シェイクスピアの傑作「オセロー」を歌舞伎俳優・中村芝翫が愛憎たっぷりに演じる
シェイクスピアが残した四代悲劇の最高傑作『オセロー』が、中村芝翫を主演に迎え、新橋演舞場で上演。9月2日の初日終演後に記者会見が行われ、中村芝翫をはじめ、檀 れい、神山智洋(ジャニーズWEST)、前田亜季が出席した。
中村芝翫が襲名後初となる翻訳劇で、オセロー役に挑戦。オセローの若妻デズデモーナに檀 れい、嫉妬心を操りオセローを陥れようとするイアーゴーに神山智洋、イアーゴーの妻でデズデモーナの侍女エミーリアを前田亜季が演じる。蜷川幸雄の助手を長年勤め、蜷川イズムを受け継ぐ井上尊晶による演出にも注目が集まる。
―(司会者)初めてのシェイクスピア作品ですが、中村芝翫さんいかがでしたか?
中村:とにかく初日を迎えられてホッとしています。やっとここまでたどり着いたなと。やはり役者である以上、シェイクスピアは一度は手掛けてみたい作品です。難しい言葉が多くて、歌舞伎にも似ているようなところがあるんです。自分の肉体をとおして、心をとおしてその言葉が出てくるようにしないといけないので、1か月みっちり稽古をしてきました。
―やっとという言葉はセリフの量に関してですかね?
中村:いつもはスッと入ってくるのですが、なかなか覚えられなかったですね。7月の「文七元結」の巡業中に覚えたんです。オセローを覚えた後に長兵衛の役をやると全く違うものだから、オセローをすっかり忘れてしまって…(笑)。
―克服する方法って何かあったんですか?
中村:いや、ないですね。ただひたすら読むことに専念してきました。
―じゃあ、ご自宅でもお風呂入っているときとか覚えたりしたんでしょうか。
中村:いや、そこまでは(笑)。
ジャニーズWEST・神山、ストイックにセリフを練習するも、愛犬に不審がられた!?
―神山さんもセリフ量がとても多いですが、いかがですか?
神山:今回のセリフの量は今まででダントツですね! 僕はそれこそお風呂浸かりながら台本読んだり、犬の散歩しながらずっとセリフ呟いてみたり。ずっとブツブツ、ブツブツ…。
―ちょっと危ない人に見えたりしませんかね?(笑)。
神山:散歩中、犬がたまにフッと振り返ったりとかはありました(笑)。1か月の稽古を終えて、やっと今日、幕が開きました。カーテンコールでは、気持ちが解けていつもの俺になっていたのかなと思います。
―キャーと声援が上がってましたね。
神山:そうですね。こういった作品だから、あまり自分を出したくはなかったのですが、芝翫さんから「手を振ってあげなさい」とお言葉をいただいて。
中村:舞台中、客席と同じ気持ちを共有できたと感じました。神山くんの年齢でイアーゴーを演じた人は、かつて居ないんではないかと思うんです。だから稽古場で暗くなっちゃったときもあったし、皆で「大変だ、大変だ」って言ってたんです。僕らカンパニーも、神山くんがここまで頑張ってきたと知っているし、お客さまも皆さん察したのか緊張なさっていて。とても若い方もいらしてくださって、キャストの皆さんそれぞれのファンの方がいらっしゃいましたが今日は一丸となって舞台をつくりあげたなという感覚がありましたね。
―キャストの皆さんは、それぞれジャンルの違うトップの人が集まってますね。檀さんはいかがでしたか?
檀:無事に幕が開いたのでホッとしています。でも私の心の中は、興奮冷めやらぬという感じ。まだちょっとデズデモーナの気持ちを引きずっていますね。私もシェイクスピア初めてなのでお話をいただいたときはうれしかったのですが、やっぱりお断りすればよかったなと…。緊張と不安と何百年も前からいろんな国のさまざまな方が長きにわたって演じ続けている大きな作品なので、私には出来ないんじゃないかと…。顔合わせの日に皆さんのお顔を見て、本読みをしたら少し落ち着いて「頑張るしかない」と覚悟を決めました。
―芝翫さんからご覧になった檀さんはいかがでしたか?
中村:もうお人形さんのようですよ。檀さんは僕の前にポスター撮影を終えられていて、僕も自信がない中、このオセローどうなっちゃうかなと思いながら、檀さんの写真見てこれは僕こそ断ればよかったなと…。
会場:笑い
中村:別にいやだって言ってるわけじゃないんですよ! 本当にお人形さんみたいで。最初の登場で、花道を歩いてくる途中に命が吹き込まれるようなんです。香るような美しさってこういうことだと思いますよ。
檀:もう、ハードルが高いんです。登場する前に「デズデモーナはこんなに美しくて優しくて、ちょっとしたことでも顔を赤らめて」と皆さんのセリフでの前置きがあるので、ちゃんとして出ないと! って。
―本当にかわいらしいですけれど、すごく芯がしっかりしていらっしゃいますね。
中村:わりと今までのデズデモーナよりもはっきりと自分の魂を持ってらっしゃって、力強さがあるんです。僕は檀さんのファンの方にさぞかし恨まれるんではないかなって。
―前田さんも芯の強い女性を演じられましたね。
前田:幕が開いてホッとしています。こういったコスチュームを着てのお芝居が初めてでもうどうしようと思ったのですが、檀さんに動き方や話し方、メイクなどすべて教えていただいて。頼りっぱなしです。
―メイクも今までとは違いますか?
