【中村うさぎのお悩み相談室】
「結婚したいのに、既婚者を好きになってしまい、忘れられません…!」
AG 34歳なんですけど、これからの人生どうしていこうかなっていう。以前既婚者の方とお付き合いがあって、その人のことがまだ忘れられずにいる。結婚したいという気持ちはあるけれど、その人が好きっていう気持ちもあり、ずるずるしてるから、もう仕事に生きるしかないのかなっていう悩みです。自分の気持ちの整理がなかなかつかないというか。
結婚したいとなったら「その目標に向かって進めばいいじゃん、条件だけ設定して、結婚したいならすればいいじゃん」って思うんです。なんで結婚したいかと言ったら、私は子供も欲しいし。だから結婚と恋愛は違うからと割り切って〝結婚したい子供が産みたい〟という目的なら、そこは割り切ってすればばいいじゃんって言われるし、自分でもわかってはいるんですよ。
で、ズルズルいってもダメだなと思って、母親の勧めで、ちゃんとした結婚相談所にも登録していて、マッチングアプリにも登録していて、積極的に活動しようと動いていて。誘われた飲み会も断らないようにしていて。積極的に出会いを求めにはいってるんですけど、結局気持ちが追いついていかなくて。
中村 好きな人が現れないってこと?
AG そうです。私の友達とかは「別に全然好きじゃないけど結婚した」「40歳独身より40歳バツイチって言いたかったから結婚した」とか「旦那は完全に協同経営者としか思ってない」とか、そういう友達もいるんですよ。
でもまだそこまで割り切れなくて。で、割り切れないならじゃあ、やっぱり仕事に生きていくという感じになるのかなと思ったり。
中村 なるほど。でも結婚と仕事ってかならずしも両立できないわけじゃないじゃないですか。その選択肢はあまりないんですか?
AG そうですね。あります、もちろん。仕事しながら結婚できたら一番いいと思ってます。ただ仕事楽しいなって思って集中しだしちゃったら、今活動してることがおろそかになるというか。どっちつかずになるか、どっちかに集中しちゃうかかなぁと思っていて。
中村 仕事は楽しいんですか?
仕事ではキャリアの分かれ道に立っていて、決断のとき
AG 実は仕事もいろいろあって。一度転職しているんですが、前の会社では長い間出向していたんですよ。
そこにいるときはすごく楽しかったんですね、仕事。で、もう一回うちで働かないかって声がかかっていて。いきなり正社員っていうルートが難しいので嘱託社員からはじめないかと言われていて、リスクはリスクなんですけど、雰囲気もよくすごく楽しかったし、仕事の内容もそのときとは違うかもしれないですけど、興味を持っていて。今よりも待遇はあがるんですね。ただ嘱託っていう雇用形態のリスクとか、退職金が出ないとか、諸々リスクがあるので、ちょっと考えてはいるところなんですね。もし入ったとしたら、正社員登用もありえるとは言われていて、正社員になるには、仕事をそれなりに頑張らないといけない。
中村 結果を出さないとってことね?
AG そうですね。そのプレッシャーもあるし、という感じなんですよね。
中村 なるほど。今話してる感じでは、仕事の話してるときの方が生き生きしてる。
AG 確かに(笑)
中村 婚活の話してるときよりも、「以前の職場がすごい楽しかったんです」みたいな話の時の方が楽しそうだったから、なんとなく、滲み出るものが婚活ではないような空気を感じてしまったけど。
私が気になるのは、前の不倫の相手とズルズルしてるっていうのは、まだ続いてるということ?
AG 関係が続いてるというわけではないんですけど、元々友人のような間柄だったので連絡はとってはいるんです。
そもそも付き合うような形になった時に、向こうは離婚する気だ、と。ただ、状況が難しくて、夫婦仲は冷め切っているけど、国際結婚で間に子供がいて家庭をすごく重要視する家族だから、離婚しづらいとは聞いていて。
彼としても、ズルズル何年も私の時間を拘束するのが申し訳ないから「⚪︎月で何も動かなかったら、もう別れよう」って言われてたんですよ。で、途中に向こうのご両親も含めて家族会議を開いて話したらしく、そしたら彼以外全員が反対だったんですよ、離婚に。彼のご両親も、奥さんも、奥さん側のご両親も全員反対で。
離婚不成立で、彼との別れ。でも…
中村 彼だけが離婚したかったんだ。
AG そう、彼だけだったんです。で、奥さんのご家庭は所謂富裕層で、お金には困ることはないんですよね、けれども体裁というか、周りの目を気にして離婚できない状況だということで。
で、結局終わろうという話になって。でも、やっぱりズルズル連絡は…もともと友人のような関係だったのもあって、続いてるんですよね。
中村 会ったりもしてるの?
