更なる新境地を求めて――夢見る心が果てぬまま、自己を更新し続けてきた布袋寅泰の40年の軌跡
◆Guest Musician:布袋寅泰
ほてい・ともやす/1981年に伝説的ロックバンド「BOØWY」のギタリストとしてデビュー。その後、1988年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビューを果たし、プロデューサー、作詞・作曲家として幅広く活躍。クエンティン・タランティーノ監督からのオファーで、『BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)』が映画『KILL BILL』のテーマ曲となり、世界的な評価を得る。2012年よりイギリスへ移住し、4度のロンドン公演に成功。東京2020パラリンピック開会式では『TSUBASA』『HIKARI』の2曲を制作し、パフォーマンスを披露した。
完成形に近いけれど、もう一歩…。
「今」を更新し続けるからこそ生まれる布袋サウンド
サッシャさん(以下、S):60歳の誕生日となる2月1日に20枚目となるオリジナル・アルバム『Still Dreamin’』が発売されました。改めて、おめでとうございます! 節目を迎えられた今の気持ちをお聞かせください。
布袋さん(以下、H):ありがとうございます。こうやって、大好きなギターと共に元気にアーティスト活動40周年を迎えられたっていうのはうれしいですよね。10代のときにロックと出合って、「このギターと一緒にいれば世界中を旅できるんじゃないか」と夢を描いた。
そこからバンドメンバーとの出会いがあって、ひとつひとつ色々な夢を叶えてきましたけれど、60歳を目前にしてもまだ夢を追いかける自分でいられる、というのは誇らしいし、うれしいです。今思い返せば、’85年に発表した『Dreamin’』という楽曲に、Stillという言葉を入れたことは自分にとっては大事なことでした。
S:アルバムのジャケット写真のアートワークを収めたYouTubeも印象的でした。「どこか到達しているんだけれど、まだ夢の中にいて、今なお夢を追い続けたい」という風に、布袋さんが世界的写真家の鋤田正義さんにオーダーされているのが素敵だなあと思って。
H:ようやく、自分のスタイルというものが見えてきたのが40代、50代の自分の声を聴いたときだったのかな。そこから磨きをかけて、より布袋寅泰として、ギタリストとして、また音楽家としても高めて行きつつ、どこかで「完成形に近いけれど、もう一歩」という気持ちをもち続けてここまで来たと思うんです。それを鋤田さんが見事に受け止めてくれて。
ロックバンド「T・レックス」のマーク・ボランの有名なモノクロポスターを楽器屋さんで偶然見かけたことが、ギターを始めたきっかけと言っても過言ではないのですが、それを撮影されたのが鋤田さん。そんな自分の人生を変えた鋤田さんは御年83歳ですが、シャッター音が優しくて鋭くてね。彼のファインダーの中に自分がいるということが本当にうれしくて、不覚にも涙が出ました。
S:本当に素晴しいコラボレーションでした。今回のアルバムを聴いて改めて思いましたが、布袋さんのギターサウンドは「第2のボーカル」のようにも聴こえて。なんていうか、布袋さんが歌っていないときでもギターが歌っているような感覚です。そのメロディーの強さはもう〝国際基準のロック〟ですし、日本の音楽史を大きく変えたと思っています。
H:うれしいですね。サッシャさんがおっしゃるように、僕の音楽は「一度聴いたらずっと残っていくサウンド」を目指してきたんです。だから、僕のギターは歌であり、メロディーであり、リズム。ロックの魅力のすべてをギターに集約して、今までやってきたつもりです。
Oggi読者の方々からすると、お父様やお母様が僕らの音楽を聴いてくれていて知ったという人もいるかもしれませんね。そうじゃなくても、どこかで僕の作品を耳にしてくれているんじゃないかな。昔はライブコンサートをやると9割9分が男性っていう時代もあって、もうムエタイ会場みたいに湯気が上がってしまって(笑)。
でも、最近は会場にもよりますが半分くらい女性ということもあるんですよ。リアルタイムで聴いてくれていた50代、40代後半のファンの方ももちろんいらっしゃるけれど、10代、20代の若者も増えてきて。気をつけないと「大御所」という墓場に足を一歩突っ込むことになりますから(笑)、今のサウンドが響くアーティストとして60歳を迎えられたっていうのは、改めてうれしいことですね。
最新アルバムでもあり、入門編としても楽しめる。
ニューアルバム『Still Dreamin’』の懐の深さ
H:『Still Dreamin’』というアルバムは、コロナ禍にいる今だからこそ、朝からポジティブな気分で聴けるアルバムにしたいなと思ったんです。聴きやすさがある一方で、僕のエッセンスもたくさん詰まった一枚。今まで僕の曲を聴く機会がなかった方にとっては、入門編として試していただけたらいいですね。
