ファッションエディター 三尋木奈保が語る! 伝統工芸のようなバッグ
三尋木奈保
1973年生まれ。メーカー勤務後、雑誌好きが高じてファッションエディターに転身。装いと気持ちのかかわりを敏感にとらえた視点に支持が集まる。おしゃれルールをまとめた著書『マイ ベーシック ノート』(小学館)は2冊累計18万部のベストセラーに。
使ってみるとわかるのです。圧倒的なクオリティが。ものの奥ゆきを知ることで、大人のおしゃれは味わいを増してゆく
「服を一枚買うのにも数日かけて検討する慎重派。高額なバッグならなおのこと。
そんな私が、目にしたその日その場で購入を決めたものがあります。7年ほど前に出合ったボッテガ・ヴェネタ。黒のレザーが茶色のリザードで縁取りされた小ぶりな長方形で、縁の内側には革ひもがぐるりと3重に縫い付けられています。ボッテガの代名詞、細い革を編み込んだイントレチャートがサイドのみに配された、凝ったつくり。
職人による手の込んだ贅沢なものだとひと目でわかるのに、たたずまいは奥ゆかしくて―― これは、美しい伝統工芸なんだ。全身の感覚がぱぁっと開かれるような気持ちで、ぞくぞくしながら購入を決めたのでした。自分にとってのヴィンテージになると言い聞かせて。
思えば20代のころ、初めて触れるナッパ(なめし革)のなめらかさに衝撃を受けたのもこのブランドでした。シルクのような肌触りに、本当に革なのだろうかと息をのんで。当時はまだバッグには手が出ず、熟考の末にモカブラウンの長財布を購入しました。
上等な革は、使い込むほど味わいを増すと知ったのはこのとき。仕事もまだ駆け出しで雑用も多い日々。荷物がたくさん入ったバッグの中からせわしなく財布を取り出すたびに、手触りの優雅さに心安らいだものでした。使い勝手も抜群で、そのうえ丈夫。ほかの財布に乗り替える気がまったく起きず、長く愛用していました」(三尋木さん)
「ボッテガ・ヴェネタ」のバッグ
▲左は7年前に購入したもの。右は現行モデルの「ミニ ザ・アルコ」バッグ/ともに本人私物
ボッテガを持つのなら、個人的にはミニバッグをおすすめします。おしゃれしてゆったり出かける日の小ぶりなサイズで、工芸品としての美しさを自分の手の中で感じてほしい
「使ってみるとよくわかるのです。ボッテガの圧倒的なクオリティが。選び抜かれた革の肌触り、つくりの確かさ―― ボッテガとは「工房」の意味だそうで、手仕事による工芸というイタリアの伝統と矜持が、しっかりと息づいているのを感じることができるのです。
3年前に新しいクリエイティブ・ディレクターを迎えたボッテガは、デザインも色使いもよりモダンに進化したと評判です。昨年、自分への誕生日祝いに新しいアイコンバッグ「ザ・アルコ」を購入しました。イントレチャートのパーツを大きくした大胆なアレンジは今までよりモードみをおびているけれど、揺るぎない品格は健在。どう革を重ねたらこのフォルムができあがるのだろうと、360度ひっくりかえして見入りたくなります。
「工房」の名を掲げる確かな骨格―― ブランドとしてのベーシックがありながら変化していく。だから古びない。私自身のスタイルもそうありたいと願いながら、クローゼットに並ぶふたつのバッグを眺めています」(三尋木さん)
2022年Oggi5月号「私とおしゃれのモノ物語」より
撮影/生田昌士(hannah) プロップスタイリスト/郡山雅代(STASH) 構成/三尋木奈保
再構成/Oggi.jp編集部