この記事は、実在する人物をもとに、その人の「いつか」を見つめて創作した“未来の自分を想像する”ストーリーです。今回は、知性溢れる佇まいと信念を持って仕事に打ち込むオッジェンヌ・志村美咲さんをモデルに「いつか」のストーリーをご紹介します。
志村美咲さんの「いつか」を彩る3つのポリシー
1. 動くこと
2031年11月。
私・志村美咲は今、羽田空港の国際線到着ゲートから出てきた。
コペンハーゲンの学会に参加して、帰国した。
飛行機が大好き。それはずっと変わらない。
私にとって飛行機は、『未来』、『挑戦』、『夢』の象徴。
展望デッキで、少しの間、離着陸を見た。
飛び立つ機体は、跳躍するイルカのように、銀色に輝いて
天空に消えた・・・。
空港からクルマに乗り込む。
これから向かうのは、ふるさと福島県の、とある海岸。
私は、そこに私が考える「未来の高齢者住宅街」を
つくろうと思っていた。
今日は、プレス発表会がある。
ほどよい緊張感。クルマを運転しながら、私は心を整える。
いつだってクルマは、『私が私に戻れる場所』。
ウィンドーを開けると、懐かしい潮の香りが車内にあふれる。
「ふ~」
大きく息を吐く。
10年前、私はインタビューで答えた。
「将来は、老人ホームをつくりたい」
当時は食品メーカーで商品開発やマーケティングを担当する会社員だったが、
学生時代にアルバイトした老人ホームでの体験が忘れられなかった。
私は大学院に入り、老年学を学んだ。
老年学、ジェロントロジーは、1903年にロシアの学者、
メチニコフが提唱した言葉。
回想心理学、ヘルスプロモーション、死生学、疫学統計学、
必死に修士課程まで進んでも、私の中でしっくりする答えは導きだせない。
2023年6月、
パシフィコ横浜で行われた
IAGGアジア・オセアニア国際老年学会議を聴講しても、
もやもやした気持ちは、払拭できなかった。
誰にも等しく訪れる、老い。
イチバン幸せな老いの形とは、何なのか・・・。
つくづく、頑固な性格だと思う。
納得するまで、動く。動かないと、気がすまない。
やらないで後悔するなら、断然、やって後悔する派。
特別な何かを身に着けたいわけではない。
私は、私でいたい。
だから、動く。そこにないなら、私が創る!
2025年、29歳の夏の終わり。
結局、貯金を全てつぎ込み、単身、デンマークに渡った。
2. 楽しむこと
デンマーク、コペンハーゲン。
片っ端から老人向け施設を訪問した。
アポなしの突撃訪問もあったが、どこも快く受け入れてくれた。
ある施設に行ったときのこと。
そこは集合住宅で、みんなが一同に住むことはなく、
「個」が守られていた。
そして、施設の中には、広大なテニスコート。
みんな楽しそうにラケットを振っていた。
そういえば・・・2021年のニュースを思い出す。
コペンハーゲン市が25年かけてスポーツと寿命との関連を解析した結果、
テニスをしていた人の平均寿命は、運動不足の人たちよりも
およそ9.7年間も長くなったことが判明。
研究で比較された8種のスポーツ中、
テニスの効果が突出していたという。
テニス・・・。
そうだ、私もかつてソフトテニスに夢中になっていた。
父と一緒に練習に励んだ。
「青い空 父を目がけて サーブする」
そんな句で優秀賞をもらった中学一年生のとき・・・。
楽しかった。青い空に浮き上がる、ボールの行方を追うとき、
ワクワクが止まらなかった。
そうだ・・・楽しむことがイチバン大事。
それは、どんなに歳を重ねても、変わらない。
高齢者が、自分なりに楽しめる場所。
それが私の理想だ。
コペンハーゲンの老人保健施設で、あるおばあさんが、
私に言った。
「ミサキ、人生はたった一回だから、素晴らしい。
あなたの笑顔が、わたしは大好き。どうか、笑顔であふれる人生を
おくってね」
皺だらけの手で私の両手を包んでくれた。
なぜか、涙があふれた。
3. 喜ばすこと
いよいよ、プレス発表のときが来た。
私が、会場に選んだのは、海が見下ろせる丘。
これから建設が始まる「高齢者住宅街」が眼下に見える場所。
「本日は、お忙しい中、お集まりいただき、
ありがとうございます。みなさまのおかげで、見てください、
晴れました!雲ひとつない、青空です!」
背筋をしゃんとして、堂々と挨拶ができた。
クルマの中で、心を整えられたおかげだ。
「私は、コペンハーゲンで『エイジング・イン・プレイス』
という考え方に出会いました。生活とケアの分離。
みんなで暮らすのもいいけれど、最後まで『自立』することの
素晴らしさを心に刻みました」。
会場に、家族の姿があった。
愛娘を抱いた夫。両親の姿もあった。
父は、満面の笑顔。
友だちも駆け付けてくれた。
どんなときも私を支えてくれたひとたち・・・。
気がつけば・・・。
そう、私はひとに喜んでもらうことが好きだった。
誰かを笑顔にすることが、私の生きがい。
大切なひとが笑顔になってくれると、私も笑顔になれる。
私が造る集合住宅街は、理想かもしれない。
『誰もが独立していて、でも、誰もとつながっている世界』。
私は、喜ばせたい。
この街に来るひとを。
私は、笑顔になってほしい。
私に関わる全てのひとに。
「私は、ひと、旅、本で、自分を創ってきたと思います。
どんな自分を創りたかったか・・・最近、ようやくわかってきました。
誰とも違う自分の人生を、自分らしく生きるためでした。
歳を重ねることは素晴らしいこと、まさに自分らしく最期を迎えたい。
だったら、自分探しを、いくつになってもしていいんじゃないでしょうか。
このプロジェクトは、私の自分探しでもあります」
会場に拍手が響き渡り、天空に消えた。
青空を見上げると、宙に浮かぶテニスボールのように、
飛行機が、横切っていった。
(おわり)
自分探しは、自分らしさを見つけること。
いつでも自分と向かい合う女性を私たちOggiとMAZDAはこれからも応援し続けます!
協力/マツダ
カーディガン¥18,400・カットソー¥2,990(バナナ・リパブリック) バッグ¥18,700(PEACH〈ヴィオラドーロ〉) サングラス¥37,620(ルックスオティカジャパン カスタマーサービス〈オリバーピープルズ〉) ピアス¥4,620(ジューシーロック)
【協力社リスト】
バナナ・リパブリック:0120-77-1978
PEACH:03-5411-2288
ルックスオティカジャパン カスタマーサービス:0120-990-307
ジューシーロック
撮影/須藤敬一(人物・車)、舞山秀一(車) スタイリスト/槇 佳菜絵 ヘア&メイク/秋山 瞳(PEACE MONKEY) 構成/Oggi.jp
●この特集で使用した商品の価格はすべて、税込価格です。