最近よく耳にする「サステナビリティ」って、何?
知っているような気分になっていても、いざ自分の言葉で説明するとなると「あれ…?」意外と分かっていなかったことに気づく人も多いはず。今回は、そんなサステナビリティのことについて、ファッションジャーナリスト 松下久美さんにネホリハホリうかがいました!
ファッションジャーナリスト 松下久美さん
まつした・くみ/「日本繊維新聞」を経て「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターに。’17年に独立。20年以上にわたり、国内外のアパレル企業や百貨店などの経営や戦略などを取材・執筆。「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を手がけた。著書に『ユニクロ進化論』(ビジネス社)。
サステナビリティとファッションの関係って?
Oggi編集部(以下Oggi) 最近、「サステナビリティ」という言葉を本当によく聞きます。「持続可能性」という意味ですよね?
松下さん(以下、敬称略) はい。環境問題や貧困、経済やジェンダーなど幅広い分野において、持続可能な=サステナブルな社会を目指そうという動きが全世界で高まっています。環境活動家のグレタ・トゥンベリさんのスピーチを覚えている人も多いでしょうが、ファッション業界でも、多くのブランドでサステナブルな取り組みが始まっています。
Oggi 何がきっかけですか?
松下 ’15年に国連サミットで「SDGs」=サステナブル・ディベロップメント・ゴールズ(持続可能な開発目標)が採択され、加速しました。17のテーマ、169の項目で私たちが取り組むべきことが示されたガイドラインですね。
Oggi 最初の「S」がサステナブルなんですね。
松下 似たような考え方は前からありました。地球環境に優しいという意味の「エコ」や、生産者から搾取しない、紛争の資金源になっているジュエリーは使わないといった倫理的=「エシカル」、農薬や化学肥料に頼らない「オーガニック」という言葉も聞いたことがあるでしょう?
Oggi はい、「ロハス」なんて言葉もブームになりました。
松下 そうそう。「サステナブル」はそれらを包括する言葉です。
Oggi でもファッションとサステナビリティにはどんな関係があるんですか?
松下 まず、ファッションに対する意識の高い人は、時代の流れや社会の動きにも敏感です。たとえばステラ・マッカートニーは、’01年のブランドスタート当初から、ファーやレザーを使わずオーガニックな素材を取り入れるといったスタイルを提案してきました。今ではグッチなどを擁するケリンググループや、ルイ・ヴィトンなどを傘下にもつLVMHグループも、それぞれサステナビリティの目標を設定しています。
Oggi ファッション業界を牽引する会社も続々と取り組んでいるんですね。
松下 実は、ファッションは環境への負荷がとても大きい産業なんです。石油産業に次いで2番目、自動車産業よりも環境に悪いという…。たとえばジーンズ1本分のコットンを生産するには、1万リットルの水が必要。これは人間ひとりが飲む水の量の約10年分です。使われている染料などの化学物質も海や土地を汚染します。また、全世界のCO2排出量のうち、ファッション業界によるものが約1/4を占めているともいわれています。
Oggi そこまでとは…。
松下 ’18年にはイギリスのバーバリーが42億円相当の売れ残り商品を焼却処分したというショッキングなニュースもありました。でもこの出来事は氷山の一角で、実際は数多くのブランドが服を捨てたり燃やしたりしてきましたからね。
Oggi そんなことを聞くとおしゃれするのに気がひけてしまいそう。
松下 そうなんです。特に気候変動は差し迫った問題です。このままのペースで地球温暖化が進んだら日本も亜熱帯化して、冬場のコートは要らなくなるし、異常気象による災害が毎年何回も起こるようになったら?
Oggi おしゃれどころではなくなりますね。
松下 そのとおり! また、今は〝ESG〟といって、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治=ガバナンス(Governance)をきちんと考えている企業のほうが成長性が高いと考えられています。投資家たちもESGを考慮するので、サステナビリティの意識が低い企業は資金調達も難しくなる。さらに、サステナビリティに対する意識が高まっている人々、特に若い世代からも「選ばれないブランド」になってしまいます。そういう意味でも、ファッション業界は本気でサステナビリティに取り組んでいるんですよ。
さまざまなアプローチでサステナビリティを実践中!
Oggi 具体的にはどのようなことが行われているんですか?
松下 使用済の服などを回収して、使えるものは古着として流通させたり、難民キャンプや被災地などに届けたりして「リユース」するアパレル企業が増えています。リユースが難しい状態のものは燃料や原料として再活用する、広い意味でのリサイクルに回します。
Oggi 実は最近クローゼットを整理して、服を捨てようとしていたんです。住んでいる地域で古着回収も行っているようなんですが、指定の日時に指定の場所まで持って行くのが難しくて…。
松下 それをショップで引き取ってくれたりするんですよ。たとえばユニクロではユニクロ・ジーユーの商品を回収するボックスが用意されていますし、H&Mはアイテムのブランドを問わず回収してくれます。少し変わったリユースの取り組みとしては、無印良品が回収した商品を加工して再び販売するというプロジェクトを行っています。アディダスでは、100%リサイクル可能な素材でランニングシューズをつくり、しばらく履いた後に回収して2世代目のスニーカーにつくりかえる試みを進行中。’21年の春夏には一般販売される予定だそうです。
Oggi ちなみに… 失礼ながら、ユニクロやH&Mなどは大量生産・大量消費で、サステナビリティの対極にあるのかと思っていました。
松下 いえいえ、社会的な責任も大きいですから。ユニクロは柳井正会長兼社長自らが「サステナブルであることはすべてに優先する」と宣言しています。たとえば海洋汚染の原因を減らす「脱プラスチック」もそのひとつ。プラスチック製のショッピングバッグは順次廃止され、下着などのプラスチック包装も今年中をめどに85%削減する目標を立てています。
Oggi 確かに、買い物をしたときの白いプラスチックバッグが、再生紙の紙袋に変わっていました。
松下 H&Mもサステナブルの先進的な企業です。10年以上前、日本上陸前に本国スウェーデンまで取材に行ったら、今でいうサステナビリティの担当役員からレクチャーを受けないと、社長やデザイナーの取材をさせてもらえなくて。本気度がうかがえました。最近は「新素材の開発」にも力を入れています。環境に負担をかけない素材の開発や最新のテクノロジーを表彰し実用化を支援する基金を創業家がつくり、毎年1億円規模で賞金を出しています。
Oggi すごい! 本気ですね。
松下 またデッドストックの活用も増えています。従来なら捨てられていた在庫の洋服や生地、糸などを廃棄せずに、活用して新たな製品にすることを前面に押し出したブランドも話題を呼んでいますよ。
私たちがおしゃれを楽しみ続けるためにできること
Oggi 買う側としては、そのストーリーも込みで服を選ぶということですね。でも、サステナブルな服づくりにはお金も手間もかかりそう…。多くのブランドがサステナブルの商品を売ると価格は上がってしまうんですよね?
