15~39歳=AYA世代(思春期・若年成人)でも年間約2万人ががんに罹患
「がんは、まだ若い自分には関係ない」そう思っている人も多いかもしれません。
けれど、15~39歳の「AYA世代(思春期・若年成人)」でも、年間約2万人ががんと診断されています。なかでも30~39歳の女性では、乳がんが最も多いがん種です。
そして、若い世代ががんについて考えるとき、忘れてはいけないのが「治療後の人生」。
がん治療によって命を救うことができても、治療の影響で卵巣の働きが低下し、将来妊娠する力=「妊孕性(にんようせい)」が低下することがあります。
特に乳がんでは、治療後の妊娠やホルモン療法との関係など、若い女性だからこそ知っておきたいことがあります。
「いつか子どもが欲しい」と思っているなら、がんと診断されたとき、病気の治療だけでなく、その先の人生についても考えておくことが大切です。
1.がんは若くてもかかる。30代女性では乳がんが最多
「乳がんは40代、50代になってから気をつければいい」そんなイメージを持っていないでしょうか。
実際には、若い女性でも乳がんは発症します。国立がん研究センターによると、2023年に15~39歳でがんと診断された人は、15~19歳で約900例、20歳代で約4,200例、30歳代で約15,000例。15~39歳を合わせると年間約2万人にのぼります。
年齢によって、かかりやすいがんは異なります。30~39歳の女性では、乳がんが最も多く、全体の30%を占めています。
つまり、20代・30代の女性にとって、乳がんは決して「まだ先の話」とは言い切れない病気なのです。
2.がんが治った後も続く「その後の人生」
「がん」と聞くと、まず「治るのだろうか」「命は大丈夫なのだろうか」と考えるかもしれません。
もちろん、がんの種類や進行度によって治療や経過は大きく異なります。一方で、がんを治療した後も長く生活する人は少なくありません。
国立がん研究センターの院内がん登録では、AYA世代(15~39歳)の乳がんについて、5年実測生存率は90.0%、10年実測生存率は83.5%と報告されています。ただし、これらは過去に診断された患者さんの統計であり、現在治療を受けている一人ひとりの予後をそのまま示すものではありません。
大切なのは、「がんを治すこと」だけでなく、治療後にどんな人生を送りたいのかを考えておくこと。
仕事を続けたい。パートナーと暮らしたい。結婚したい。いつか子どもを持ちたい――。
若い世代では、がんの治療と同時に、その先の人生について考えることも大切です。
3.がん治療によって妊孕性が低下することがある
「妊孕性(にんようせい)」とは、簡単にいうと妊娠するための力のことです。
がんの治療では、抗がん剤や放射線治療などの影響によって卵巣の働きが低下し、将来の妊娠が難しくなることがあります。ただし、すべてのがん治療で妊孕性が失われるわけではありません。
影響の程度は、がんの種類や治療内容、使用する薬、放射線を当てる部位、年齢などによって異なります。
特に乳がんでは、抗がん剤治療に加えて、ホルモン受容体陽性の場合には長期間のホルモン療法が行われることがあります。
だからこそ、治療開始前に、
「この治療によって、将来妊娠する力にどのような影響がありますか?」
と主治医に確認することが大切です。
4.がんと妊孕性温存・卵子凍結
がん治療の前に「妊孕性温存」という選択肢
がん治療によって将来の妊娠が難しくなる可能性がある場合、治療を始める前に妊孕性を温存する方法があります。女性では、卵子や受精卵(胚)などを凍結保存する方法があり、その代表的な方法の一つが「卵子凍結」です。
卵子凍結では、卵巣の状態を確認したうえで排卵誘発剤などを使って複数の卵子を育て、成熟したタイミングで採卵します。採取した成熟卵子を凍結保存し、将来妊娠を希望する時期になったら、卵子を融解して精子と受精させ、胚を作って子宮に移植します。
月経を待たずに始められる「ランダムスタート法」
計画的な卵子凍結では、月経開始直後から卵巣刺激を行うことが多くあります。
しかし、がん患者さんの場合は、できるだけ早くがん治療を始める必要があり、時間に制約があります。
そこで、月経周期にかかわらず卵巣刺激を開始する「ランダムスタート法」が用いられることがあります。月経を待たずに始められるため、限られた時間の中でも卵子凍結を行える可能性があります。従来の方法と比較して採取できる卵子数はほぼ同程度とされ、2週間以内に採卵まで進めることが可能とされています。
ただし、すべての人に同じ方法が適用できるわけではありません。がんの種類や治療開始までの期間、卵巣の状態などを考慮して判断します。
また、乳がんでは、卵巣刺激に伴う女性ホルモンの上昇に配慮した卵巣刺激法が検討されることもあります。
5.乳がんの場合、治療後はいつ妊娠を考えられる?