前田:はい、全く違いますね。つけまつげをしたり、濃くメイクしたほうがいいよとかいろんなアドバイスをいただいています。心強いです。
檀:女子がふたりしかいないんです。
前田:実はそうなんですよ!
檀:いや、3人なのかなって思っていましたが。2.5人ですかね?
中村・神山:2.5!
檀:男性とは違う、女性の出せるものってあると思うので、そこをだせたらいいねって。
―神山さんも芝翫さんに頼る部分もあったのでは?
中村:僕が頼ってるんだよ。
神山:(恐縮して)いやいやいやいや! 何をおっしゃいますやら! 芝翫さんとのシーンが多いのですが、「自分の中でつくりあげた憎しみをオセローに渡さないといけない」と演出の(井上)尊晶さんからも指導を受けていたんです。だから、芝翫さんのパワーに乗っかれ、乗っかれ! って。もらってもらって、それを倍にして返すように頑張っています。
―稽古中、へこんでいたという話もありましたが、どういうところで?
神山:やっぱり、大変やったんです。セリフの量もすごかったですし、セリフは覚えたけれどまだ感情は乗ってこないとか。先ほど芝翫さんがおっしゃってましたが、肉体からセリフが出てないとかそういうところで悩んでしまって、あまり元気がなかった時期はあったと思います。
―そういうときに芝翫さんから教わったこととかはありますか?
中村:いや、僕は言わないですよ。教わるほうです。
神山:いやいや、何をおっしゃいますやら!
中村芝翫、兄・福助の復帰に「涙が止まらない」
―皆さんでご飯行ったりとかは?
中村:そうですね。今すごく仲よくなれましたね。いろんなところから皆さん集まってらして、稽古を入れて2か月と少ない期間のカンパニーですが、(食事に)行っても、仕事の話をずっとしています。この舞台は、蜷川幸雄さんのときからずっといらっしゃる、井上尊晶さんの演出です。蜷川チームの役者さんもたくさん出演されているのですが、皆さんの楽屋へ行くと蜷川さんのお写真をどなたも飾られているんです。だから、今日きっと蜷川さんがいらっしゃってるだろうと思います。あと私事なんですが、9月には特別な思いがあります。父が最後に舞台に立ったのがこの新橋演舞場で、9月1日。初日を終えて自ら入院して、他界したんです。なんとなく「芝翫」という魂がここで入れ替わったんだなと。今日は父が入っていた楽屋にも入れてもらってるんです。そしてもっとうれしいのが、今日歌舞伎座で兄貴が復帰しまして。そっちも気になりながら1幕目を終えてニュースを見たら、割れんばかりの拍手だったと聞いて涙が止まらなくて。この9月2日は、忘れられない日になりました。まだ兄貴とは喋れていないのですがまだ万全じゃないとはいえ、こうして舞台に復帰できたのは本当にありがたいことです。また泣いちゃいそうです。
―復帰にあたり昨日とかお話されたりは?
中村:いや、あえてあまり喋らないようにしてました。大変だよって言っているみたいで僕もいやですからね。自由にしてほしいなと思ってます。今後はいっぱい出てもらいたいです。兄貴といっぱい芝居がしたいです。
―お父様もとってもお喜びなのでは?
中村:そうですね。きっと今日は歌舞伎座と演舞場と行ったり来たり大変だったのでは?(笑)。
会場:笑い
―改めて意気込みをおひとりずつお願いします。
中村:神山くん! 代表でしょ。
神山:えっ! 代表じゃないですよ(笑)。代表は芝翫さんですから! 僕も初めてシェイクスピアの作品に関わらせていただいたのですが、膨大なセリフの量もあり、やることもいっぱいあって稽古中は皆さんにたくさん支えていただきました。本番では、しっかりとイアーゴーを務めて走り抜けて、観ていただいた皆さまに「こいつ、嫌い!」って思ってもらえるように。それだけでなく、人間味も出せて感情移入できるイアーゴーをもっと突き詰めていきたいと思っています。
前田:シェイクスピア作品は初めてで、分からないことだらけなのですが皆さんに本当に助けていただいて初日を迎えられたのでこれからどんどん高まっていくように頑張りたいと思います。芝翫さんが作品の雰囲気をつくってくださったのでキャストも一丸となっていてすごくいい空気が流れているのでこのまま千穐楽まで進めると思います。ありがとうございます。
檀:劇場に観に来てくださったお客さまが「あぁいいお芝居だったな」と思ってもらえるよう日々、一回一回1ミリでも成長できるよう心を尽くしてデズデモーダを生き抜いていきたいと思います。
中村:歌舞伎もシェイクスピアも長かったり、わかんなかったり、難しいなって思いがちなんでしょうけれど、河合(祥一郎)先生の訳、松任谷(正隆)さんの音楽と、長年役者やってると言い訳ができないチームなんですよね。9月26日までやっています。大変わかりやすくなっていて、衣装も照明もすばらしいし、とにかく見ていただきたい。芝居とか音楽とか、いろんなスポーツだとかありますけれど、やはりライブのよさってあるんですよね。一度この新橋演舞場に足を運んで芝居を観ていただきたいなという思いです。もっとシェイクスピアを愛してもらって、僕ももっとやりたいなと思っているので、是非とも多くの方にお越し願いたいと思っております。
舞台『オセロー』
9月2日(日)~9月26日(水)
作:W.シェイクスピア
訳:河合祥一郎
演出:井上尊晶
音楽:松任谷正隆
キャスト
中村芝翫
神山智洋(ジャニーズWEST)
辻 萬長
田口 守
大石継太
二反田雅澄
河合宥季
廣田高志
池田純矢
石黒英雄
前田亜季
檀 れい