女性が直面するキャリア形成と妊娠・出産
「いつかは妊娠・出産したい。でも、今は仕事やキャリアを優先したい」「パートナーとのタイミングが合わず、すぐに妊娠を考えるのは難しい」。そんな20代・30代の女性にとって、将来の妊娠に備える方法のひとつが「計画的卵子凍結」です。
卵子は年齢とともに変化するため、若いうちに採卵して凍結保存しておくことで、将来の妊娠に向けた選択肢を残すことができます。一方で、卵子凍結をしたからといって、将来の妊娠・出産が保証されるわけではありません。メリットだけでなく、必要な卵子数や費用、治療の流れ、注意点まで知ったうえで、自分に合った選択肢として考えることが大切です。
1.計画的卵子凍結とは?
卵子凍結には、がんなどの病気の治療によって将来の妊娠が難しくなる可能性がある場合に行う「医学的適応による卵子凍結」と、健康上の問題はなくても、将来の妊娠に備えて行う「社会的卵子凍結」がありました。しかし、社会的とといっても主な要因は「卵子の老化」という医学的理由によるものなので、当院では両者を区別せず「計画的卵子凍結」としました。
前回の記事では、がん治療によって妊娠する力(妊孕性)が低下する可能性と、治療前に卵子や精子、胚などを凍結保存しておく「妊孕性温存」について紹介しました。
妊孕性温存は、がん患者さんだけが対象ではありません。がん以外の病気の治療によって妊娠・出産の時期が遅くなる場合や、仕事やキャリアを優先したい、海外赴任などで今すぐ妊娠を考えることが難しい場合にも、将来の妊娠に備える選択肢として卵子凍結を考えることができます。
2.なぜ若いうちに卵子を凍結するの?
女性の妊娠する力、つまり妊孕性は、年齢とともに変化します。
特に年齢を重ねると、卵子や受精卵の染色体の状態に変化が生じやすくなります。年齢が若いほど染色体数の異常が少ない卵子が多い傾向にある一方、年齢とともに染色体数の異常がある卵子の割合が増え、妊娠率の低下や流産率の上昇につながります。
日本産科婦人科学会のデータでは、ART(生殖補助医療)における1治療周期あたりの生児獲得率は、30歳では約23%、42歳では約5.6%とされています。また、妊娠後の流産率も年齢とともに上昇し、42歳を超えると40%を超えるとされています。
凍結した卵子は、保存している間に年齢を重ねることはなく、時間がとまります。
卵子凍結では、若いうちに採卵した卵子を、その時点で凍結保存します。たとえば30歳で凍結した卵子を、将来40歳で使用する場合、30歳のときに採卵した卵子で妊娠を目指すことができます。
もちろん、凍結した卵子を使用すれば必ず妊娠できるというわけではありません。将来妊娠を希望するときには、凍結した卵子を融解し、受精、胚の発育、胚移植などの段階を経る必要があります。
それでも、若いうちに卵子を凍結しておくことで、将来妊娠を考えるときに、「そのときの年齢で採卵する」だけでなく、「若いときに凍結しておいた卵子を使う」という選択肢を残すことができます。
3.卵子凍結のメリットと知っておきたい注意点
若い時期の卵子を将来使えることがメリット
計画的卵子凍結の大きなメリットは、採卵した時点の年齢の卵子を将来のために保存しておけることです。
仕事やキャリア、パートナーとのライフプランなどによって、今すぐ妊娠を考えることが難しい場合でも、若い時期に採卵した卵子を保存しておくことで、将来の妊娠に向けた選択肢を残すことができます。
一方で、卵子凍結には注意点もあります。
採卵では、卵巣を刺激して複数の卵子を育てるため、卵巣が腫れて腹部の張りや痛みなどが起こる「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」が生じることがあります。しかし、現在では薬剤が新しくなり、以前のようなOHSSは回避できるようになりました。
また、採卵では卵胞に針を刺して卵子を取り出すため、まれに出血や腹痛などが起こる可能性があります。麻酔に伴う副作用にも注意が必要です。
そして、もっとも大切なのは、卵子凍結をしたことが将来の妊娠・出産を保証するものではないということです。
卵子凍結は「卵子を凍結しておけば安心」というものではなく、将来の妊娠の可能性を残すための選択肢として理解しておくことが大切です。
4.卵子は何個くらい凍結すればいい?
「卵子を何個凍結しておけば、将来妊娠できるの?」という疑問も多いでしょう。
必要な卵子の数は、年齢だけで一律に決まるものではありません。卵子の成熟度や状態に加え、将来の受精、胚の発育など、妊娠に至るまでにはさまざまな要因が関係します。そのため、「この数の卵子を凍結しておけば、必ず妊娠できる」という基準があるわけではありません。
浅田レディースクリニックでは、30~34歳の場合、1人の赤ちゃんを得るために必要となる卵子数の目安として約12個を示しています。また、1回の採卵で10~20個程度の卵子を採取することを目標としています。
ただし、これはあくまで目安です。 将来の妊娠の可能性を高めるためには、その人の年齢や卵巣予備能などを考慮し、可能な範囲でできるだけ多くの卵子を凍結しておくことが重要です。
「何個あれば安心」と一律に考えるのではなく、まず自分の卵巣予備能でどのくらいの卵子を確保できるのかを確認し、そのうえで年齢や卵巣の状態、将来の妊娠についての希望などを踏まえて、医師と相談しながら凍結する卵子数を考えることが大切です。
究極的に受精卵が赤ちゃんまで育つ確率はカップルの遺伝子のバランス・遺伝子の偶然の組み換えで決まります。いわば、パートナーにより妊娠率がかわることも覚えておいて下さい。
5.卵子凍結はどうやって行う?
