平成の間、変化し続ける「オフィスファッション」
今は「オフィスカジュアル」という言葉が浸透しているため、身軽な格好で仕事をしている人が多く見られます。では、平成の初めはどうだったのでしょうか…?
現代ファッションを専門とする共立女子短期大学の渡辺明日香教授にお話を伺いました。
◆バブル期
湾岸戦争・バブル経済崩壊・オウム事件や阪神淡路大震災などが続く混迷期。ポケベル・携帯・インターネットなどの情報ツールが発達し、雑誌やブランドが提示するファッションだけでなく、街から発信されるファッションに注目が集まりました。
渋カジ以降、カジュアル化が進み、若者もファッションを楽しむという風潮に。ワンレン・ボディコン・オーバーサイズでルーズなシルエットのソフトスーツ・DCブランドなど、バブル時代のファッションに代わり、平成のスタートは、カジュアルファッションのスタートとなりました。
1980年代末に登場した、渋谷に集う高校・大学生の間で多様な着こなしを表現する「渋カジ(渋谷カジュアル)」を端緒とし、1990年代には、ファッションのカジュアル化とともに、「ギャル系」「裏原系」「ストリート系」など、様々なスタイルが加速度的に展開。
オフィスファッションでは、肩が大きいダブルのソフトスーツや、ボディコンシャスなシルエットのワンピースなど、1980年代半ばのバブル期に流行したスタイルが支持を集めたが、バブル崩壊以降、カジュアルファッションの広まりと並行するように、オフィスの装いにもカジュアル化が波及。女性の茶髪の流行、男性のロン毛ブームなどの影響を受けて、職場でのヘアスタイルにも少しずつ変化が見られました。
【平成元年・渋谷:ソフトスーツ、ボディコンシャスなワンピース】
【平成3年・銀座:ワンレン、ボディコンにチェーンバッグのスタイル】
【平成3年・渋谷:渋カジの定番、紺のブレザーにチノパンのコーディネート】
◆就職氷河期
平成の半ば頃(2000年)には、失業率の上昇や就職氷河期の影響もあり、この頃のファッションは、カジュアル全盛の1990年代に変わり、コンサバ・セレブ・トラッドなファッションが話題に。全体的に、エレガントでフェミニン、上品なイメージのファッションが台頭。
若者の間では、パンクやモード系などのアヴァンギャルドなスタイルも支持。携帯やスマートフォン・インターネットなど、新しい情報ツールが身近な存在となり、ファッションの参考にする先が多様になった結果、読者モデルやブロガーなど新しいファッションを作る人たちの幅も広がりました。
また、タレントやモデル、販売員やサロンのスタイリスト、編集者など、カリスマやセレブと呼ばれる人なども生まれ、ファッションアイコンが多様化。
オフィスファッションでは、カジュアルフライデーやクールビズの促進など、行政や企業も働きやすい服装で勤務することを推奨。女性では、2007年の男女雇用機会均等法改正のタイミングで、女性社員の事務服を廃止する企業が相次ぎました。その結果、女性の定番スタイルは、セットアップのカーディガンにスカート、足元は生足やミュールサンダル。
男性では、スーツにネクタイ着用以外の、ジャケットとパンツの組み合わせなどが一般化。ディオール・オムが提唱したスリムなスタイルやお兄系ファッションなどの影響を受けて、男性のスタイルも細身のシルエットに。つま先の尖ったビジネスシューズが登場するなど、一般のファッショントレンドが時間差で、ややマイルドな形でオフィスファッションに波及する動きが広がりました。
【平成15年・原宿:バーバリーブルーレーベルなどのブランド支持】
【平成15年・原宿:コンサバ・フェミニンスタイル】
【平成15年・原宿:スリムなジャケットやスキニー、つま先の尖った靴がビジネスウエアに広がる】
◆人生100年時代
2008年の世界同時不況を背景にファストファッションが全盛となり、「すぐ買ってすぐ着る」が定着。他方、地球環境・労働環境保全への意識からエコバッグ・リサイクル・エシカルなファッションへの注目が高まります。
SNSの登場により、ファッション情報の波及方法が激変。ブランドイメージや雑誌の系統、人気のあるファッションリーダーなど90年代までのジャンル分けされたコンテンツの影響力が低下、自分のフィルターを通してものを見る、選ぶ、買うようになりました。
また、トレンドに対する疲弊(買って着ればかぶる問題)も生まれ、「流行のものを着ること=ファッション(おしゃれ)」ではなく、個人が主体的に装いを選択する方向に変化。
オフィスファッションでは、働き方の多様化、転職が当たり前になりつつあることなどから、会社の装いにおける規範や、その会社ならではのカラーが薄まりつつあります。
アップル社創始者のスティーブ・ジョーンズやFacebookのCEOであるマーク・ザッカーバーグなどがパーカーやデニム等のカジュアルスタイルを徹底している影響や、ITやベンチャー系の企業を中心に、ラフなビジネス・スタイルが浸透していることで、カジュアルなオフィスファッションに。
男性では、ジャケットにジーンズを合わせたデニム通勤、スーツにスニーカーやリュックの組み合わせも珍しくありません。一方、女性はライダースジャケットやロングカーディガン・ガウチョパンツなど、トレンドのアイテムを上手に仕事服に加えたコーディネートも広まっています。
総じて、オフィスでの装いと休日に外出するときの装いに大きな差はなくなりました。
【平成21年・銀座:ファストファッションと思しきトレンドのアイテムがオフィスファッションにも広まる】
【平成28年・銀座:きれいめデニムスタイル】
【平成30年・銀座:リュックスタイルのカジュアル】
いかがでしたか? 平成30年間でオフィスファッションが大きく変化しましたね。今、見慣れているオフィスファッションが平成の初めは違っていたなんて…びっくり! 今後、どのように変わっていくか、楽しみ♡
資料提供/転職サービス「doda(デューダ)」 ホームページ
TOP画/(c)Shutterstock.com
教えてくれたのは…共立女子短期大学 渡辺明日香教授
共立女子大学大学院家政学研究科修士課程修了。首都大学東京大学院人文科学研究科博士後期課程修了(社会学博士)。1994年から継続しているストリートファッションの定点観測をはじめ、若者のファッションやライフスタイルの分析、生活デザイン、色彩などをテーマに研究を行う。著書に『ストリートファッションの時代』『ストリートファッション論』『東京ファッションクロニクル』など。