優しい水彩、可愛いらしいこどもの表情…『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子著)の装画でも知られる絵本画家、いわさきちひろさんの安曇野ちひろ美術館(長野県)が、今年、開館20周年を迎えます。
3月1日から始まったふたつの企画展は、スタジオジブリ・高畑勲さん、現代美術家・奈良美智さんがそれぞれ演出、構成をしたスペシャルな内容。ちひろファンはもちろんのこと、高畑ファン、奈良ファンも見逃せない展示となっています。
▲いわさきちひろ 麦わら帽子をかぶったおにた 『おにたのぼうし』(ポプラ社)より 1969年
▲安曇野ちひろ美術館(長野県北安曇野群松川村)
高畑勲がつくる ちひろ展
ようこそ!ちひろの絵のなかへ
長くアニメーションづくりの第一線で活躍してきた高畑勲さんは、創作のうえでいわさきちひろに深い洞察を得てきたといいます。そのはじまりは約50年前、長女が保育園から持ち帰った絵雑誌に載っていたいわさきちひろ作『あめのひのおるすばん』。留守番をする女の子の短いひとりごとと美しい水彩画が織りなすストーリー。「心理的なものをこれほど深く表現し得た絵本というのはそれまでになかったのではないか。初めてこの絵本を見たときの驚きは、今も僕のなかに大事なものとして残っています」と高畑さんは語ります。
▲いわさきちひろ 戸口に立つおにた 『おにたのぼうし』(ポプラ社)より 1969年
▲いわさきちひろ カーテンにかくれる少女 『あめのひのおるすばん』(至光社)より 1968年
今回、高畑さんにまず浮かんだアイディアは「高精細の拡大展示」。『おにたのぼうし』のおにた、『あめのひのおるすばん』の少女が、等身大の大きさに拡大されて、観る人を見つめます。おにたの足跡をたどり、カーテン越しの少女と向き合う。「小さな原画に秘められていた大きな活力が伝わる」「かすれやにじみ、髪質、摩耗や剥落をふくめ、“本物”に内在していた真の魅力が増幅される」と高畑さんが言うように、拡大展示は、まるで絵の中に入り、絵の世界に包まれるかのような新しい体験を生んでくれます。
▲計10 点の画を高精細な印刷技術で拡大展示
▲いわさきちひろ ガーベラを持つ少女 1970年頃
ほかにも、高畑さんがアニメーション映画『火垂るの墓』をつくるときに繰り返し読み、戦争を知らないスタッフに読んでもらい戦争の追体験をしてもらったという『戦火の中の子どもたち』にまつわる展示、『あめのひのおるすばん』の創作の現場の臨場感あふれる展示…と、見ごたえたっぷりです。
▲いわさきちひろ 焼け跡の姉弟 『戦火のなかの子どもたち』(岩崎書店)より 1973年
▲『あめのひのおるすばん』展示
奈良美智がつくる 茂田井武展
夢の旅人
もうひとつの企画展は『奈良美智がつくる 茂田井武展 夢の旅人』。奈良美智さんは、広いおでこと挑戦的なまなざしの子どもの絵や、青森県立美術館のまっしろな大きな犬の彫刻「あおもり犬」など、数々の人気作品で知られる日本を代表する現代美術家。そして茂田井武は『セロひきのゴーシュ』が有名な、戦後の混乱期に子どもの本にたくさんの絵を描き、後世の画家たちに多くの影響を与えたと言われている画家です。奈良さんも「僕も(影響を受けた)そのひとりに違いない」と言います。
▲茂田井武 『セロひきのゴーシュ』(福音館書店)より 1956年
今企画は、茂田井武の膨大なコレクションから、奈良さんが今も「新しい」と感じる作品を選び、展覧会を構成しています。「人に見せるための絵よりも、自分との対話のなかでうまれる絵にひかれる」という奈良さんが選んだ多くの絵と言葉に圧倒される展示空間。子どもへの愛だけにとどまらず、時空を超えて全世界を見つめる視線、それは巡り巡って自己にかえってくるもの…そんな壮大なサイクルを感じられる展示となっています。
▲茂田井武 画帳「続・白い十字架」より 1931-35年
▲茂田井武 画帳「続・白い十字架」より 1931-35年
<安曇野ちひろ美術館・開館20周年記念>
高畑勲がつくるちひろ展 ようこそ!ちひろの絵の中へ
奈良美智がつくる 茂田井武展 夢の旅人
会期:2017年3月1日(水)〜5月9日(火)
場所:安曇野ちひろ美術館 長野県北安曇郡松川村西原3358-24
電話:0261-62-0772
公式HP
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※掲載情報は2017年のものです。
初出:しごとなでしこ