卵子凍結は、大きく「卵巣刺激」「採卵」「凍結・保存」という流れで行います。
(1) 卵巣を刺激して卵子を育てる
自然な排卵では、通常1周期に成熟する卵子は1個程度です。卵子凍結では、できるだけ複数の卵子を採取するため、排卵誘発剤などを使用して卵巣を刺激します。
月経2~4日目に診察と検査を行い、卵巣刺激を開始します。
その後、超音波検査やホルモンの血液検査などを行いながら、卵胞の発育を確認します。診察は3~4日おきが目安で、約2週間の間に5回程度の通院が必要になる場合があります。
(2) 採卵する
卵胞が十分に育ったタイミングで採卵を行います。
採卵では、超音波で卵巣を確認しながら針を使って卵胞から卵子を取り出します。採卵のタイミングは一人ひとり異なりますが、卵巣刺激を開始してから約14日後がひとつの目安です。
(3) 卵子を凍結・保存する
採取した卵子は、状態を確認したうえで凍結保存します。
現在は「ガラス化法(vitrification)」という方法が広く用いられています。凍結保護剤を用いて卵子を急速に冷却し、液体窒素中の-196℃で保存することで、細胞内に氷の結晶ができることを防ぎます。
凍結した卵子は長期間保存することができ、将来妊娠を希望するときに融解して使用します。
6.卵子凍結は仕事をしながらでもできる?
計画的卵子凍結を考える女性にとって、「仕事を続けながら通院できるの?」という点も気になるところです。
卵巣刺激から採卵までは約2週間がひとつの目安です。その間、数日おきの診察が必要になるため、スケジュールを調整する必要があります。
一方で、毎日通院するわけではありません。仕事の予定と通院日を調整しながら治療を進めることも可能です。
ただし、卵巣の反応やホルモン値によって診察や採卵のタイミングは変わります。治療開始前に、仕事の繁忙期や出張などの予定を医師に伝えておくとよいでしょう。
なお、ピル(経口避妊薬)を服用している場合は、すぐに卵子凍結を開始できないことがあります。ピルを中止してから2か月以上空ける必要がある場合があるため、卵子凍結を考え始めた段階で、早めに医療機関へ相談することが大切です。
また、病気の治療のためにホルモン剤などを服用している場合は、自己判断で中止せず、まずは治療を担当している医師に相談してください。
7.費用はどのくらい?施設の選び方は?助成制度はある?
卵子凍結には、初診・検査、排卵誘発剤などの薬剤費、採卵、卵子の凍結・保存などの費用がかかります。
浅田レディースクリニックでは、卵子凍結に必要な診察料、検査やお薬、手術や静脈麻酔費用などを含めた30万円と40万円のパッケージプランを用意しています。
卵子の凍結代や保管するための凍結維持管理料は、クリニックによって料金や設定が異なります。卵子凍結を検討する際には、採卵時の費用だけでなく、凍結後の保存・維持管理にかかる費用についても、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。
さらに、卵子を使う10年後、20年後もクリニックがしっかり存続し、確実に凍結されているか、また凍結・融解等はすべて繊細な技術ですので、しっかりした技術レベルがあるのかも考慮して施設を選ぶ必要があります。
なお自治体によっては卵子凍結に対する助成制度が設けられている場合もあります。住んでいる地域の制度についても、確認しておきましょう。
8.凍結した卵子で妊娠を希望するときは?
凍結した卵子を将来使用するときには、まず卵子を融解し、その後、卵子と精子を受精させ、できた胚を子宮に戻します。
胚を子宮に戻す時は、ホルモン剤などを用いて子宮内膜を整え、胚を受け入れやすい状態にしてから胚移植を行い、妊娠を目指します。
また、妊娠を希望する時点での女性の年齢も、妊娠・出産を考えるうえで重要です。卵子を若い時期に凍結していたとしても、妊娠・出産には母体の年齢による影響があります。そのため、凍結した卵子を実際に使用して妊娠・出産する時期は、45歳未満が望ましいとされています。
卵子凍結は、「将来の妊娠を保証する方法」ではなく、将来の妊娠に向けて選択肢を残しておくための方法と考えることが大切です。
9.「今」と「いつか」のために知っておきたい選択肢
計画的卵子凍結は、「今は妊娠を考えるタイミングではないけれど、将来は妊娠・出産したい」という女性が、将来の選択肢を残しておくための方法です。
卵子は年齢とともに変化するため、若い時期に採卵した卵子を凍結保存しておくことには意味があります。一方で、卵子凍結をしたからといって、将来の妊娠・出産が保証されるわけではありません。
凍結する卵子の数も、「何個あれば安心」と一律に決められるものではありません。年齢や卵巣予備能などを踏まえて、自分にとってどのくらいの卵子を確保できるのかを知ることが大切です。
妊娠・出産のタイミングは、人によって異なります。だからこそ、「いつか妊娠したい」と思ったときに、今の自分にどのような選択肢があるのかを知っておくこと。それが、将来のライフプランを考える第一歩になるかもしれません。
TOP・アイキャッチ画像/(c) Adobe Stock

浅田レディースクリニック 理事長 浅田義正(あさだよしまさ)
日本でも有数の体外受精成功率を誇り、愛知・東京でクリニック展開する「医療法人浅田レディースクリニック」の理事長を務める。海外での体外受精研究実績を持ち、顕微授精の第一人者。妊娠という“結果“を重視した世界水準の不妊治療を行っている。 浅田レディースクリニックHP