ファッションエディター 三尋木奈保が語る! 愛着が湧くジュエリー
三尋木奈保
1973年生まれ。メーカー勤務後、雑誌好きが高じてファッションエディターに転身。装いと気持ちのかかわりを敏感にとらえた視点に支持が集まる。おしゃれルールをまとめた著書『マイ ベーシック ノート』(小学館)は2冊累計18万部のベストセラーに。
モダンな迫力は私にとっては冒険だけれど、停滞していたおしゃれが新しい方向へ、ぱぁっと開いていくのを感じました
「新しい価値観に気づかせてくれる出合いって、ある日突然ポンと降ってくるもの。知らなかった世界に目が開かれていくスピード感、体中の血がシュワッと沸き立つような高揚は、めったに味わえるものではありません。
私の場合は5年前、マルコム ベッツを知ったときが、まさにそれ。仕事でバーニーズ ニューヨークを訪れた際、アテンドしてくれた店頭の女性の手元に、一瞬で惹きつけられました。
なんて素敵なジュエリーなんだろう。デザイン違いのブレスレットやバングル、大小のリングがいくつも重ねられ、かなりボリュームがありながらも現代的な気品を放っています。この白い輝きは、ホワイトゴールドかしら…。クールとラグジュアリーが共存する見たこともないバランスが、新鮮なパンチとなって目に飛び込んできたのです。
すぐに女性にジュエリーのことを褒めると、ロンドン発の、男性デザイナーのブランドであること、すべて彼の手作業で、ノッティングヒルの工房で一点ずつつくられていること、白い輝きはホワイトゴールドではなくシルバーで、ハンマリングという独特な加工を施しているため、毎日身につけるほどに、摩擦でどんどん輝きが増していくことを、愛おしそうに話してくれました。
そんなストーリーにも共感して、ああ、今の私に必要なのは、このジュエリーだと確信したんです」(三尋木さん)
名品:「マルコム ベッツ」のジュエリー
▲ジュエリー/すべて本人私物
「表面に手作業で多面的な凹凸をつけているのがマルコム ベッツの特徴。シルバーの輝き方が本当にきれいで惚れ惚れ。イエローゴールドは黄みの強い22金で、モダンな美しさがあります」(三尋木さん)
日本ではバーニーズ ニューヨークのみで販売。
「それまで、服もジュエリーも上品でシンプルなものが好きだったけれど、年齢を重ねるうちに、ときに自分が地味に見える気がして、モヤモヤを感じていたころでした。
このジュエリーのモダンな迫力は私にとっては冒険だけれど、停滞していたおしゃれが新しい方向へぱぁっと開いていくようで、そのわくわく感の、なんと爽快だったことか。
そうして最初に手に入れたのは、中央に小さなダイヤモンドが埋め込まれた、大ぶりなシルバーリング。シルバーとダイヤを組み合わせてしまう既成概念にとらわれない感覚も、軽やかで今っぽいのです。
コロナ禍前は、半年に一度マルコム氏が来日し、バーニーズの店頭で自ら接客するトランクショーがあり、そのたびに少しずつコレクションを増やしてきました。
見立ててもらったリングやブレスレットは、宝物。マルコムさんは知性とクリエイティビティを感じるおだやかな紳士で、人柄に触れると作品にもいっそうの愛着が湧いてきます。いつかノッティングヒルの工房を訪ねてみたいなぁ」(三尋木さん)
2022年Oggi2月号「私とおしゃれのモノ物語」より
撮影/生田昌士(hannah) プロップスタイリスト/郡山雅代(STASH) 構成/三尋木奈保
再構成/Oggi.jp編集部