乳がんと診断された場合、「治療後に妊娠できるの?」「いつから妊娠を考えていいの?」と不安になる人もいるでしょう。
乳がんの治療後でも、妊娠・出産を目指すことは可能です。ただし、妊娠を考える時期は、がんの種類や進行度、治療内容、ホルモン受容体の有無などによって異なります。
特にホルモン受容体陽性乳がんでは、数年間のホルモン療法を行うことがあります。その場合、治療を一時的に中断して妊娠を目指す選択肢が検討されることもあります。
POSITIVE試験では、ホルモン受容体陽性の早期乳がん患者を対象に、一定期間ホルモン療法を受けた後に治療を一時中断して妊娠を目指す方法が検討されました。短期的な追跡では、妊娠を目指すための治療中断によって乳がんの再発リスクが明らかに高くなる結果は示されていません。
ただし、「治療後○年たてば必ず妊娠できる」という一律の基準があるわけではありません。
妊娠を希望する場合は、主治医と生殖医療を専門とする医師に相談し、治療計画と将来の妊娠について一緒に考えることが大切です。
6.妊孕性温存には助成制度もある
妊孕性温存は自費診療となるため費用負担が大きいですが、国や自治体による助成制度があります。厚生労働省では「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」を実施しています。ただし、対象年齢や対象となる治療、指定医療機関などの条件があり、自治体によって制度の内容も異なります。
「費用が心配だから」と最初からあきらめず、主治医や妊孕性温存を実施する医療機関に相談してみましょう。
7.もし自分ががんになったら?|治療と、その先の人生を一緒に考える
もし自分ががんと診断されたら、病気のことで頭がいっぱいになるかもしれません。
「治療はどうなる?」「仕事はどうしよう?」「結婚や出産は?」「将来、子どもを持てる?」
そんなときに覚えておいてほしいのが、「将来、子どもを持つ可能性を残したい」と主治医に伝えていいということです。
がんの治療を優先することはもちろん大切です。でも、治療を始める前に妊孕性への影響について知り、必要であれば妊孕性温存を検討することも、これからの人生を考えるうえで大切な選択肢です。
「将来の妊娠の可能性を残したいので、妊孕性温存について相談したいです」
そう伝えることから始めてみましょう。必要に応じて、生殖医療の専門医や妊孕性温存を実施している医療機関につないでもらうことができます。
もちろん、卵子や胚を凍結保存したからといって、将来必ず妊娠できるわけではありません。また、がんの種類や治療内容によって、妊孕性への影響や温存できる方法も異なります。
だからこそ大切なのは、「知らないまま治療を始めない」こと。
がんを治すことと、その先の人生を考えること。そのどちらも大切にしていいのです。
仕事を続ける。大切な人と暮らす。結婚する。子どもを持つ。
がんの治療が終わった後にも、人生は続いていきます。
乳がんを知ることは、自分や大切な人の未来について考えること。ピンクリボン月間をきっかけに、がんと、その先の人生について考えてみませんか。
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浅田レディースクリニック 理事長 浅田義正(あさだよしまさ)
日本でも有数の体外受精成功率を誇り、愛知・東京でクリニック展開する「医療法人浅田レディースクリニック」の理事長を務める。海外での体外受精研究実績を持ち、顕微授精の第一人者。妊娠という“結果“を重視した「浅田式」不妊治療を行っている。