S:すごいです! 40周年を経てなお、自身の最新アルバムを入門編と言える布袋さんの懐の深さと言いますか、優しさが伝わってきます。
H:僕自身、円熟した部分もありますが、どこかにあのころのままの自分がいて、キャリアを重ねても夢をもち続けている。その夢がなんなのかっていうと、グラミー賞を獲るとか大それたことではなくて、もっともっと自分を更新して行きたいという思いです。次の扉を開きたいっていうキュリオシティ(好奇心)だと思うのね。そういう夢見る心が果てぬまま、あのころと変わらない自分のままでこの作品に取りかかれたっていう意味で、リスナーの方にはここから始めてもらって構わないということです。
S:アルバム収録曲でもある『10年前の今日のこと』のミュージックビデオでは、自身で撮影して編集までしたということで、素の布袋さんが垣間見られる印象的な作品でした。そうかと思えば、カッコいい布袋さんもしっかり堪能できるアルバムで! この一枚を通して、過去を見つめ直すことで先に進めるというストーリー性を感じました。
H:おっしゃる通りで、『10年前の今日のこと』は震災から10年だったり、僕らの家族にしてみると渡英から10年だったり、その間に母が旅立ったり…。思い返すと、早くて長い10年間だった。でも、これから先を考えたときに、時代はさらに加速する。10年後はきっと宇宙旅行やメタバースはあたり前になっているかもしれないし。
過去・現在・未来を意識してつくった曲だし、それは公開中のドキュメンタリー映画(『Still Dreamin’ -布袋寅泰 情熱と栄光のギタリズム-』※2月18日までの限定公開予定)も同じです。華々しい自分のキャリアだけをつなぎ合わせたのではなくて、今の自分と昔の自分が対話をするファンタジー仕立てになっていて、コロナ禍という現実まで写し込んでいます。
S:ご自身でナレーションもされているから、すべての映像と向き合ったということですね。
H:そうですね。当時、ロンドンは厳しいロックダウンを強いられて、本当に先が見えない状況でした。そんな中で、自分もフリーズしてしまったことがあって。でも、曲をつくることで自分と向き合えました。しかも、人にポジティブなメッセージを送ることが自分自身のセラピーにもなって。それで乗り越えられたところもあるんです。
まだ続くけれど、きっともうすぐ夜は明けると思うので、そのときにはフリーズした心を再び解放して、ひとりひとりが自分らしさを取り戻してほしい。この1〜2年の活動では、そうしたブレないメッセージがずっとありました。それは自分自身が一歩前に進むためにも必要でしたし、すごく貴重な40周年、そして60歳です。
<Vol.2へ続きます>
【Information】20枚目のオリジナル・アルバム『Still Dreamin’』が好評発売中!
2月1日、60歳の誕生日にリリースされた記念すべき20枚目のオリジナル・アルバム。アルバムのリード・トラック『Still Dreamin’』をはじめ、THE FIRST TAKEでも披露した『コキア』、アーティスト活動40周年記念シングル『Pegasus』、『10年前の今日のこと』のアルバムバージョンなどを収録。今もなお夢を追い続ける布袋寅泰のポジティブなメッセージにあふれた、現在進行形のロックが聴ける一枚。/¥6,600(初回生産限定盤/CD+フォトブックレット+グッズ)¥3,300(通常盤/CD) ユニバーサル ミュージック ※20thアルバム『Still Dreamin’』を携えた全国ツアー「HOTEI the LIVE 2022 “Still Dreamin’ Tour”」の開催が決定。5月7日(土)群馬・高崎芸術劇場よりスタート。ツアーは新作『Still Dreamin’』と40年のキャリアからの「Best選曲」を組み合わせた“夢満載”の内容が予定されています。
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【布袋さん衣装】
スーツ¥522,500・シャツ¥127,600・チーフ¥33,000・ベルト¥99,000(ブルネロ クチネリ ジャパン〈ブルネロ クチネリ〉)
【サッシャさん衣装】
ジャケット¥231,000・シャツ¥59,400・ネクタイ¥33,000・チーフ¥18,700(イザイア ナポリ 東京ミッドタウン〈イザイア〉) パンツ/スタイリスト私物
【協力社リスト】
ブルネロ クチネリ ジャパン:03-5276-8300
イザイア ナポリ 東京ミッドタウン:03-6447-0624
撮影/福本和洋 スタイリスト/井嶋一雄(Balance/布袋さん分)、久保コウヘイ(サッシャさん分) ヘア&メイク/原田 忠(資生堂/布袋さん分)、新地琢磨(Sui/サッシャさん分) 構成/宮田典子(HATSU)