ファッションエディター 三尋木奈保が語る!「永遠の定番」と呼べる靴
三尋木奈保
1973年生まれ。メーカー勤務後、雑誌好きが高じてファッションエディターに転身。装いと気持ちのかかわりを敏感にとらえた視点に支持が集まる。おしゃれルールをまとめた著書『マイ ベーシック ノート』(小学館)は2冊累計18万部のベストセラーに。
名品とは、そのときどきの流行を受け入れ引き立たせてくれるもの。自分らしさを確立する手助けになります
「どんなに服がシンプルでも、靴が最新のトレンドならサマになる。それくらい、足元の今っぽさは大事―― ファッションのひとつのセオリーだけど、そんな概念を吹き飛ばしてしまう「永遠の定番」と呼べる靴があります。
ジェイエムウエストンのシグニチャーローファー #180。最高峰の革を用い、職人の手で150もの工程を経て生み出されるローファーは、1946年に誕生して以来、今なお世界中で愛されている名品です。
私が購入したのは3年前。それまでの、トレンドに合わせていろいろな靴を買っては手放すことのくりかえしに、少し疲れた気持ちがあったんです。ボトムのシルエットや丈が変わるたびに、好きだった靴もなんとなく履かなくなるのが虚しくて。
ここで一度、どんな流行にも揺るがないタイムレスな靴が欲しい。一生ものとしてつきあっていける靴。そう考えたら、バレエシューズでもパンプスでもなくて、思い浮かんだのはこの一足でした」(三尋木さん)
名品「ジェイエムウエストン」のローファー
▲靴/本人私物
「タンと呼ばれる赤みのあるブラウンは、大好きな色。ベージュが多い私のワードローブの、いい差し色になります」ジェイエムウエストンはメンテナンスも手厚く、ソールの交換は縫い付けていたステッチをほどいて新たなソールを装着しなおしてくれる。
「ジェイエムウエストンでは、ベテランのシューフィッターが専用の計測器で丹念にサイズを見てくれます。横幅も選べるのが有名で、ふたつのサイズで悩んだ結果、すすめられたのは少しきつく感じるほうでした。革がなじんでくるのでちょうどいいとのプロのアドバイス。そもそも、この靴はつくりの堅牢さから最初はタイトフィットが前提で、数年かけて自分の足になじませるのが作法だ、とよく聞いていました。
購入した次の日、恐る恐る履いて、仕事へ。確かに硬さはあるけれど、一日歩いてもまったく痛くならないのに驚きました。足を包む内側の革は驚くほどなめらかで、それを外側の硬い革でくっと締めている独特の履き心地。安心感と緊張感が同時にくるような。決してラクな靴ではなく、だからこそ一生ものと思えるつくりのよさと風格があるんだと、思い知りました。
これを手に入れてから、疎遠になっていたシャツ×デニムの着こなしが大人のトラッドとして成立するようになったし、面白いのが流行のスカートにもぴったりくること。サテンのフレアやボリューミィなティアードに合わせると、トレンドを自分らしく着こなせている心地よさがあります。
名品とは、そのときどきの流行を受け入れ引き立たせてくれるもの。10年後、20年後に果たしてどれくらい足になじんでいるのかも含めて、この靴で広がるこれから先のおしゃれが楽しみです」(三尋木さん)
2021年Oggi9月号「私とおしゃれのモノ物語」より
撮影/生田昌士(hannah) プロップスタイリスト/郡山雅代(STASH) 構成/三尋木奈保
再構成/Oggi.jp編集部