ることなく、あらゆることに正面から向き合う彼女の姿は、仕事や人生に悩む働く女性にとって勇気をもらえるはず。
「トーベは才能あふれたアーティストでしたが、そんな彼女でさえ自分が〝やりたい仕事〟と〝周囲から求められる仕事〟が違うという現実に葛藤していました。
しかし、そのことが結果、自分の人生や想いを投影したかのような〝ムーミン〟という素晴らしい作品を生み出すことにも繋がっていきます。スムーズにいかなかったことが実は自分の想像以上にいい結果を生むことになった、ということはどんな仕事にも共感できるポイントであり、また人生を豊かにするヒントにもなるかな、と思います」(佐々木さん)
ムーミンファンにはたまらない描写やトーベの意外な素顔を知ることができる貴重な作品
トーベ・ヤンソンを〝ムーミン〟の作者としてしか見ていない人にとって、本作はトーベが多彩な人であったこと、愛にあふれた人生を送っていたことを知ることができる貴重な機会。大人になったからこそ再びムーミンの物語を読み返したり、トーベのほかの作品に触れたいとも思ったりする人もいるかと思います。この映画を通じてムーミンをより深掘りするのも楽しそう!
「スナフキンやムーミンのパパ&ママ、トゥーティッキなど、ムーミン谷のキャラクターたちのモデルになったとされる、トーベの周囲の人たちがたくさん登場します。だれがどのキャラクターのモデルなのか、ぜひ探してみてください。それぞれの風貌はもとより、性格が似ているところもたくさんありますし、劇中にそのヒントがあふれていますので原作を読んだことがある方ならもっと深く楽しめるはずです!」(佐々木さん)
トーベの実際のアトリエを忠実に再現した高い天井と暖炉がある部屋、画面にあふれる北欧らしい色使いのインテリアは、シンプルながらもセンスあふれる空間。そちらも併せてチェックしてみてくださいね!
【information】
『TOVE/トーベ』
監督:ザイダ・バリルート
脚本:エーヴァ・プトロ
出演:アルマ・ポウスティ(トーベ・ヤンソン)、クリスタ・コソネン(ヴィヴィカ・バンドラー)、シャンティ・ロニー(アトス・ヴィルタネン)、ヨアンナ・ハールッティ(トゥーリッキ・ピエティラ)、ロバート・エンケル(ヴィクトル・ヤンソン)
2020年/フィンランド・スウェーデン/カラー/ビスタ/5.1ch/103分
スウェーデン語ほか/日本語字幕:伊原奈津子/字幕監修:森下圭子
レイティング:G/原題:TOVE
配給:クロックワークス
10月1日(金)新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか、全国公開
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取材・文/宮田典子(HATSU)