AG 1、2ヶ月に1回くらい、ランチいくみたいな感じで、ご飯食べたりはしてますけど。
中村 恋愛関係では、もうないんだよね?
AG うん、でも、お互いたぶん嫌いになって別れたくなって別れたわけじゃないから、モヤモヤしちゃってるんですね。私としても、そのときに待つって言ったんですけど、向こうから、「でも結婚したいし子供も産みたいんでしょ」って話になって。そこでもちょっとモヤモヤみたいな
中村 「待っててくれ」とは言わないのね?
AG 言わないです。向こうは言わないです、それは。私の人生をダメにしちゃうから、それは絶対言わない。
でも私としては、最初はお子さんのこともあるから離婚してほしいって言えなかったんですけど、できれば離婚に向けて頑張ってほしいと。あなたにまだそういう感情が残ってるなら、頑張ってほしいとは伝えたんですね。
で、向こうはそれにイエスともノーとも言わないんですよ。イエスて言ったら期待させてしまう、でもノーっていう感情でもないから、向こうはどちらとも言わない。
「一番の足かせは、その彼との問題! 今いくら婚活しても無駄よ」
中村 なるほど。そこが一番足かせになってるっていうか、そこの決着がつかない限り、いくら婚活しても無駄だと思うんですよ。さっきの情熱のない婚活の話も、やっぱり彼の存在が大きいわけじゃないですか。彼のことをまだ好きな限りさ。でも別れて半年以上…だっけ? 別れてからそんなに長い間、ずっと誰かを好きだったこと、私はない(笑)。
AG いや、私もないんですよ。私もなくて。だから自分でけっこう驚いていて、今までって2、3ヶ月でどうにかなってたんですよ。決着がついて2、3ヶ月経つと「別に忘れてるな〜」みたいな。
そんな感じだったし、ほかの出会いがまたあったら、そっちがいいかもとか、なってたんですけど、それが今ないんですよ。それが今、私の中でも戸惑っていて「やばい!」みたいな。
中村 彼とは会わない方がいいんだけどね、本当は。
AG そうですよね。
中村 でも連絡がくると会いたくなっちゃうんだよね。
AG うん、だし、連絡がこないとモヤモヤしちゃう。連絡こないな…って。気にしちゃう。
中村 ああ……好きなんだぁ…。どうしよう、これはもう…。うーん、これは好きなんだなぁ。だって連絡こないの気になるくらいだもんね。
普通だったらさぁ、もう別れた後にメールなんか来たらギョッとするくらいだよね。「何の用!?」って
AG こんなに携帯みたことなかったです、私。今まで。
中村 ああー!
AG 基本的に私、携帯なくてもいけてたんで。LINEニュース見るくらいで(笑)
中村 彼の連絡をこんなに待ってるなんて…。今までの恋愛でもなかったみたいな感じ?