松下 それはブランドによります。「サステナブルな製品をつくるために価格が上がるのは必然だけど、そのぶん長く大切に着てもらえる自信の一着です!」と丁寧にコミュニケーションをとっていくブランドもあるでしょう。一方で、たとえば同じ服を100枚つくるのと1万枚つくるのとでは調達価格も効率も異なります。
「スケールメリット」ともいいますが、そういった経済合理性を取り入れて価格が上がらないように工夫している企業もあります。価格の価格のことでいえば、もうひとつ面白いキーワードがあります。リサイクル可能な素材を使用しエシカルな工場とのみ提携して製品をつくっているアメリカのEverlane(エバーレーン)というブランドがあるんですが、ユニークなのは原価や人件費まですべて公表している透明性=〝トランスペアレンシー〟。それらの情報が公になっていることで、買う側は、無駄や搾取がないか、それが自分の価値観に沿った製品なのか、納得して選べるというわけです。
Oggi なるほど。先ほどから「古着回収を利用する以外に、私には何ができるんだろう?」と考えていたんですが、今、少しわかったような気がします。何を考えてどのように服をつくっているか、開示しているブランドの商品を納得したうえで選んでいくことが、サステナビリティにつながっていくのかな、って。地球に優しくないものは、やっぱり買いたくないですもん。
松下 まさにそうです。きちんと選ぶ、長く着る、捨てない、不要になったら循環させる、がキーワードです。今後もおしゃれを楽しんでいけるように、生活者ひとりひとりが意識を高めていくことがマスト。それが企業も、社会も動かしていく力になっていくんですよ。
知っておきたい! サステナビリティKEYWORD
【1】リユース・リサイクル
アディダスの取り組み
アディダスはまるごとリサイクルできるランニングシューズ「フューチャークラフト.ループ」を’19年4月に発表。使用後に回収しリメイドされたシューズが同年秋に発表された。’21年春夏一般発売予定。(アディダスお客様窓口)
無印良品の取り組み
「ReMUJI」では無印良品が回収した衣料品の中でまだ着ることができるものを染め直して再生。リユースできないものはエネルギーや服の原料に。(無印良品 銀座)
【2】脱プラスチック
ファーストリテイリングの取り組み
ユニクロを運営するファーストリテイリンググループでは、使い捨てプラスチックを原則として撤廃し、2020年中をめどに約7,800トン削減の目標を掲げている。ユニクロやジーユーでは再生紙などを利用した紙袋に順次切り替え。オリジナルエコバッグ(写真/Lサイズ¥190)も販売している。(UNIQLO)
【3】新素材の開発
H&Mの取り組み
H&Mではオーガニックコットンやリサイクルポリエステルなどサステナブルな素材を用い、レッドカーペットも歩けるようなデザイン性を両立させたコレクション「コンシャス・エクスクルーシヴ」が特徴的。オレンジやブドウの皮、藻などを用いた素材や、海洋ゴミ素材を使ったドレスなども。(H&M カスタマーサービス)
【4】デッドストックの活用
BEAMSの取り組み
「ビームス クチュール」は、ビームスの倉庫に眠るオリジナル商品のデッドストックや古着をリボンなどで彩り、手仕事で個性豊かな一点ものによみがえらせている。(BEAMS JAPAN)
話題のプロジェクト「EQUALAND」
世界的なラグジュアリーブランドが残した高級な糸を贅沢に使ったTシャツなどで話題のプロジェクト「EQUALAND」。製品に綿花生産者から技術者、デザイナーまで、製造に携わる人々のクレジットが付けられている。(EQUALAND)
【5】トランスペアレンシー
Everlaneの取り組み
服を買う側が〝正しい選択〟を簡単にできるよう、徹底した透明性にこだわっているのがアメリカの「Everlane|エバーレーン」(日本語ECサイトあり)。たとえば写真のストレッチスキニーアンクル丈ジーンズは税込¥10,200(為替レートにより金額が多少変わることがあります)。サイトに材料費、部品費、人件費、関税、輸送費が明記されており、残りがブランド運営のための費用だとわかる。(Everlane)
2020年Oggi4月号「Oggi大学」より
撮影/為広麻里 イラスト/八重樫王明 構成/酒井亜希子(スタッフ・オン)
再構成/Oggi.jp編集部