AG ないです。
中村 うーん、これはね、彼との間に決着をつけないといけないんだけど、決着のつけ方なんて私にはわからないなぁ。
だって、恋愛なんて本当に他人が何言ったってさ、あんな男やめなよって言ったってさ、そうだねって終わるもんじゃないじゃん。自分でもダメだって思ってても好きなものはしょうがないみたいなものじゃん。それが恋愛じゃん。
もう本当に、彼が霞むほどの人と出会うか、そうじゃなくて、本当に段々疎遠になっていって、静かに過去になっていくみたいな形をとるしかないよねぇ。半年も経って、まだ彼の連絡を待ってしまうんだから……うん。
AG そうですね。仕事中は私、基本的に自分の携帯を見ないので、仕事とっても忙しくなったら、そういう気持ち薄れるかな、みたいなことは思ってて。
別のフェイズでスイッチを切り替える
中村 それは、そうかもしんないね。じゃあ、もう、仕事だね。
確かに好きな人とうまくいかなくって、でもその人のことまだ好きで…みたいな状態だと、諦めろっていったって諦められないし、諦められない限り次に候補が現れても、やっぱり霞んで見えちゃうのはしょうがない。
でも、仕事ってまた全然別のフェイズのことだから、しなきゃいけないじゃん。とりあえず彼氏のことモヤモヤしてても、今目の前にある仕事に集中せざるを得ないから、無理やり自分のスイッチを切り替えて仕事の方に集中するみたいなことって、次の恋愛にスイッチを切り替えるよりは、仕事でスイッチ切り替えるほうが切り替えやすいと思うんですよね。
AG そうですよね。働き方改革さえなければなって感じですけどね。かなり早く帰らされるんで(笑)。そしたら、暇な時間が増えちゃって。
中村 そしたら彼のこと考えちゃうんだ。暇だとダメだよね。
AG 本当に。暇だとだめなんですよね。
中村 暇だと、ろくなこと考えないからね。
AG そうなんですよ。今の仕事、けっこう暇なんで。
中村 でも今ヘッドハンティングきてるところに入ると忙しくなりそう?
AG 多分忙しくはなるんですけど、やっぱり早く帰れ的な、仕事するな的な空気があるので。私がいた少し前は昼夜問わず全員働いてたんですよ。けど、今そんなことないって言ってたんで…
中村 でもさ、その新しい職場にいって、新しい人間関係ができるわけだし、さっきもいったように、嘱託っていう不安定な立場から正社員になるには何か結果出さないといけない、仕事に打ち込まざるを得ない事情もあるわけじゃないですか。のほほんとやっていける正社員じゃないことも今のあなたには必要かもしれないですよね。
そうやって仕事に集中してるうちに彼が霞んでしまうことも有り得るし、あるいは仕事の新しいところで出会いもあるかもしんないじゃない、わかんないけど。
婚活で出会うよりは、自然に職場で出会うくらいの恋愛のほうが私はたぶん上手くいくんじゃないかなって思うんですよ。どうしても結婚して子供産みたい!っていう強い思いがさほど感じられない話ぶりから、一応子供はほしいなとか、結婚はしとかなきゃなとか、人生の義務とか宿題みたいな感じで思ってるんじゃない?
AG そうですね、最終的には優秀な精子が欲しいって感じですね。
中村 なるほど。じゃあ精子バンクでもいいわけですね。
AG そう。最終的には優秀な遺伝子さえあればいい、みたいな。
滅多に答えを出さない私が言うけれど、あなたの場合は…仕事がいい(笑)
中村 (笑)私は、相談者に対して明確な答を出すことは滅多にないんですよ。やっぱり、あなた自身が決める問題だからね。あなたが、この問題を選択するにあたって、どういうふうに考えたらあなたの満足のいく答えがでるのかってことを言うのが多いんだけど、あなたの場合は明らかに仕事がいいと思う。(笑)
AG(笑)
中村 はっきり言って、やっぱり彼とは多分うまくいかないと思うのよ。もしかしたら彼が離婚して…みたいなことを心のどこかで望んでいるとしても、今まで何度も家族会議やってそのたびに離婚できなかったんだから、もう離婚の目はないと思うし、ましてや相手が外国人なら色々面倒臭いことが生じるから。で、彼と結婚する可能性がないと考えた場合、じゃあどのように彼を諦めるかっていう方法を模索することになるわけでしょ?
それは、やっぱり婚活よりも仕事じゃないかなって思うんですよ。万が一結婚しないにしてもさ、自分の仕事っていうのがあれば食っていけるじゃん。やっぱり一番よくないのが、自力で食っていけないっていう問題よね。経済力ないと、やっぱり男の人に頼らざるを得ないからさ。で、最終的に「私は30半ば過ぎちゃったから、誰でもいい」みたいに切羽詰まっちゃうからさ。切羽詰まると、ろくなことがないから。
今まだ34歳とかだと仕事が一番全力が出せる時期で、これが40歳、50歳とかにだんだんなってくると、体力も落ちるし、可能性もだんだん少なくなっていくから、今が一番仕事に全力をつくせる年頃だと思うんですよ。
結婚なんて別にいくつだっていいじゃない。単なるパートナーなんだからさ。子供だったら精子バンクでいいって自分で思ってるんだったら、結婚する必要すらないし。むしろ必要なのは子育ての経済力よ。
そうなると、とりあえず自分が何をして食っていくか、という問題に絞られてくる。嫌なことして食っていくよりは、やりたいことして食っていったほうがいいだろうし、自分の能力が認められる喜びとか快感みたいなものをが人生の目標になってもいいと思うから。私はそう思うんですけど、どうですかね?
「必要なのは、結婚より子育ての経済力よ」
AG そうですね。うん、そうですね。どうしても、周りというか、家族、できれば…幼稚な考えですけど、好きな人と結婚してあたたかい家庭を築きたいみたいなのが理想は理想。でも周りを見ると、幸せそうだなとか、羨む気持ち、嫉妬心みたいなのも出ちゃって。それは自分も嫌なんです、
結婚してる人たちがみんな幸せなわけではないと思うけど。なんというか孤独感がないというか、一人じゃないっていうのがあるじゃないですか。その点に関しては私からしたら、羨ましいよって思うし、
中村 なるほど。でも、いつかパートナーは見つかると思いますよ。30代じゃなくても。てかむしろ、30代に生涯のパートナーが見つかる人の方が稀かもしれない。だいたいは、結婚しちゃったからしょうがなくパートナーになってるっていうケースが多いと思う。理想の人と20代30代で出会える人なんて、本当に運のいい人だから。
AG そうですね、うちの親は離婚していて。で、母親が言うには、自分も焦って結婚した、と。だから私には結婚しろしろみたいなプレッシャーは与えてこないですけど。でも、まぁ、孫は見たいなとは言ってきますけどね。
中村 孫は、精子バンクで産んであげればいいじゃない(笑)。まぁ、今夢中になれそうなものがあるとしたら、彼を除けば仕事なのかな? どう思う?
AG 彼を除くと、そうですね、仕事かな。仕事もこれからどうなるかはわからないんですけれども、期待感も含めると、仕事になるかな。
中村 なるほど。まぁ、彼が一番である人生から脱却することを、まず。彼は絶対、結婚はできないと思うよ。子供までいるしね。
AG そうですね。したとしてもだいぶ先。子供が成人以降なんだろうな。10年以上後かな。
中村 そんな後の彼ももうおっさんだろうし、あなたも変わってるだろうから、10年以上後のことなんて夢見てたら、今がもったいない。
AG 確かに。
「自分の人生を支えるのは結局自分」
中村 彼は、多分、もう縁がなかったんですよ。
だから、これから先の自分のことを一番に考えるべきじゃん。そうなると、たぶん、あなたの場合は仕事だよね?
私の友達も離婚してる人多いんだけど、みんな経済力がある。でも離婚した後はみんな、やっぱり寂しいわけ。心の支えを失った感じがあるから。そういうときにみんなが判で押したようにやるのは、馬車馬のように働くことの。仕事に夢中になってれば、早く吹っ切れるからね。
で、馬車馬みたいに働くからいい仕事もできるし、それが評価もされるし。結果的には、離婚した直後にめちゃめちゃ頑張って仕事してた自信と誇りみたいなものが、彼女たちの人生を支えてるんだよね。だから男じゃないんだよね、結局支えてるのは。だから、自分の人生を支えるのは結局自分しかいないと私は思うので。だから、馬車馬みたいに働いてください。
AG そうてすね。彼を忘れるためにも、馬車馬みたいに夢中で働きます。うん、仕事に生きる!
撮影/深山徳幸 撮影協力/シューパレード
中村うさぎ
小説家・エッセイスト。OL、コピーライターを経て作家へと転身。ベストセラーとなったデビュー作『ゴクドーくん漫遊記』を皮切りに活躍を続ける。その後、自身の実体験を赤裸々に綴ったエッセイがヒット。『女という病』『私という病』『狂人失格』『セックス放浪記』『プロポーズはいらない』など多数の人気著書を手がける。
中村うさぎオフィシャルサイト
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